新語時事用語辞典とは?

2013年12月4日水曜日

ニホンウナギの完全養殖

読み方:ニホンウナギのかんぜんようしょく
別名:ウナギの完全養殖

ニホンウナギの孵化から成長、産卵に至る全ての段階を、人工的に制御された環境下で行わせること。

日本では、来遊した稚魚(シラスウナギ)を捕獲し、種苗として育てる養殖が明治時代の1879年から行われてきた。現在流通しているニホンウナギは、輸入品を含め、ほぼ全てが稚魚から養殖生産されたものである。しかし、ニホンウナギは近年生息数が減少しており、稚魚の漁獲量も減少傾向にある。2013年には環境省によってニホンウナギが絶滅危惧IB類に指定されるまでに至り、養殖の種苗となる稚魚を安定的に確保するために、完全養殖の実現が望まれていた。

ニホンウナギは、仔魚(レプトセファルス)から稚魚(シラスウナギ)に成長する段階の飼育が難しく、大多数が死んでしまうことから、養殖には困難が伴った。独立行政法人水産総合研究センターは餌やホルモン投与法などの改良を繰り返した結果、2003年に世界で初めて仔魚を稚魚にまで成長させ、稚魚の人工生産に成功したが、生存率は低く、実用化および完全養殖の実現にはさらなる研究が必要とされた。

ニホンウナギの完全養殖にあたっては、それまで多くが謎に包まれていたニホンウナギの生活史を明らかにする必要があった。東京大学海洋研究所の研究グループが外洋での生態調査を行った結果、2006年にニホンウナギの産卵場所がマリアナ海嶺付近であることが確定し、2009年には産卵場所からの天然卵の採取に初めて成功した。その過程で仔魚が生育する温度や産卵行動の一部が判明した。これらの成果を踏まえて飼育法の改良が行われた結果、2010年に独立行政法人水産総合研究センターにおいて、世界で初めてニホンウナギの完全養殖が成功した。

その後、2012年に東京大学海洋研究所の研究グループが、仔魚の餌がプランクトンの糞や死骸などからなる「マリンスノー」であることを明らかにしたほか、人工飼料の改良も進み、仔魚の生存率が約9割にまで向上した。2013年12月現在、ニホンウナギの完全養殖は実用化の目途が立ったといわれている。

関連サイト:
特集1 養殖技術開発の最前線(5) - 農林水産省

クロマグロの完全養殖

読み方:クロマグロのかんぜんようしょく
別名:マグロの完全養殖

マグロの中でも特に高級とされるクロマグロの、孵化から成長、産卵に至る全ての段階を、人工的に制御された環境下で行わせること。

日本は世界で有数のクロマグロの消費国で、主に地中海産の大西洋クロマグロや、メキシコ産の太平洋クロマグロを輸入してきた。しかし、クロマグロが生息数の減少に伴い漁獲規制の対象となり、輸入禁止措置が取られるおそれもあったことから、完全養殖の実現が望まれていた。

クロマグロの完全養殖は1970年に水産庁がプロジェクトとして取り組み始めたのをきっかけに、近畿大学水産研究所で研究が行われてきた。しかし、クロマグロの稚魚(種苗)は環境の変化や刺激に弱く、共食いする性質があることなどから、しばしば大量死を起こし、完全養殖の実現には困難が伴った。

2002年に近畿大学水産研究所は、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したことを発表した。このマグロはのちに「近大マグロ」の名で知られるようになり、2013年12月現在、近畿大学のベンチャー企業である株式会社アーマリン近大を通じて流通されているほか、大阪・梅田や東京・銀座に近大マグロを提供する飲食店がある。また、複数の企業がクロマグロの養殖事業に参入しており、近畿大学の技術を基にして商業ベースでの養殖に取り組んでいる。

関連サイト:
クロマグロなどの魚の養殖、種苗生産、品種改良 - 近畿大学水産研究所

ミシェル・ジョトディア

別名:ミシェル・アン=ノンドクロ・ジョトディア
別名:Michel Djotodia
別名:Michel Am-Nondokro Djotodia

1949年生まれとされる、中央アフリカ共和国の政治家。2013年3月に中央アフリカ共和国でクーデターを起こして政権を掌握し、8月に正式に大統領に就任した。

ミシェル・ジョトディアは2012年から、複数の軍事勢力からなる反政府連合「セレカ」の指導者として、フランソワ・ボジゼ大統領率いる中央アフリカ共和国政府軍との戦闘を続けてきた。

