新語時事用語辞典とは?

2022年3月23日水曜日

《ご自愛ください》の目上の人への言い換え

「ご自愛ください」の目上への言い換え表現

「ご自愛ください」を目上への表現に言い換える場合、「ご自愛くださいませ」となります。「ご自愛ください」には、尊敬語である「ください」が含まれているため、敬意を示す表現としては十分です。しかし、「ください」で締めくくる形では、命令形になってしまいます。そのため、目上に対して使用する場合は、「ます」を付け足して、丁寧な形にした方が良いです。

「ご自愛ください」の目上への言い換えの最上級表現

「ご自愛ください」を目上への最上級表現に言い換える場合、「どうぞご自愛くださいませ」という形にします。「どうぞ」は丁寧な要素を持つ副詞で、「心から願う」「どうにかして実現してほしい」といった意味があります。そのため、「どうぞご自愛くださいませ」と表現すると、相手が自分自身を大切にすることを心から願っている、相手がどうにか健康であってほしいと思うといった意味を込める形になります。相手の健康を強く願うということで、強い敬意を示せます。また、「どうぞ」と同様の意味を持つ「何卒」を用いて、「何卒ご自愛くださいませ」という最上級表現にもできます。

「ご自愛ください」の目上に対するビジネスメール・手紙での言い換え例文

「ご自愛ください」は、ビジネスメールや手紙の締めくくりに用いることがほとんどです。そのため、より丁寧な形にした「ご自愛くださいませ」も、文末で使用します。例文は「これから寒い季節となりますので、どうぞご自愛くださいませ」「無理をなさいませんよう、何卒ご自愛くださいませ」といった形になります。また、「どうぞご自愛くださいますよう、お願い申し上げます」という風に、格式張った表現をすることも可能です。

「ご自愛ください」を目上の上司に伝える際の表現

「ご自愛ください」の目上に対する表現である「ご自愛くださいませ」は、上司に対してもそのまま使用することができます。特に、立場が離れている上司に対しては、「どうぞご自愛くださいませ」という最上級の表現を使用することが望ましいでしょう。ただ、身近であり、なおかつ親密になろうとしてくる上司に対して「ご自愛くださいませ」を使用すると、距離を置こうとしているという印象を与えかねません。

そのため、少し砕けた表現の「ご自愛ください」や、「お身体を大事にしてください」といった別の表現を使用した方が良いかもしれません。また、上司に対して親しみを込め、なおかつ強い敬意を伴った表現をするのであれば、「ご自愛くださいませ」よりも、「どうぞご自愛ください」の方が好ましいです。

「ご自愛ください」を目上に対して言い換える際の誤用表現・注意事項

「ご自愛ください」を目上に対して使用する場合、より丁寧な形にしようとして、「お身体をご自愛ください」という表現にしてしまわないように注意しましょう。「ご自愛ください」という言葉には、「自分自身を大切にしてください」という意味があります。そこには、「身体を大切にしてください」という意味がすでに含まれています。そうであるにもかかわらず、「お身体をご自愛ください」という表現にすると、意味が二重になってしまいます。したがって、「お体をご自愛ください」という表現は間違いだということを把握しておいて、使用しないようにしましょう。

また、「ご自愛ください」は、健康な人に対して、自分自身を大切にするよう促す表現です。すでに体調を崩していたり、怪我をしていたりする人に対して使用することはできません。そして、それは目上に対する表現にした場合も同じです。したがって、健康でない人に対して、自分自身を大事にするよう伝える場合は、「お大事になさってくださいませ」という表現を使用します。一般的には「お大事に」という身近い形で使用することも多いですが、目上の人に対して使用するのであれば、尊敬語が含まれている「なさってください」の部分を忘れないようにしましょう。

「ご自愛ください」の目上に対する言い換え表現

「ご自愛ください」を目上に対して言い換える場合、「ご自愛専一になさってくださいませ」という表現が使用できます。「ご自愛専一」は、「身体のことを第一に考える」という意味を持った言葉です。そこに尊敬語である「なさる」を組み合わせる形で、「ご自愛専一になさってください」となります。「なさる」と「ください」という2つの尊敬語を組み合わせる形ですが、「ください」は「なさる」に続くのではなく、「ご自愛専一になさる」全体にかかっている形なので、二重敬語ではありません。そのため、文法的に正しい形で、尊敬語を2つ使用できます。したがって、目上の人に対する表現として最適です。

また、「ご健康をお祈り申し上げます」や「お健やかにお過ごしくださいませ」といった表現も、「ご自愛ください」の言い換えとして使用することができます。どちらも健康を示唆する文字が使用されているため、目上の人の健康を願うという意思が伝わりやすいです。「お健やかにお過ごしくださいませ」は、「ご自愛くださいませ」と同様に、尊敬語の「ください」と丁寧語の「ます」を組み合わせてある形です。「ご健康をお祈り申し上げます」の方は、「申し上げます」の部分が謙譲語となっていて、目上の人に強い敬意を示せるようになっています。

《おかげさまで》の目上の人への言い換え

「おかげさまで」の目上への表現

「おかげさまで」は、一般的に感謝を伝えるために用いる言葉で、そのまま目上に対する表現として使うことが可能です。「おかげさま」の「おかげ」は神仏の加護を意味する「お陰」が元になっています。「おかげさまで」では、相手自身を神仏に近い存在として讃えたり、相手の助けを神仏の加護のように表す形です。その上、「さま」を付け加えるため、「おかげさまで」を使用すると、相手に対して強い敬意を示すことができます。

その「おかげさまで」をどうしても言い換えなければならない場合は、「お力添えがあってこそ」や「ご支援のおかげで」といった表現を使用すると良いでしょう。「おかげさまで」という表現は、相手の手助けや指導によって、目的を果たせたり、問題を解決できたりしたという意味を持ちます。その、相手の手助けや指導は、「力添え」や「支援」といった言葉で表すことができます。そして、目上の人に対する表現なので、「お力添え」や「ご支援」という風に丁寧な形にします。

「お力添え」は「お力添えのおかげで」のような他の表現をすることも可能ですが、「お力添えがあってこそ」という慣用表現があるため、他の言い回しをする必要はありません。また、「おかげさまで」に近い言い換えとしては、「おかげをもちまして」という表現があります。

「おかげさまで」の目上への最上級の表現

「おかげさまで」の言い換え表現である「お力添えがあってこそ」や「ご支援のおかげで」、「おかげをもちまして」などは、いずれもかしこまった表現です。そして、相手に対する尊敬の度合いに特に差はありません。したがって、どれを選択したとしても、目上に対する最上級の表現となります。

「おかげさまで」の目上へのビジネスメール・手紙での例文

「おかげさまで」は基本的に、ビジネスメールや手紙の文頭に置きます。そのため、「おかげさまで」に近い言い換え表現である「おかげをもちまして」も、同様に文頭に置いて使用します。その際の例文は、「おかげをもちまして、無事プロジェクトを成功させることができました」「おかげをもちまして、長年の問題の解決に至りました」となります。

