新語時事用語辞典とは?

2020年2月21日金曜日

パワーハラスメント

別名:パワハラ

パワーハラスメントとは

パワーハラスメント(略称:パワハラ)とは、職場で自分の立場が優位であることを利用して、社内の人間に精神的・身体的に嫌がらせをしたり、過剰な叱り方をしたりして職場環境を悪くするような行為のこと。

パワーハラスメント(パワハラ)は、和製英語である。英語では、一般的には「power harassment」などとは言わず、abuse of authority(職権乱用)、あるいはworkplace bullying(職場でのいじめ)といった表現が用いられ、日本語のパワーハラスメントに対応する意味で使われている。欧米諸国では、単にbullying(いじめ行為)と呼ぶこともある。bullyingは、元々は子どもの間で行われる弱い者いじめを指す語であったが、昨今は職場におけるいじめ行為(すなわちパワハラ行為)を指す意味でbullyingの語が用いられることがある。

2019年5月に参議院本会議で可決・成立した改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)は、パワーハラスメントを職場における「優越的な関係に乗じ」、「業務上あってしかるべき範囲を逸脱した(過剰な)言動により」、「心身に苦痛を与えて就業環境を害する」、という3要素全てに該当する行為のことであるとしている。

パワーハラスメントは、必ずしも「上司が部下に対して行う」ものとは限らず、「部下から上司へ」、あるいは同僚の関係においても行われる場合もある。パワーハラスメントの要件に含まれる「優越的な関係」は、役職の上下関係だけでなく、経験や知識の豊富さ、あるいは職場の人間関係の良好さといった、優劣関係によっても生じる。そしてその優位にある者からから受ける行為が不適切なほど過剰であり、その過剰な行為を受けた当事者が精神的・身体的に苦痛を感じた場合、その行為はパワーハラスメントに該当する。

パワーハラスメントの種類

パワーハラスメント(パワハラ)は、その言動の内容に応じて、6種の類型に区分される。

殴る・蹴る・物を投げつけるといった直接的な攻撃行為は「身体的な攻撃」と呼ばれる。人前で必要以上に叱責したり、人格を否定するようなことを言ったりして相手の心を傷つける行為は「精神的な攻撃」と呼ばれる。無視したり、別室になどにおいて隔離したりして、社内あるいは部署から孤立した状態に置く行為は「人間関係からの切り離し」に該当する。

遂行・達成が不可能ほど過大なノルマを与え、しかも達成できなかったことを叱責する行為を「過大要求」という。立場や職能に全く釣り合わない低レベルな仕事しか与えなかったり、あるいは仕事を全く与えなかったりする行為を「過小な要求」という。そして、相手の私生活に過度に踏み込み、プライバシーを侵害される苦痛を与える行為が「個の侵害」と呼ばれる。

パワーハラスメントの事例

日本では近年、パワハラ問題が深刻な社会問題となっており、法廷でパワーハラスメントの有無が問われた事例も増えつつある。

亀戸労基署長事件

亀戸労基署長事件は、ある会社の社員が会社での業務が原因で出血性脳梗塞を発症したと当該社員の妻が亀戸労基署長に労災保険給付を求めた事件である。

脳梗塞を発症した社員の時間外労働時間は、発症前の1ヶ月間では80時間近くに達していたという。また、部長が社員を立たせたまま叱ることが1月に2回以上あった。時間外労働の多さと叱責の多さが大きなストレスとなり、脳梗塞の起因になったと認められ、パワーハラスメントがあったと認める判決が下された。

松蔭学園事件

高校の女性教論が担当や担任といった教員としての仕事が与えられず、隔離された環境に置かれるなどして、女性教員が精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求した事案である、高裁(控訴審)では職場においてパワーハラスメントがあったと認められ、被告である学校法人に損害賠償の支払いを命じた。

訴訟して法廷で争われた結果、パワーハラスメントがあっとは認められず、原告が敗訴した事例もある。

損保ジャパン調査サービス事件

同事件は、対人トラブルが多い傾向にあった社員が上司から退職を強要されたり威圧的・脅迫的な言葉を浴びせられたりし、さらに不当な移動も命じられたと主張し、損害賠償を求め提訴した事件である。原告は、上司から受けたストレスによってPTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、休職せざるを得なくなったと主張し、不法な嫌がらせ等の行為の有無を巡って争われた。

判決では、上司の言動には正当性がありパワーハラスメントとは認められず、パワーハラスメントには該当しないとされ、最終的にパワーハラスメントは認められないとする判決が下った。

判決は上司の指導や注意が(受けた当人には不満に感じられたとしても)職務上適切な範囲内であったと判断したわけである。

パワーハラスメントに関する日本における法整備、欧米諸国の事例

日本におけるパワーハラスメント対策は、通称「パワハラ防止法」の成立により法的に整備されつつある。「パワハラ防止法」の正式名称は、「改正労働施策総合推進法」という。パワハラ防止法により企業・事業者はパワーハラスメントを防止するために必要な措置をとることが必須となり、適切な措置が行われていない場合は、指導対象となる。

企業には、職場のパワハラ防止に関する方針の明確化や周知、パワーハラスメントの要因となり得る就業規則や就業規則の見直し・是正、職務として適正な言動とパワーハラスメントに該当する行動の線引きに関する教育・啓発、あるいは相談窓口の設置など、おのおの必要な対策を講じることが義務づけられる。

ルールや指針を決めるだけでなく、社員に対してのケアも必要である。パワーハラスメントの実態調査アンケート、パワーハラスメントについての社員研修、パワーハラスメントを受けた労働者の心のケアや再発防止策などの対策をしなければいけない。