2013年3月のセレカによる首都バンギの制圧後、ミシェル・ジョトディアは大統領への就任を宣言したが、このクーデターをアフリカ連合は非難し、ジョトディアの大統領就任を認めなかった。その後、アフリカ連合からの要求を受けて暫定評議会が設けられたが、ジョトディアはこの評議会で大統領に立候補し、8月には正式に大統領に就任した。就任式にはコンゴ共和国のドニ・サスヌゲソ大統領も出席した。

2013年3月以降、首都バンギを中心に、セレカの構成員による略奪、強姦、殺人などの人道に反する行為が多数報告されている。ミシェル・ジョトディアは9月にセレカの解散を宣言したが、12月現在、治安の回復には至っておらず、国際連合安全保障理事会が中央アフリカ共和国へのPKO派遣の検討を行っている。

セレカ

別名:Séléka
別名:Séléka CPSK-CPJP-UFDR

かつて中央アフリカ共和国で活動していた、CPSK、CPJP、UFDRなど複数の軍事勢力からなる反政府連合。「セレカ」はサンゴ語で「同盟」を意味する。セレカは2012年から反政府活動を行い、諸都市を侵攻して支配下に置いていたが、2013年3月に首都バンギを制圧し、フランソワ・ボジゼ大統領を追放した。ボジゼ大統領追放後は、セレカの指導者であるミシェル・ジョトディアが大統領に就任した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によると、セレカの構成員は、中央アフリカ共和国の各地で略奪、強姦、殺人などの人道に反する行為を行ってきたとされる。国際連合安全保障理事会はセレカによる政権掌握を非難し、アフリカ連合は2013年3月に中央アフリカ共和国の加盟資格を停止した。

セレカを構成する軍事勢力は、反政府、反ボジゼ大統領という点では結束していたが、共通の理念は持っていなかったとされている。政権掌握後、セレカの構成員に賃金不払いが生じたことから不満が高まり、治安が悪化したと報じられた。2013年9月に、ミシェル・ジョトディアはセレカの解散を宣言したが、2013年12月現在、治安回復には至っていない。2013年11月には、大量虐殺が発生するおそれがあるとして、国際連合安全保障理事会が中央アフリカ共和国へのPKO派遣の検討を始めた。

関連サイト:
Central African Republic - Human Rights Watch

フランソワ・ボジゼ

別名:フランソワ・ボジゼ・ヤングヴォンダ
別名:François Bozizé
別名:François Bozizé Yangouvonda

1946年生まれの、ガボン生まれの中央アフリカ共和国の政治家。2003年から2013年にかけて、中央アフリカ共和国の大統領を務めた。

フランソワ・ボジゼは1970年代に共和国軍の軍人となり、2001年まで、当時の中央アフリカ共和国大統領、アンジュ=フェリクス・パタセの部下として軍の幕僚長などを務めた。しかし、2001年のパタセ大統領へのクーデター未遂事件をきっかけに、ボジゼとパタセの仲は険悪となり、以後ボジゼは独自の勢力を率いて反政府活動を行うようになった。ボジゼは2003年にクーデターを起こし、パタセ大統領を追放するとともに、自らが大統領に就任した。

フランソワ・ボジゼを指導者とする中央アフリカ共和国政府は、2004年から反政府勢力「統一民主勢力連合(UFDR)」と内戦状態にあったが、2007年に和平交渉が成立した。しかし、その後UFDRとの関係が悪化し、政府は新たにUFDRと複数の軍事勢力が連合した反政府組織「セレカ」と対立することになった。

ボジゼ大統領は、ダイヤモンドやウランなどの資源提供などを見返りとして南アフリカ政府の支援を受け、セレカの鎮圧にあたっていたが、2013年3月にセレカによって首都バンギが制圧された。これに伴い、ボジゼは大統領の座を失って国外へ逃れた。なお、その後、ボジゼの自宅から2体の白骨遺体が発見されるという出来事が起こった。