「お力添えがあってこそ」や「ご支援のおかげで」も、同様に文頭に置く点は同じですが、誰の力添えや支援なのかを明確に示す必要があります。したがって、例文は「皆様のお力添えがあってこそ、弊社の業績は回復しました」「お客様のご支援のおかげで、ようやく商品開発に着手できることとなりました」といった形になります。また、「皆様のお力添えがなければ、計画は成功しませんでした」というような表現をすることも可能で、基本的な意味合いは変わりません。

「おかげさまで」を目上の上司に伝える際の言い換え表現

目上かつ立場が離れている上司に対して、「おかげさまで」の言い換え表現を使用する場合、「お力添えがあってこそ」「ご支援のおかげで」「おかげをもちまして」のどれを選択しても問題はありません。いずれも最上級の表現なので、立場が離れている上司に対して使用しても、失礼な対応にはならないです。そして、「お力添えがあってこそ」あるいは「ご支援のおかげで」を使用するのであれば、「課長のお力添えがあってこそ」「部長のご支援のおかげで」という風に、相手の役職や名前を前に置くことを忘れないようにしましょう。

身近な上司に対して使用する際に最適なのは、「おかげさまで」です。「おかげさまで」という表現は、一般的な日常会話でも使用されることが多い上に、かしこまりすぎていません。「お力添えがあってこそ」「ご支援のおかげで」「おかげをもちまして」などの表現では、堅苦しい印象を与える恐れがあります。したがって、わざわざ言い換えをすることなく、「おかげさまで」を使用した方が良いです。

「おかげさまで」の言い換えを目上に対して使用する際の誤用表現・注意事項

「おかげさまで」は原則として、目標達成や問題解決など、良いことがあった際に使用する表現です。その点は言い換え表現であっても変わらず、悪いことがあった際には使用しません。悪い意味で使用した場合、文法的にも間違った形になることがほとんどです。「力添え」や「支援」を使うのであれば、悪い意味の表現をする場合は、「力添えが足りなかったから」「支援不足で」といった表現になるため、間違えることはないでしょう。しかし、「おかげをもちまして」は、悪い意味で使用しても、違和感が生まれにくいので要注意です。「おかげをもちまして、失敗しました」「おかげをもちまして、業績が悪化しました」のような表現をしないようにしましょう。

「おかげさまで」の目上への他の言い換え表現

「おかげさまで」の言い換えには、「ご助力のおかげで」や「ご協力があって」、「ご後援があったからこそ」といった表現があります。「助力」「協力」「後援」のいずれも、相手の手助けや指導を意味する言葉です。具体的な意味はそれぞれ異なるため、相手の手助けや指導の頻度と規模に合わせて使い分けると良いでしょう。そして、使い方のルールは厳密には定まっていないため、「ご助力があって」「ご協力があったからこそ」「ご後援のおかげで」という風に、細かな表現は変えても問題はありません。

また、「ありがたいことに」という言い換え表現もあります。相手の手助けや指導をありがたいものだとする表現で、「おかげさまで」とそのまま置き換えても、特に問題なく意味は成立します。ただ、「おかげさまで」は相手に感謝する意味であるのに対して、「ありがたいことに」は良い結果になった状況に感謝するという意味合いがあります。したがって、相手に明確な感謝の意思を伝えるつもりであれば、「ありがたいことに」ではなく「おかげさまで」を使用した方が良いです。

《お疲れ様です》の目上の人への言い換え

「お疲れ様です」の敬語表現

「お疲れ様です(おつかれさまです)」は相手をねぎらう意味の挨拶言葉です。相手の疲れたという状態に丁寧の接頭語の「お」、接尾語の「様」をつけ、更に丁寧語の助動詞「です」をつけることで、疲れましたね、大変でしたね等のねぎらいの気持ちを礼儀正しく表したものです。

もともとは疲れが出てくる一日の終わりに「こんばんは」の意味で使われていましたが、現代では「こんにちは」の代わりにも使われます。特にビジネスシーンにおいて多用され、出社時や終業時の挨拶として、または電話やメールでの挨拶として日常的に使用されます。社員同士が廊下ですれ違うような場合の声掛けに使われることもあります。会社内において、立場や上下関係に関わらず使うことのできる最も一般的な挨拶言葉です。

「お疲れ様です」の敬語の最上級の表現

「お疲れ様でございます」が最も丁寧な表現です。もともと敬語である「お疲れ様」に、「です」を更に丁寧に言い換えた「ございます」をつけます。一日の終わりであれば「お疲れ様でございました」としても良いでしょう。

また相手をいたわるひと言を付け加えると更に丁寧な印象になります。例えば寒い日には「寒いなかお疲れ様でございます」としたり、仕事の後には「お仕事お疲れ様でございました」「ありがとうございます、お疲れ様でございました」としたりするとより敬意のこもった表現となり、ねぎらいの気持ちが伝わります。

「お疲れ様です」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

社内メール・手紙では「お疲れ様です。○○部の○○です」とするのが一般的です。用件の前に挨拶と名乗りを入力、記述します。

・お疲れ様です。○○部の○○です。ご質問頂いた件について報告致します。
・○○さん、お疲れ様です。○○です。シフトを交換して頂きありがとうございます。
・お疲れ様でございます。○○店の○○です。先日はご足労頂きありがとうございました。
・お疲れ様でございます。○○課の○○です。皆様には大変ご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます。

また社内で電話をかける、電話を受ける場合も同様に挨拶として、用件の前に使います。ただし社外へのメール・手紙・電話では「お疲れ様です」という表現は用いません。ねぎらいの意味をもつ「お疲れ様です」は社内では目上の相手に用いて問題ありませんが、社外の相手には失礼に当たる場合があります。代わりに以下のように言い換えます。

・いつもお世話になっております。○○社の○○です。
・おはようございます。○○社の○○です。
・ありがとうございます。○○社の○○でございます。

「お疲れ様です」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対してはより丁寧に「お疲れ様でございます」「お疲れ様でございました」を用います。「暑いなかお疲れ様でございます」や「雨のなかお疲れ様でございます」など相手をいたわるひと言を付け加えるとより丁寧な印象になります。また仕事の終わりには「お疲れ様でございました。お気をつけてお帰りくださいませ」などとしても良いでしょう。

仕事に直接関わった上司には「お手伝い頂きありがとうございます。お疲れ様でございます」や「ご指導ありがとうございます。お疲れ様でございました」などの感謝の言葉を添えるとより丁寧です。