パワハラ防止法は大企業では2020年6月に施行される。ただし施行当初は大企業に対して飲み設置義務が生じる。いわゆる中小企業は2022年4月からまでは努力義務と位置付けられ、猶予が設けられる。

欧米をはじめ諸外国でもパワハラを防止するための法整備が進んでいる。例えば、イギリスでは「ハラスメントからの保護法」(Protection from Harassment Act 1997)がハラスメント行為全般を禁じており、ハラスメント行為に対する損害賠償を請求可能としている他、ハラスメントを行った加害者に刑事罰を科することができるようになっている。

インバウンド

英語:inbound

インバウンドの意味、語源

インバウンド(英: inbound)とは、主に日本の観光業界において「外国人の日本旅行(訪日旅行)」あるいは「訪日外国人観光客」などの意味で用いられる語。インバウンドは、英語のinboundに由来する語である。英語のinboundは「内側」を意味する接頭辞in-と「~行き」を意味する語boundから成り立つ形容詞で、「本国行きの」「市内に向かう」といった意味がある。

日本におけるインバウンドの推移

インバウンド(日本を訪れた外国人観光客)の数は2000年代初め頃までは500万人程度だった。2003年に始まったビジット・ジャパン・キャンペーン、2007年の観光立国推進基本法施行、2008年の観光庁設置といったさまざまな施策により、インバウンドは2013年頃から急増し始めた。日本政府観光客(JNTO)によれば、訪日外客(=インバウンド)数は2017年には約2869万人、2018年には約3119万人、2019年には約3188万人となっている。国籍・地域別では、韓国、中国、台湾、タイなどの東アジア・東南アジアからの観光客が多数を占めている。

インバウンド増加に伴う問題点

インバウンド増加は経済振興をはじめとする好ましい影響をもたらすが、その一方で問題点もある。インバウンド増加の問題点としては、オーバーツーリズムや文化の違いによるマナー問題などが挙げられる。オーバーツーリズムとは、特定の観光地に大勢の観光客が集中し、許容限度を超えてしまっている状態のことである。オーバーツーリズムが発生すると、観光施設や宿泊施設がパンク状態に陥り、観光客の満足度が低下しやすくなる他、騒音や混雑などによる地域住民の生活環境の悪化なども懸念される。オーバーツーリズムが常態化している都市としてはロンドン、ベネチア、バルセロナなどがよく挙げられるが、インバウンドが急増している日本においても、京都、沖縄、岐阜の白川郷などでオーバーツーリズムによる問題が発生しており、早急な対策を講じることが望まれている。

文化の違いなどによる観光客のマナー違反の問題は、観光客に事前にマナーを周知する取り組みが求められる。そうした取り組みの実例としては、京都府が旅行口コミサイトのTripAdvisor(トリップアドバイザー)と連携しマナーに関するリーフレットを頒布した事例が挙げられる。

インバウンド消費・インバウンド需要、インバウンドビジネス

旅行で日本を訪れた外国人による宿泊・飲食・買い物などの消費行動は「インバウンド消費」あるいは「インバウンド需要」と呼ばれる。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8,113億円で7年連続で過去最高を更新した。同調査によると、一般の訪日外国人1人あたりの支出は15万8千円で、国籍・地域別ではオーストラリアが最も多く24万9千円、次いでイギリス(24万2千円)、フランス(23万8千円)となっている。

外国人観光客をターゲットとしたビジネス全般は「インバウンドビジネス」と呼ばれる。インバウンドビジネスに該当する分野は広範に及び、宿泊業や飲食業、観光施設事業などはもちろんのこと、外国人観光客が日本滞在中に購入する商品や利用するサービスなどはすべてインバウンドビジネスに該当すると言い得る。

インバウンドビジネスにおいては、いわゆる「インバウンド対策」をいかに講じるかが重要な課題となる。インバウンド対策とは、外国人観光客の消費体験の向上に特化した各種の施策の総称である。インバウンド対策の主な例としては、公共交通機関やデパートなどにおける通訳の配置、施設の案内表示や飲食店のメニューの多言語表記、免税レジの設置、Wi-Fi環境の整備、イスラム教徒向けのハラルフードの提供などが挙げられる。

インバウンド需要が期待できる業界


  • 百貨店・デパート・モール、家電量販店、ディスカウントストア、コンビニエンスストアなどの小売業
  • 食堂・レストラン、すし店、そば・うどん店、バー、料亭、居酒屋、ビヤホールなどの飲食業
  • 旅館、ホテル、簡易宿泊所などの宿泊業
  • 博物館、動物園、水族館、テーマパークなどのレジャー・サービス業
  • 鉄道、バス、タクシー、航空、船舶などの運輸交通業


インバウンドの対義語

インバウンドの対義語としては、アウトバウンド(英: outbound)が挙げられる。アウトバウンドは「日本人が諸外国を旅行すること」という意味で使われる用語である。インバウンドは官民による積極的な推進が成果を上げ、数字を伸ばし続けているが、アウトバウンドは2000年頃をピークにあまり大きな変化は見られない。しかし、近年はLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)の路線拡大なども影響してかアウトバウンドも増加傾向にあり、2019年には統計開始以来初の2,000万人を突破した。

インバウンドを使った例文


  • インバウンドは近年増加傾向にある。
  • オリンピックに向けてインバウンド対策を講じる必要がある。
  • インバウンド向けに古民家をリノベーションする。