張成沢

別名:チャン・ソンテク
別名:장성택
英語:Jang Sung-taek

1946年生まれの、北朝鮮の政治家。金正日の妹、金敬姫の夫であり、金正恩の叔父にあたる。

張成沢は2010年から国防委員会副委員長を務め、金正日の側近の地位にあった。張成沢は、金正日の病状の悪化に伴って実質的な北朝鮮の指導者として振る舞っていたと見られており、金正日の死後は、最高指導者となった金正恩の後見人として、金正恩の権力基盤の強化に貢献してきたといわれている。張成沢は、2011年に初めて軍服姿で現れたが、この時「大将」の地位にあることが確認されたとともに、政治運営のみならず軍に対しても強い影響力を持っていることが示唆された。張成沢は、金正恩政権の内部で度々行われてきたとされる粛清を、実質的に主導してきたともいわれる。

2013年12月に韓国国家情報院は、張成沢が全ての役職を解かれて失脚するとともに、張成沢直属の部下であった党行政部部長の李竜河および副部長の張秀吉が公開処刑されたと報じた。その理由は定かではないが、朝鮮人民軍総政治局長の崔竜海との権力争いに敗れたのではないかといわれている。

陸上幕僚監部運用支援・情報部別班

読み方:りくじょうばくりょうかんぶうんようしえんじょうほうぶべっぱん
別名:別班
別名:DIT
別名:陸上幕僚監部第二部特別勤務班
別名:ムサシ機関

陸上自衛隊の秘密情報部隊とされる組織。2013年12月現在、陸上自衛隊および防衛省は、この部隊の存在を否認している。陸上幕僚監部は防衛省に所属する特別の機関で、主に陸上自衛官からなるが、「別班」も諜報活動に関する教育を受けた陸上自衛官から構成されるといわれている。

2013年11月に共同通信は、「別班」が首相や防衛庁長官などの指揮監督を受けず、独断で海外での諜報活動を行ってきたと報じた。活動は冷戦期に始まり、対象となる国家は主に旧ソ連、中国、北朝鮮などであったとされる。報道を受けた各メディアは、この行為が文民統制(シビリアンコントロール)からの逸脱にあたるとして問題にした。

なお、陸上幕僚監部運用支援・情報部別班の存在が示唆されたのはこれが初めてではなく、2010年には朝日新聞の取材に対して元関係者が証言した例がある。この証言によると、「別班」は在日米軍の情報部門と連携関係にあり、「別班」構成員は米軍の指導で諜報活動を学んだという。同年にはこの証言を基に、講談社から「日米秘密情報機関 「影の軍隊」ムサシ機関長の告白」が刊行されている。

原野商法の二次被害

読み方:げんやしょうほうのにじひがい
別名:原野商法の2次被害

過去に原野商法の被害に遭った人が、原野商法の被害者を対象とした詐欺の被害に遭うこと。原野商法とは「必ず高く売れる」などと持ちかけて資産価値のない土地を購入させる詐欺であり、1970年代からバブル期にかけて横行した。

「原野商法の二次被害」は具体的には、原野商法に乗せられて資産価値のない土地を買った人に対して、その土地の資産価値が高まるとして除草、造成、測量、広告などの高額な契約を持ちかける行為を指す。その際には、「資産価値が高まれば必ず売れる」「道路の建設計画がある」などと根拠のない事実を告げたり、土地の買い手がいるという虚偽の事実を「買付証明書」を見せるなどして信じ込ませたりする手口がある。このような行為は、消費者契約法違反の「不実告知」や「断定的判断の提供」、「不利益事実の不告知」などに相当する。

独立行政法人国民生活センターによると、原野商法の二次被害と見られる事例は2003年頃から報告されてきたが、2011年頃から急激に増加している。原野商法の被害者が高齢になり、相続が近づくにつれて土地を処分したい欲求が高まっていることが原因の一つだと見られている。実際に、原野商法の被害者のほとんどが60歳以上の高齢者であることが知られている。