「お疲れ様です」は相手が仕事をして疲れているだろうことへのねぎらいを表しますので、朝の挨拶には「おはようございます」を使う方が無難です。ただ、朝の挨拶にも「お疲れ様です」を使うことが慣例化されている会社では上司に対して使用しても問題ありません。また上司が外回りなどから帰って来た場合には「お疲れ様です」の代わりに「お帰りなさいませ」と言い換えることもできます。

「お疲れ様です」の敬語での誤用表現・注意事項

「お疲れ様です」は一般的に社内の人に対して使います。疲れをねぎらう「お疲れ様」は似た言葉の「ご苦労様」とともに、もともとは目上の人が目下の人にかける言葉でした。後に「お疲れ様です」が使いやすい言葉であることから会社内の挨拶として定着し、部下が上司に対して使っても失礼ではない言葉となりましたが、もともとは目下の人に使う言葉であったことは覚えておきましょう。社内では問題ありませんが、社外の人に使うと失礼に感じ取られる場合があるので注意が必要です。社外の人には「おはようございます」「こんにちは」「お世話になっております」などの挨拶を用いるのが良いでしょう。

同僚、後輩に対しては「お疲れ様でございます」は挨拶としてはかしこまりすぎるので「お疲れ様」「お疲れ様です」とした方が適しています。また、「ご苦労様です」は「お疲れ様です」とほぼ同じ意味ですが、慣例として目下の人に使う言葉とされています。特にビジネスシーンでは失礼に当たり、マナー違反となることもあるので注意しましょう。

「お疲れ様です」の敬語での言い換え表現

・お疲れ様でございます
・お疲れ様でございました
・大変お疲れ様でした
・大変お疲れ様でございました
・お疲れになったでしょう
・行ってらっしゃいませ
・お帰りなさいませ
・素晴らしいご活躍でございました
・お骨折りを頂きました
・ご指導くださりありがとうございます、お疲れ様でございました
・お疲れ様でございました、お仕事を拝見させて頂き大変参考になりました。

《見る》の丁寧語

「見る」の丁寧語表現

「見る」の丁寧語表現は、「見ます」です。丁寧語の要素である、「ます」を付け足す形の表現です。「見る」には基本的に「見ます」以外の丁寧語表現はありません。そして、相手に見ることを確認する場合は、「見ますか」となります。過去に見たことを示す際の丁寧語表現は「見ました」で、相手が過去に見たかどうかを確認する場合は「見ましたか」を用います。また、現在進行形の丁寧語は、「見ています」となります。

相手に見ることを促す際の表現は「見てください」、見ることを要求する場合は「見せてください」です。「ください」は本来「くれ」という命令表現の尊敬語ですが、「見る」と組み合わせて「見てください」「見せてください」という表現にした場合は、丁寧語を意味する補助動詞として機能します。したがって、「見てください」「見せてください」は、目下の相手に対しても問題なく使用できる丁寧語表現です。さらに、見ることを促す丁寧語には、「見ます」が変化した「見ましょう」という表現があります。

「見る」の丁寧語の最上級の表現

「見る」を最上級の丁寧語表現にする場合、「見ます」を使用する形で問題ありません。より強い敬意を示すためには、尊敬語や謙譲語の形にしなければならないため、丁寧語に留めたいのであれば、特に工夫をせずに「見ます」と表現するのが好ましいです。ただ、相手に見るかどうかを確認する場合は、「見ますか」ではなく「見ますでしょうか」という表現が可能です。「見ます」に丁寧語要素の「です」が組み合わさった形で、より丁寧な表現となります。

また、「見てください」と「見せてください」はそれぞれ、「見てくださいませ」「見せてくださいませ」という表現に変えられます。「見てください」と「見せてください」はどちらも丁寧語ですが、「ください」で終わると、命令系の印象が強くなってしまいます。そこで、丁寧要素である「ます」を組み合わせると、命令の意味合いを和らげ、相手に対する敬意を強めることができます。

「見る」の丁寧語のビジネスメール・手紙での例文

「見る」の丁寧語として「見ます」を使用する場合、例文は「完成した書類は、デスクに置いておいてもらえれば、翌日出社した際に見ます」「最後は確認のために私も見ますので、問題はありません」といった形です。過去形にする場合の例文は「その資料は私の上司が持ち出しているのを見ました」「例の資料は見ることを推奨されていましたが、私は見ませんでした」となります。

相手が見るかどうかを確かめる場合の例文は「資料が届いていますが、いつ見ますか」「新しく張り出されていた掲示物は見ましたか」などです。「見てください」や「見せてください」を使用した場合の例文は「資料を添付しておいたので、時間がある時に見てください」「書類が完成したと聞きました。早めに見せてください」となります。

「見てくださいませ」や「見せてくださいませ」は、「弊社のPR動画が完成いたしましたので、ぜひ見てくださいませ」「新社屋が完成したと伺いました、機会がございましたら、ぜひ見せてくださいませ」という風に、尊敬語や謙譲語の表現の中に混ぜて使用することが多いです。また、見ることを促す「見ましょう」という表現は、メールや手紙で使用することがまずありません。

「見る」を上司に伝える際の丁寧語表現

「見る」を上司に対して使用する場合、主語となるのが自分自身であれば、「見ます」や「見ています」といった表現で問題はありません。そして、身近な上司が相手であれば、「見てください」や「見ましたか」といった表現も使用可能です。「見てくださいませ」「見せてくださいませ」などは、謙譲語に近いかしこまった雰囲気があるため、立場の離れた上司相手に使用することが好ましいです。

「見る」の丁寧語での誤用表現・注意事項

丁寧語は、目下の相手にも使用することがあります。そして、一般的には、目下の相手に対して尊敬語や謙譲語は使用しません。そのため、目下の相手とやり取りをしている際、丁寧語のつもりで尊敬語や謙譲語を使わないよう注意しなければなりません。よくあるのは、「見ていただきたい」「見せていただきたい」という表現です。「見てください」と意味合いが似ている上に、願望の押しつけのような雰囲気を持っているため、目下に対して使用しても問題ないと誤解されがちです。しかし、実際は丁寧語はなく謙譲語です。したがって、目下に対して使用するのは好ましくありません。

「見る」の丁寧語での言い換え表現

「見る」の丁寧語には、「見ます」以外に、「観覧します」や「確認します」といった表現があります。「観覧します」は眺めるという意味合いが強い表現で、芝居や景色を見る際に使用することが多いです。また、本を見るという意味合いも含まれています。「確認します」は言葉通り、確認することを意味し、目視によって確かめるのであれば、「見ます」の代わりとして使用することができます。

また、「目を通します」や「閲覧します」といった表現もあります。「目を通します」は、書類や資料を簡単に確認するという意味を持つ言葉です。そして、ただ見るのではなく、書類の内容をある程度把握するという意味合いで使用されることが多いです。「閲覧します」は、本や書類をじっくり読むという意味ですが、読むためには本を見ることになるため、状況次第では「見ます」の代わりとして使用可能です。

《いく》の謙譲語

「いく」の敬語表現

自分がどこかに出向くことを目上の人に伝える場合に、「いく」という表現を用いるのは不適切です。「いく」という言葉には、相手に対する敬意が含まれていないため、「いきます」「いきましょうか」などと丁寧に言い換えたとしても、目上の人に対して失礼にあたります。そのため、目上の相手に「いく」と伝えたい場合には、謙譲語を使った適切な敬語表現に置き換えることが必要です。

自分自身の「いく」という動作を目上の相手に伝える敬語表現としては、謙譲語の「伺う」と「参る」が一般的です。どちらの表現も、「いく」という自分の行為をへりくだることで相手を高めることができ、目上の人に対する敬意を十分に示すことができます。

「伺う」と「参る」の意味合いは同じですが、使い方には違いがあり、「伺う」は、敬意を払うべき相手がいる所に出向く場合のみに使える表現です。一方で、「参る」は、敬意を払うべき相手がいない所にいく場合にも使える表現で、自分や身内の「いく」という行動を幅広く表すことができます。「伺う」と「参る」は、ビジネスシーンでも頻繁に用いられる敬語表現なので、シチュエーションを考慮した上で、正しく使い分けるようにしましょう。

「いく」の敬語の最上級の表現

自分自身が「いく」ことを表す謙譲語には、「参上する」「馳せ参じる」という改まった表現もあります。「参上する」は、「高貴な人のもとや高貴な場所にいく」という意味を持ち、堅い言い回しで高い敬意を表せます。また、「馳せ参じる」には、「大急ぎでいく」という意味があり、目上の人のもとへいち早く駆け付けるという真摯な姿勢を示すことが可能です。いずれも、「参上する所存でございます」「馳せ参じる所存です」といったかしこまったフレーズで用いることができ、身分の高い人に対して安心して使うことのできる最上級の敬語表現と言えるでしょう。ただし、やや古風な言い回しで、日常生活ではあまり耳にしない表現なので、フォーマルな手紙やビジネスメールなどの書き言葉として用いるのが最適です。

「いく」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「明日の午後1時に御社に伺いますので、よろしくお願いいたします」
「申し訳ございませんが、あいにく週末は予定があり、伺うことができません」
「当日は、直接会場に参りますので、ご承知おきください」
「来月の出張で大阪に参る予定でございます」
「本来であれば、私共が参上して直接お伝えすべきところですが、メールでのご連絡となり申し訳ございません」
「お知らせいただきましたら、すぐにでも馳せ参じる所存でございます」

「いく」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して「いく」と伝えたい場合には、「伺う」「参る」などの敬語表現を用いるのが妥当です。普段の何気ない会話のやりとりの中でも、謙譲語を使ってしっかりと敬意を表すことで、上司との良好な関係を築くことにもつながります。親しみを持って接してくれるラフな人柄の上司であっても、ビジネスの場で、「いく」「いきます」「いきましょうか」といった表現を使うのは控えるようにしましょう。

一方で、動作の主体が自分ではなく上司であっても、取引先などに対して「いく」と伝える時には、「伺う」「参る」といった謙譲語で表現するのがマナーです。たとえ高い役職に就いている上司であっても、対外的には身内の扱いになり、「明日は○○が伺う予定でございます」「今から○○が御社に参ります」のように、上司の「いく」という行為をへりくだる必要があります。上司に対して敬意を払う場面と、社外の人への敬意を優先させる場面をきちんと見極めて対応できるよう、正しい敬語表現を身に付けることが大切です。

「いく」の敬語での誤用表現・注意事項

「伺う」「参る」を丁寧に言おうとして、「伺わせていただきます」「参らせていただきます」と表現するのは、文法的に間違いです。謙譲語の「伺う」「参る」に謙譲語の「いただく」が重複して使われている二重敬語となり、ビジネスマナーでは不適切な表現とされています。また、よく使われているフレーズですが、「お伺いします」「お伺いいたします」という表現も、謙譲語+謙譲語の二重敬語です。慣習として定着している表現については黙認される場合が多いですが、相手を不快にする可能性もゼロではありません。ビジネスシーンでは、念のため二重敬語を避けて、日本語のルールに基づいた正しい敬語表現を心掛けましょう。

「いく」の敬語での言い換え表現

伺う
伺います
伺いますので
伺いましょう
伺いましょうか
伺った
伺いました
伺いましたが
伺いましたので
伺いたいです
伺いたいのですが
伺いたいと存じます
伺う所存でございます
参る
参ります
参りますので
参りましょう
参りましょうか
参りました
参りましたが
参りましたので
参りたいです
参りたいのですが
参りたいと存じます
参る所存でございます
参上する
参上します
参上しますので
参上しましょう
参上しましょうか
参上しました
参上しましたが
参上しましたので
参上したいです
参上したいのですが
参上する所存でございます
馳せ参じる
馳せ参じます
馳せ参じますので
馳せ参じましょう
馳せ参じましょうか
馳せ参じました
馳せ参じましたが
馳せ参じましたので
馳せ参じたいです
馳せ参じたいのですが
馳せ参じる所存でございます

《もらう》の謙譲語

「もらう」の敬語表現

「もらう」は、人から物を受け取ったり、恩恵を受けた時に使われる日常的な言葉です。しかし、目上の人に対して使う場合には、相手に失礼のないよう「もらう」を謙譲語に置き換える必要があります。「もらう」の謙譲語としてよく使われるのは「いただく」で、自分の動作をへりくだって相手を高めることで、十分な敬意を表すことが可能です。汎用性が高く、「いただきます」「いただきました」と語尾を変化させることで、より丁寧で柔らかい言い回しとなります。

また、「もらう」の謙譲語である「頂戴」という言葉を含んだ「頂戴する」も正しい敬語表現です。「頂戴」には物をもらうこと、顔の上にささげ持つことの意味があり、「いただく」よりもさらにかしこまった場面で使うことができます。ビジネスシーンでは、目上の相手に物事を依頼する時や、時間を作って欲しい時などにも「頂戴する」が活用されています。

「もらう」の敬語の最上級の表現

「もらう」の謙譲語として、「いただく」「頂戴する」よりもさらに丁寧な印象を与えることができるのが「賜る」です。「もらう」の敬語としては最上級にあたる表現で、日常的な会話の中ではあまり使われないほどの格式高い言葉となっています。式典などの厳粛な場面や身分の高い方に対して「もらう」を言い換える際には、最適な言い回しであると言えるでしょう。

そのほか、「もらう」の敬語として、謙譲語の「拝受」「拝領」を含んだ「拝受する」「拝領する」もあります。どちらも、謹んで受け取る、大切なものをもらうという意味を持つ最上級の表現です。会話の中で使うと堅苦しくなりすぎて不自然なこともあるので、ビジネスシーンなどの書き言葉として用いるのに適しています。