第二列島線

読み方:だいにれっとうせん
別名:第2列島線
別名:第二岛链

中国人民解放軍が主に米国を仮想敵国と見なし、軍事上設定したラインのこと。第二列島線は、伊豆諸島、小笠原諸島、マリアナ諸島などを結んでニューギニア島に至るラインで、沖縄や台湾を結ぶ「第一列島線」よりもさらに中国から見て外側に位置する。

中国人民解放軍は、「領域拒否」戦略の一環として、2020年までに第二列島線内側の制海権を確保することを目標としているとされる。それが実現すれば、中国の米国に対するアクセス拒否能力が高まり、米国のアジア地域に対する影響力が大幅に減少すると予想されている。

近年、中国は海軍力を増強する傾向にあり、それに伴って第一列島線の外側に進出する機会も増加している。また、中国は第二列島線の内側にある沖ノ鳥島を、国際法上の「島」ではないと主張しており、2013年には沖ノ鳥島沖の日本の排他的経済水域に海洋調査船を複数回侵入させる違法行為を行った。中国の軍拡を脅威と見なす人の中には、第二列島線の設定を米国への対抗に留まらない、中国の領土獲得への野心の表れだと捉える人もいる。

まいど1号

読み方:まいどいちごう

大阪府東大阪市の中小企業を中心として2002年に設立された「東大阪宇宙開発協同組合(現・宇宙開発協同組合SOHLA)」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東京大学との連携により開発した超小型人工衛星。まいど1号は、2009年にH-IIAロケットに搭載され、成功裏に打ち上げが完了した。

「まいど1号」の開発は、中小企業のものづくりを活性化し、東大阪市に航空宇宙産業を根付かせることを主な目的として行われた。「まいど1号」が打ち上げられた2009年には、このプロジェクトに触発されて、東京・千葉で産学官連携の深海探査機開発プロジェクト「江戸っ子1号プロジェクト」が始まった。

関連サイト:
宇宙開発協同組合 SOHLA

ドラッグデリバリーシステム

別名:薬物伝達システム
別名:薬物輸送システム
別名:薬物送達システム
英語:Drug delivery system
英語:DDS

薬剤の動態を量的・空間的・時間的に制御し、目標の患部や病原体などに的確かつ集中的に作用させる技術。薬物動態学における研究対象である。

ドラッグデリバリーシステムに該当する例は多岐にわたるが、薬剤を膜などで包んだり、ナノテクノロジーを利用した専用のカプセルを用いたりして、体内で徐々に放出(徐放)させ、薬剤を目的部位まで届けるシステムはその一例である(放出制御型DDS)。また、薬剤のコーティングを工夫することにより、胃酸による分解を防ぐとともに、腸での吸収を効率化することが目指されることもある(吸収制御型DDS)。吸入により肺や気管支に直接薬剤を作用させるなど、経口投与や注射よりも効率的な投与方式の選択がドラッグデリバリーシステムの定義に含まれることもある。

ドラッグデリバリーシステムの中でも、近年特に盛んに研究が行われているのが、「標的指向型DDS」と呼ばれるシステムである。標的型DDSにもさらに細かい分類があるが、中でも「能動的標的指向型DDS(ミサイルドラッグDDS)」と呼ばれているシステムは、抗体や糖鎖などを用いて、薬剤に標的認識機能を付与することを軸としたシステムである。このシステムでは、薬剤をがん細胞や病原体の細胞のみに特異的に作用させることが目指されている。

ドラッグデリバリーシステムの利点としては、必要量以上の薬剤の投与を避けることができる点が挙げられる。これにより、薬剤の効果を最大限に発揮させるとともに、副作用を抑制することが可能になる。また、服用回数を少なくすることができる場合もあり、それによって患者と医療関係者の双方の負担が減少する。

医薬品の他には、化粧品にもドラッグデリバリーシステムの手法が応用されている例が多い。

プロドラッグ

英語:prodrug
別名:ドラッグ前駆体
別名:薬物前駆体
別名:医薬前駆体

それ自体は薬理活性を全くあるいはほとんど持たないが、体内で代謝されることにより活性化し、薬効を発揮する薬剤。

プロドラッグが投与されると、体内で加水分解や酵素による変換などを経て別の物質に変化し、その物質が薬理活性を示す。従来薬理作用を持つといわれていた物質が、のちの研究でプロドラッグであることが判明した例もある。