「もらう」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「素敵なプレゼントをいただき、とても嬉しいです」
「明日から休暇をいただきますので、よろしくお願いいたします」
「頂戴したお言葉を胸に、ここまで頑張ることができました」
「お忙しいところ恐れ入りますが、打ち合わせのお時間を頂戴できますでしょうか」
「貴社の記念品を賜りましたこと、暑く御礼申しあげます」
「御協力を賜りますよう、よろしくお願い申しあげます」
「先ほどメールを拝受しました。早速ご対応いただき感謝申しあげます」
「本日書類が到着いたしました。取り急ぎ、拝受のご連絡まで」
「貴重な品を拝領し、誠にありがとうございます」

「もらう」を上司に伝える際の敬語表現

会社の上司に対して「もらう」を伝える場合には、上司の役職や自身との関係性を考えて表現を使い分けることが必要になります。ただし、どんなにフランクな間柄の上司であっても、ビジネスの場において「もらう」をそのまま使うことは控えましょう。普段から親しみを持って接してくれる上司とのやりとりであれば、「いただく」を使うのが一般的です。柔らかい表現でへりくだることで、会話の流れの中で自然に上司を立てることができ、良好な関係を保つことにもつながります。

また、「もらう」を伝える相手が、普段の関わりや接点が少ない上司であったり、会社の中でも高い役職に就いている上司の場合には、「頂戴する」を用いることで、「いただく」よりもしっかりと敬意が伝わるので安心です。一方で、「賜る」「拝受する」「拝領する」などの最上級の謙譲語は、上司に対して使うと違和感を感じる場合もあるので、ビジネスシーンでは取引先など社外の人に対して使うのが最適でしょう。

「もらう」の敬語での誤用表現・注意事項

「頂戴いたします」「拝受いたしました」などは、「もらう」の敬語として、ビジネスの場でもよく使われている言い回しです。しかし、これらの表現は、「もらう」の謙譲語である「頂戴」「拝受」に、「する」の謙譲語である「いたす」が組み合わさっていることから二重敬語となり、文法的には間違った言い回しとなります。耳慣れた言葉であっても、敬語のルールに厳しい人の中には二重敬語を不快に思う場合もあるので、念のため使わない方が無難でしょう。

また、ビジネスシーンの受付や電話の応対でよく耳にする「お名前を頂戴できますか」というフレーズも、正しい日本語とは言えません。「頂戴する」はあくまでも「もらう」対象のものがある時に使うことができる謙譲語なので、名前を聞きたいという意味で用いるのは誤りです。相手に名前を尋ねる時には「お名前を伺えますか」「お名前を教えていただけますか」など、正しい謙譲語に置き換えるようにしましょう。

「もらう」の敬語での言い換え表現

・いただく
・いただいた
・いただきます
・いただきまして
・いただきました
・いただきましょう
・いただきましょうか
・いただきたいです
・いただきたいのですが
・いただけますでしょうか
・いただくことができますでしょうか
・いただいてもよろしいでしょうか
・いただきたく存じます
・頂戴する
・頂戴した
・頂戴します
・頂戴しました
・頂戴しましょう
・頂戴しましょうか
・頂戴したい
・頂戴したいです
・頂戴したいのですが
・頂戴できますでしょうか
・頂戴することができますでしょうか
・頂戴したく存じます
・頂戴してもよろしいでしょうか
・賜る
・賜ります
・賜った
・賜りました
・賜りまして
・賜りますよう
・賜りますようお願い申しあげます
・賜りたく
・賜りたく存じます
・賜りたいと思います
・賜ることはできますでしょうか
・拝受する
・拝受します
・拝受しました
・拝受しましたので
・拝領する
・拝領します
・拝領しました
・拝領しましたので

《観る》の謙譲語

「観る」の謙譲語表現

「観る」とは、対象を視覚で認識するという意味で、一般的に用いられている「見る」とほぼ同義です。両者の違いは、対象に意識を集中させて視覚を働かせる場合は「観る」を用い、特に意識はしないで目に映るものを認識する際は「見る」を使う、といった点です。どちらも視覚で対象をとらえる行為であることには変わりありませんので、「観る」を謙譲語で表現するとすれば「見る」の謙譲語の特定形である「拝見する」がそれに該当します。また、謙譲語の一般形を用いて「観せていただく」という言い方も可能です。

「観る」の謙譲語の最上級の表現

「観る」の謙譲語は「拝見する」「観せていただく」となりますが、最上級の謙譲語表現にするのであれば、これをさらに丁寧な言い方に改める必要があります。両者ともに「です・ます」の丁寧語を用いて「拝見します」「観せていただきます」と敬意の度合いを深めることができますが、「観せていただきます」がこれ以上は丁寧な表現とすることができない一方、「拝見します」は「する」の謙譲語「いたす」に言い換えて、より深くへりくだった気持ちを表すことが可能です。そのため「拝見いたします」が「観る」の謙譲語の最上級の表現であるということができます。

「観る」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメールや手紙など、「観る」の謙譲語を文書で表す場合には、「拝見する」を使うのが一般的です。「メールを拝見しました。ぜひ一度お目にかかりたいと存じます」「お見積もりを拝見いたしました。検討させていただきたいと存じますので、いましばらくお時間を頂戴できればと存じます」「貴サイトを拝見してご連絡いたしました」「お送りいただきました企画書を拝見したところ、いくつかお伺いしたい点が出てまいりました。ご教示いただければ幸いでございます」「昔と変わらぬ先生のお元気そうなお姿を拝見して、安心すると同時に懐かしさがこみ上げてまいりました」などと使います。

「観る」を上司に伝える際の謙譲語表現

ビジネスシーンで上司に対して「観る」を伝える際は、「観ました」といった報告であったり、「観てもいいですか」といった許可を願う場面であったりすることが考えられます。書類や資料を観たという報告の場合は「資料を観せていただきました」「書類を拝見いたしました」などと、謙譲語を使って上司への敬意を示します。また、書類や資料を観たいので許可してほしい、という気持ちを伝える場合は「資料を観せていただいてもよろしいでしょうか」「書類を拝見してもよろしいでしょうか」などと謙譲語を用います。

「観る」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「観る」の謙譲語は「拝見する」「観せていただく」ですが、さらに敬意を深めようといっそう丁寧な言い方にすることで、結果的に誤用表現となってしまうケースがあります。その一つが「拝見させていただく」というフレーズです。「拝見する」はこれ自体で謙譲語です。そのため、このフレーズの中にさらに謙譲語を加えると二重敬語になってしまいます。二重敬語とは、すでに敬語となっている言葉に同じ種類の敬語を重ねてしまう文法上の誤りです。この場合、「いただく」が謙譲の補助動詞ですので「拝見する」とともに用いることで、禁止されている二重敬語の表現となってしまうのです。「拝見する」をいっそう丁寧に言うのであれば「拝見いたします」と言い換えるようにしなくてはなりません。

また、「観せていただく」を「観させていただく」と表現することがあります。「観させていただく」の「させて」は「する」の使役形に助詞の「て」がついて、これに謙譲の補助動詞「いただく」が加わることで、相手からの許可や容認を求める言い回しとなります。そのため「観させていただく」は相手からの許可や容認を得たい場合以外で使用するのはふさわしくないのですが、「観る」という自分の行為をへりくだってさらに丁寧に言おうとするあまり、許可や容認を得たい場合以外にも「観させていただく」と言ってしまう場合があります。しかし、そのような使い方は、謙譲の美徳と受け取ってもらえるどころか話し手の強い意志の表明であると誤解して受け取られてしまうことがあるので注意が必要です。

たとえば「私が観させていただきます」といえば、「私が観ます」ということの強い意志表現です。さらに声を張って強く言えば「絶対に自分が観るのだ」という半ば強引ともいえる決意の表明にも受け取られます。許可を得る必要のない場面で「させていただく」を乱用すると、本人は丁寧な表現をしたつもりでも、受け取る人にとっては「断固として自分が見るんだ」と強く自己主張しているように捉えられ、かえって逆効果になる恐れがあることを肝に銘じておかなくてはなりません。

「観る」の謙譲語での言い換え表現

「観る」の謙譲語での言い換え表現は、「拝見」と同様に「拝」の文字を使った熟語に求めることができます。「拝」は「謹んで行う」という意味で、自分の行為につけてへりくだり相手への敬意を表す意味を持つ言葉です。「観る」という行為に関していえば、謹んで読むという意味を持つ「拝読する」や、拝見と同じく謹んで見るという意味を持つ「拝覧する」などをあげることができます。

《思う》の謙譲語

「思う」の謙譲語表現

「思う」は「(なんらかのことについて)ある考えを持つ、判断する、決意する」「(人やものについて)気にかける、慕う、愛する」「(人やものについて)思い出す」「(眼前にないものを)推量する」などの意味を持ちます。

「思う」の謙譲語は「存じる」「存じ上げる」です。しかし現代では「存じる」「存じ上げる」を、そのままの形で使うことはできません。必ず丁寧語の助動詞「ます」と一緒に、丁寧体で使われます。そのため「思う」の謙譲語は、「存じます」「存じ上げます」となります。

「思う」の謙譲語の最上級の表現

通常、敬語の最上級の表現は最高敬語です。最高敬語は天皇や皇族、王や王族に対してのみ使う最上級の尊敬語になります。従って、謙譲語には最高敬語は存在しません。しかし天皇や皇族に対しては、わざと1つの言葉に2つの同じ種類の敬語を用いた二重敬語で敬意を表します。つまり謙譲語の最上級の表現は、二重敬語の「存じ奉る」です。これは「思う」の謙譲語の「存じる」の連用形に、謙譲を表す補助動詞「奉る」がついた形です。

「思う」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

先に述べた通り「思う」の謙譲語は、「存じます」と「存じ上げます」ですが、使える対象が異なります。「存じます」は人以外のものや場所に対しても使えますが、「存じ上げます」は人だけが対象です。

「田中様のおっしゃることは、ごもっともだと存じます」と「田中様のおっしゃることは、ごもっともだと存じ上げます」は、対象が人なので使い方としてどちらも正解です。しかし「夕食の時間は、6時からだと存じ上げます」は、対象が人ではないので間違いとなります。この場合は「存じます」を使って、「夕食の時間は、6時からだと存じます」とします。

「存じます」は考えを伝えるときだけでなく、依頼や感謝、謝罪の気持ちを伝えるときにも使える表現です。「A社との合併は、時期尚早だと存じます」は自身の考えを伝えています。「ご都合に合わせて来社いただけると幸いに存じます」は、依頼するときの表現です。感謝の気持ちを伝えるときは「歴史のある賞をいただき、光栄に存じます」などという使い方をします。「このような事態となり、誠に遺憾に存じます」などが謝罪の表現です。

「思う」を上司に伝える際の謙譲語表現

「思う」を上司に伝える場合には敬意を表す対象を考慮して、謙譲語である「存じます」と「存じ上げます」を使い分ける必要があります。「A社との合併は、時期尚早だと存じます」は正しい使い方ですが、「A社との合併は、時期尚早だと存じ上げます」は対象が人ではないので間違いです。 一方「社長のご指摘は、的確だと存じます」と「社長のご指摘は、的確だと存じ上げます」は、対象が人なので正しい表現となります。

「思う」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「存じます」「存じ上げます」はどちらも「思う」の謙譲語ですが、種類の違う謙譲語です。そのため、使える対象も異なっています。「存じます」は、「丁重語」とも呼ばれる特殊な謙譲語です。丁重語は改まった場で、特定の個人ではなく場や聞き手、読み手を意識して使われます。ビジネスの場は改まった公の場であり、通常は周囲に他の社員がいるはずです。メールには、必ず読み手が存在します。「存じます」はビジネスの場ならほとんどの場合に使える、使い勝手のよい謙譲語といえます。

「存じ上げます」は「思う」の謙譲語「存じる」に、「上げる」という動詞がついた形です。「上げる」は、動詞の連体形について複合語を作ります。「上げる」がついたために「存じ上げる」は一般的な謙譲語として扱われ、対象となる人に敬意を表す表現となります。「存じ上げる」が使えるのは人に対してだけなので、注意が必要です。

また、使い勝手がよいからといって「存じます」を使い過ぎるのは考えものです。語尾や文末が、すべて「存じます」では不自然です。慇懃無礼の言葉の通り、丁寧過ぎるとかえって嫌味になり礼を失することにもなります。「存じます」は言い換えの言葉などを併用して、上手に使いましょう。

使い過ぎに注意したい表現としては、「させていただきたいと存じます」もあります。敬語としては正しい表現ですが大変回りくどく、多用すると読みにくかったり、なにがいいたいのかわからなくなったりします。「させていただきたいと存じます」には「許可を得て遠慮しながらする」という意味があるので、相手の許可を得たときのみに使いましょう。

「思う」の謙譲語での言い換え表現

「思う」の通常の意味での言い換えには、「考える」「判断する」「決意する」などがあります。謙譲語は、「存じます」と「存じ上げます」です。

「気にかける」の意味の言い換えは、「心にかける」「心配する」「配慮する」などがあります。謙譲表現は、「お心にかけています」「ご心配しています」「ご配慮します」です。