創薬においては、薬剤のプロドラッグ化は重要な手法の一つである。例えば、プロドラッグ化により経口投与が可能になったり、苦味が軽減されたり、水溶性が増大したりした例がある。また、「ロキソニン」などの商品名で市販されているロキソプロフェンは、プロドラッグ化により胃や腸への負担が少なくなっている。

プロドラッグ化は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の構築においても重要な手法の一つである。例えば、薬剤にキャリアーとなる高分子を付加し、標的に到達した時点でキャリアーが外れて活性化するという仕組みが採られることがある(受動的標的指向型DDS)。抗体や糖鎖の修飾により、薬剤に標的認識機能が付与される例もある(能動的標的指向型DDS)。


Rce1タンパク質

読み方:アールシーイーワンタンパクしつ
別名:Rce1
別名:Ras変換酵素1
別名:CAAXプレニルプロテアーゼ2
英語:Rce1 protein
英語:Ras converting enzyme 1

細胞内シグナル伝達に関与する「Rasタンパク質」に作用する酵素の一種。

Rce1タンパク質は細胞内の小胞体の膜上に存在し、Rasタンパク質が生成(翻訳)された後、Rasタンパク質に作用して構造を変換するはたらきを持っている。具体的には、生成されたばかりのRasタンパク質は、ファルネシル化と呼ばれる脂質修飾を受けた状態にあるが、Rce1タンパク質のはたらきによってファルネシル化された部分が切断される。Rasタンパク質は、Rce1タンパク質のこの作用を受けなければ活性化することができない。

Rasタンパク質の異常はがんの発生に繋がることから、従来Rasタンパク質やその関連タンパク質は抗がん剤のターゲットとされてきた。2013年に英国がん研究所や京都大学のグループにより、Rce1タンパク質の立体構造とRasタンパク質との反応機構が初めて明らかになり、これによってRce1タンパク質を特異的に阻害し、ひいては異常なRasタンパク質の活性化を阻害する薬剤の設計が可能になった。

関連サイト:
Mechanism of farnesylated CAAX protein processing by the intramembrane protease Rce1 - Nature
がんを引き起こす膜たんぱく質の立体構造と働きを解明~がんを抑制する薬剤の設計へ~ - JST

Rasタンパク質

読み方:ラスタンパクしつ
別名:Ras
英語:Ras protein

低分子GTP結合タンパク質の一種。Rasタンパク質はGTPと結合すると活性化し、GDPと結合すると不活性化するというスイッチのような性質を持っており、このON/OFFの状態の違いと切り替えのタイミングが、生体内での様々なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。

細胞の表面には受容体型チロシンキナーゼと呼ばれるタンパク質が結合しており、このタンパク質が細胞外の刺激を受け取ると、細胞内にあるRasタンパク質にシグナルを伝達する。シグナルを受けたRasタンパク質は、他のタンパク質の作用によってそれまで結合していたGDPと切り離され、新たにGTPと結合する。これにより、Rasタンパク質が活性化し、さらに下流へのシグナル伝達が行われる。シグナル伝達を終えたRasタンパク質は、再度GDPと結合して不活性化する。このシグナル伝達は全体的には、細胞の分化や増殖、代謝、老化など、様々な生体活動に繋がっている。

Rasタンパク質をコードしている、すなわちRasタンパク質のもとになる「ras」という遺伝子に異常が起こると、Rasタンパク質が常に活性化した状態になることがある。この時にはいわば、スイッチが常に入りっぱなしの状態になるため、細胞の成長や増殖が制御不能になり、その結果としてがんが発生することが知られている。

がんが発生する理由は様々だが、全てのがんの約15%から20%程度にRasタンパク質の異常が関与しているといわれている。そのため、抗がん剤の開発に際しては、Rasタンパク質やその関連タンパク質をターゲットとし、異常に活性化したRasタンパク質を阻害することが目指される例が多い。また、新たに生成(翻訳)された直後のRasタンパク質の活性化に関与する、小胞体膜上のRce1タンパク質をターゲットとした抗がん剤の開発に向けた研究も行われている。

ICT教育

読み方:アイシーティーきょういく
別名:情報通信技術教育
別名:情報コミュニケーション技術教育
英語:ICT in education
英語:ICT for education

学校教育の場に情報通信技術(ICT)を活用すること。具体的には、電子黒板やノートパソコン、タブレット型端末などを用いた教育を指すことが多い。広義のICT教育には、デジタルカメラやプロジェクターなどを用いた教育を含めることもある。

ICT教育の導入により、教師と生徒の間でのコミュニケーションや、生徒同士での学習内容の共有などがより容易に行われるようになり、手段の幅も広がるといわれている。ICT教育が生徒の主体的な学習活動への参加や、学習意欲、思考力、判断力などの向上に繋がることが期待されている。

2013年12月現在、総務省および文部科学省は、「フューチャースクール推進事業」や「学びのイノベーション事業」などのICT教育推進事業を行っており、その成果に基づき「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン」の策定を行っている。政府は、2019年度までに全児童生徒に一台ずつの情報端末を整備する予定だとしている。

ICT教育の導入にあたっては、ICTに対する教員側の理解度の低さが問題となることがあり、ICTを活用できる人材の育成が目指されている。また、ICTを正しく使うためのモラルやリテラシーの教育も重視されている。

関連サイト:
「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2013(小学校版及び中学校・特別支援学校版)」の公表 - 総務省

対外有償軍事援助

読み方:たいがいゆうしょうぐんじえんじょ
別名:有償援助調達
別名:有償の対外軍事援助
英語:Foreign Military Sales
英語:FMS

アメリカ国防総省が行っている、外国政府に装備品や役務などを有償で提供する制度。米国政府が窓口となり、政府間での協議によって成立する。援助の対象となる国は、米国の同盟国など、米国政府が適格と認める国に限られている。日本は日米相互防衛援助協定に基づいて対外有償軍事援助を利用している。

外国政府が対外有償軍事援助を利用するメリットとしては、必要な物資を比較的安く速く獲得できることがある。また、米国との軍事的な結びつきを強くすることができることも挙げられる。一方で、最新モデルの物資は援助の対象外だったり、完成品のみで技術提供が伴わなかったりするなどのデメリットがある場合もある。ステルス戦闘機の導入などにおいては、ライセンス生産の権利獲得に比べて、対外有償軍事援助の利用は条件的に不利だとされることが多い。

米国のオバマ政権は「輸出倍増」を掲げ、対外有償軍事援助を盛んに推進してきた。その結果、2012年度の対外有償軍事援助の総額は500億ドルを超え、過去最高額となった。

なお、対外有償軍事援助と異なり、企業から直接兵器を輸入することを「直接商業売却(DCS)」というが、直接商業売却も対外有償軍事援助と同様に、米国政府の認可が必要である。

関連サイト:
Foreign Military Sales - Defense Security Cooperation Agency(アメリカ国防総省)

標的指向型DDS

読み方:ひょうてきしこうがたディーディーエス
別名:標的指向型ドラッグデリバリーシステム
別名:ターゲティングDDS

生体内で薬剤を効率よく伝送し、効果を最大限に発揮させることを目指す「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」のうち、薬剤を目標の組織や病原体などに特異的に作用させる方法をとるもののこと。標的指向型DDSには、大きく分けて「能動的標的指向型DDS」と「受動的標的指向型DDS」の2種類がある。

「能動的標的指向型DDS」は、薬剤に抗体や糖鎖などを直接結合させたり、抗体や糖鎖を表面に付加したリポソーム、マイクロスフェア、ミセルのような微粒子運搬体を用いることにより、薬剤の作用対象を制御するタイプのDDSである。このDDSに基づいて開発された薬剤は、「ミサイルドラッグ」と呼ばれることもある。

「受動的標的指向型DDS」は、薬剤の粒子径や親水性などの物理的性質を変化させ、生体膜に対する透過性を調節するなどの手段で、薬剤の作用対象を制御するタイプのDDSである。代表例として、腫瘍組織のEPR効果を利用したDDSを挙げることができる。EPR効果とは、腫瘍組織に形成された新生血管の透過性が高くなる効果のことであり、この効果を考慮して抗がん剤の粒子径を調節することで、腫瘍組織に抗がん剤を特異的に作用させることが可能になっている。