「慕う」や「愛する」は相互に言い換えることができ、「お慕いしています」などが謙譲表現になります。

「思い出す」の言い換えには、「偲ぶ」などがあります。謙譲語は「お偲びします」です。

「推量する」の言い換えは、「察する」「想像する」などです。謙譲語にすると「お察しします」「拝察いたします」になります。

《受け取る》の謙譲語

「受け取る」の敬語表現

「受け取る」を自分がへりくだる謙譲語で表すと「頂戴する」となります。「チョウダイする」と読みますが、「頂」「戴」はともに「いただく」と訓読みし「頂」は頭のてっぺんを、「戴」は頭の上に物をのせることを指します。「受け取る」の意味は手で受けて取るということですが、「頂戴する」は頭の上からいただいた物を両手で受けて、目よりも高く上げている様子を表します。「受け取る」よりもありがたみが増している言葉で、それをもらってとても感謝しているという気持ちを含めることができます。

また単に「頂く(いただく)」としても「受け取る」の敬語表現として使うことができます。「いただく」は動詞の連用形に平仮名にして付けることで「~してもらう」という謙譲語になる言葉ですが、単独でも「食べる」「飲む」「もらう」の謙譲語となります。「頂戴する」より柔らかい言い方ですが、使いやすいため多用されている言葉です。

「受け取る」の敬語の最大級の表現

「受け取る」の謙譲語で最も敬意のこもった表現は「賜る」で、「たまわる」と読みます。古来より天皇陛下から物や官位を頂いたり言葉をかけてもらったりする際にもこの言葉が使われてきました。また太陽の光や雨などの自然の恵みについても、神からの贈りものだとして「賜る」「賜りもの」と表現することもあります。「頂戴する」よりも更にありがたみが増し、自分がそれを受け取っておそれ多いと恐縮するほどだという意味がこめられています。

また「拝受(ハイジュ)する」も「受け取る」の最大級の敬語表現となります。こちらは基本的に口頭では用いられず、書き言葉に適しています。「拝」の訓読みは「拝む(おがむ)」で、神様への敬意を表して両手を胸の前で合わせて丁寧に頭を下げる様子を表します。「賜る」と同様におそれ多いほどありがたいという意味になります。

「受け取る」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「頂戴する」はどのような相手にも使える言葉なのでビジネスシーンでのメールや手紙に活用していきましょう。ありがたく受け取りましたという気持ちを丁寧に表現できます。

・この度はお土産を頂戴しありがとうございました。
・過分なお心遣いを頂戴し、誠にありがとうございました。

「拝受する」は書き言葉なのでメールや手紙の文章に使うことができます。取引先など、目上で最大の敬意をこめるべき相手に対しては「拝受する」と表現すると良いでしょう。

・お送りいただきました書類を拝受いたしました。
・先程メールを拝受いたしました。お返事を頂き誠にありがとうございました。

メールや手紙で「頂戴する」や「拝受する」を使う時は、何かを受け取ったお礼、またはメールや手紙を受け取った返事をする場合がほとんどです。お礼や返信は時間が開くほど失礼に当たりますので、特にビジネスシーンでは受け取ったらすぐに送るようにしましょう。

「受け取る」を上司に伝える際の敬語表現

何かを受け取ったことを上司に伝える場合は「頂戴する」と表現するのが良いでしょう。例えば取引先からメールや書類、贈りものなどを受け取っていて報告する際は「○○社の○○様からメールを頂戴しております」というように伝えます。電話があったことを伝える際も「○○様からお電話を頂戴しました」と表現できます。

メールや電話の例からも分かる通り、受け取ったのが物でなくても「頂戴する」と表現して問題ありません。上司から褒められた際などは「過分なお言葉を頂戴しましてありがとうございます」というように感謝の気持ちを伝えられます。「アドバイスを頂戴しまして何とか乗り切ることができました」のように助言をもらった感謝としても使うことができます。

「頂戴する」は「頂く」よりは固い表現となります。付き合いが長く、親しい関係の上司から何かを受け取った場合は「頂く」を使っても失礼には当たりません。「お土産を頂きましてありがとうございます」や「お時間を頂きましてすみませんでした」などのようにすると相手との距離を置きすぎずに感謝を伝えることができます。

「受け取る」の敬語での誤用表現・注意事項

「頂戴する」はビジネスシーンでもよく使われる便利な謙譲語で、例えば名刺交換の際にも「お名刺を頂戴いたします」のように使います。しかし相手の名前を尋ねる時には使えません。電話などで「お名前を頂戴してもよろしいですか?」と言うのは誤った使い方になり、失礼に当たるので注意しましょう。名刺と違い、名前は受け取ることができないものだからです。正しくは「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」です。ビジネスシーンではまず先に自分の所属と名前を名乗ったうえで、「大変失礼ですが」と前置きをしてから名前を尋ねるのがマナーです。

また「受け取る」の改まった言い方に「受領する」があります。こちらは契約書などの重要なものを預かった時に使う言葉で、「受領いたす」が謙譲語です。「○○様より契約書を受領いたしました」のように使います。「受領しました」とすると謙譲語ではなく丁寧語になるので覚えておきましょう。

「受け取る」の敬語での言い換え表現

・頂く
・戴く
・頂戴する
・拝受する
・拝領する
・賜る
・謹んで頂戴する
・ありがたく頂戴する
・授かる
・受領いたす

《送る》の謙譲語

「送る」の謙譲語表現

「送る」を謙譲語にする場合、「お送りする」という表現となります。「送る」と、「お~する」という謙譲語の要素を組み合わせたもので、目上の人に対しても使用することができます。そして、「お送りいたす」という表現もあります。「送る」と、謙譲語要素である「お~いたす」を組み合わせた表現です。基本的には「お送りする」と「お送りいたす」の尊敬の度合いに大差はなく、どちらを使用しても特に問題はありません。ただ、「お送りいたす」の方がかしこまった印象を与えやすいです。

また、「送らせていただく」という表現もあります。「送る」を「送らせてもらう」という表現にした後、「もらう」の部分を謙譲語である「いただく」にする形です。「いただく」を使用する場合、謙譲語の中でも尊敬の度合いが高い表現となります。そのため、「送らせていただく」は、「お送りする」や「お送りいたす」よりも強い敬意を示すことができます。

「送る」の謙譲語の最上級の表現

「送る」を最上級の謙譲語にする場合、「お送り申し上げる」「お送りさせていただく」といった表現になります。「お送り申し上げる」は、謙譲語表現である「お送りいたす」をより丁寧にした形です。「いたす」よりも「申し上げる」の方がかしこまった印象となり、相手に対して強い敬意を示すことができます。

そして、「お送りさせていただく」は、「送らせていただく」の尊敬の度合いをより強めた表現です。「もらう」を謙譲語の「いただく」にするだけでなく、「送る」の部分も謙譲語である「お送りする」に変えてあります。「お送りする」と「いただく」という2つの謙譲語を使用しているため、相手に対して強い敬意を示せます。「送る」と「もらう」はそれぞれ別の動詞なので、両方を謙譲語にしたとしても、過剰な表現である二重敬語にはなりません。したがって、「お送りさせていただく」は、文法的に正しい形で、「送る」の最上級の謙譲語表現として使用することができます。

「送る」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

「送る」の謙譲語として「お送りする」「お送りいたす」を使用する場合、例文は「先日のイベントの報告書をお送りしました」「悪天候ですので、車でお送りいたします」となります。「送らせていただく」「お送りさせていただく」を使用する場合の例文は「もし、ご迷惑でなければ、見積書を送らせていただけますでしょうか」「ご注文を承りました。それでは、準備が整い次第、お送りさせていただきます」といった形です。「お送り申し上げる」を用いる場合、例文は「心ばかりですが、お祝いの品をお送り申し上げます」「もし、ご所望でしたら、資料をお送り申し上げます」のような形となります。

「送る」を上司に伝える際の謙譲語表現

上司に対して「送る」の謙譲語表現をする場合、「お送りする」や「お送りいたす」を使用すると良いです。どちらも、目上の相手に対して問題なく使用できる謙譲語です。身近な上司が相手の場合は、かしこまった形の「お送りいたす」では堅苦しい印象を与えかねないので、「お送りする」を使用した方が無難でしょう。立場が離れている上司に対しては、最上級の表現である「お送り申し上げる」や「お送りさせていただく」が好ましいです。

「送る」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「送る」の謙譲語として「送らせていただく」を使用する場合、「送らさせていただく」という表現にならないよう注意が必要です。必要のない「さ」の1文字が入っている、「さ入れ言葉」という間違った表現です。「送らせていただく」と「お送りさせていただく」という2つの表現を混同した際に、「送らさせていただく」の形になりやすいです。「送らさせていただく」は文法的な誤りであるので、受け取った側に違和感を抱かせる恐れがあります。したがって、「送らせていただく」という正しい表現をすることが大切です。

また、「送らせていただく」と「お送りさせていただく」は、使用する場面に注意しなければなりません。「させていただく」という表現は、「させてもらう」という意思を、相手に一方的に押し付ける形になる恐れがあります。そのため、「送る」意思を積極的に表現する際には、自分勝手な印象になりかねないので、避けた方が良いです。「させていただく」が含まれた表現は、相手に指示されたり、許可を得たりした上で、送らせてもらうという構図になる場合に向いています。

「送る」の謙譲語での言い換え表現

「送る」の謙譲語には、「発送いたす」や「発送させていただく」といった表現もあります。郵便物や宅配便を送る場合に限定される表現で、ビジネスシーンでも使用されることが多いです。「発送」そのものには謙譲語の要素が含まれていないため、「いたす」あるいは「させていただく」と組み合わせます。そして、「発送させていただく」は、相手の許可の有無に関係なく送る場合に用いることが多いです。

また、「送迎いたす」と「送迎させていただく」という表現もあります。「送迎」は人を送り迎えするという意味の言葉ですが、送るだけの場合にも使用することができます。「送迎」には謙譲語表現が含まれないので「いたす」または「させていただく」を付け足します。基本的には「送迎いたす」を使い、相手の指示や許可を得られた場合には「送迎させていただく」を用いると良いでしょう。

《知る》の謙譲語

「知る」の謙譲語表現

「知る」は「しる」と読み、「(ものごとの存在を)認める、気づく、把握する、記憶する」「(人と)つき合いがある、面識がある」などの意味を持つラ行五段活用の動詞です。「知る」の謙譲語は「存じる」ですが、現在の日本語では「存じる」の形で使うことはできません。「存じる」を使う際は、必ず丁寧語の助動詞「ます」と共に丁寧体で使います。従って、「知る」の謙譲語は「存じます」です。

「存じます」を標準形に直した場合、「知ります」になります。しかし「知る」は、動作が一瞬で終わりその結果が残っていることを表す瞬間動詞です。瞬間動詞は、語尾が「~ている」という形になります。「知る」という動詞は、一瞬で「知って」「知っている」という結果が残っている状態です。つまり「知る」の謙譲語は、通常「存じています」という形で使います。また「存じ上げています」も「知る」の謙譲語です。

「知る」の謙譲語の最上級の表現

日本における最上級の敬語は、最高敬語という尊敬語です。最高敬語は天皇や皇族、王や王族に対してのみ使います。謙譲語には最高敬語はありませんが、天皇や皇族に対してはわざと1つの言葉に同種の敬語を重ねた二重敬語を使って敬意を表します。従って、「存じています」の最上級の表現は二重敬語となり「存じ奉る」です。構造としては「知る」の謙譲語「存じる」の連用形に、謙譲を表す助動詞の「奉る」がついています。

「知る」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

「知る」の謙譲語は「存じています」または「存じ上げています」であり、もともと丁寧体なのでビジネスメールや手紙でもこのままの形で使うことができます。「〇〇さんのことは存じています」「〇〇さんのことは存じ上げています」といった具合です。社内メールなら、このような使い方で問題はありません。

しかし社外に送るメールを含む文章では、通常、話し言葉よりも改まった表現をします。そこで「います」をさらに丁寧にした、「おります」という助動詞を使います。たとえば、取り引き先に送るメールなら「○○様のことは、よく存じております」「◯◯様のことは、よく存じ上げております」となります。

「知る」を上司に伝える際の謙譲語表現

「知る」を上司に伝える際も、基本的には文章の場合と同じで「存じています」または「存じ上げています」を使います。上司との関係性によって、丁寧の度合いを変えることもできます。直属の上司で相手をよく知っている場合には、「◯◯さんのことは存じています」や「◯◯さんのことは存じ上げています」でもかまいません。あまり顔を合わせない地位の高い上司や、あまり知らない他部署の上司の場合は「◯◯さんのことは存じております」や「◯◯さんのことは存じ上げております」の方が無難でしょう。

「知る」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「存じています」も「存じ上げています」も「知る」の謙譲語ですが、謙譲語の種類が異なるので使うときには注意が必要です。「存じています」は丁重語と呼ばれる特殊な謙譲語で、フォーマルな場で聞き手や読み手を意識して使います。「存じています」は人だけでなくものや場所にも使えるので、ビジネスなどのフォーマルなシーンでは「存じています」を使う方が間違いが少なくなります。

一方の「存じ上げています」は、人に対してのみ使える言葉です。「◯◯様のことは、よく存じ上げております」は正しい使い方ですが、「御社の場所は、よく存じ上げております」は間違っています。敬意を表している対象が、人ではないからです。

「存じ上げています」は「知る」の謙譲語「存じる」に、動詞の連用形のあとについて複合語を作る「上げる」という動詞がついた形です。「存じ上げる」になると、丁重語ではなく通常の謙譲語として扱われます。そのため敬意を表す対象は、人のみとなります。「御社の場所は、よく存じ上げております」が誤用になるのは、このような理由です。

「存じる」の表記については、「存知る」は当て字です。辞書によっては、間違いとしているものもあります。「存じる」と同じ意味のある「承知」という漢語表現と混同され、「存知」も漢語表現だと認識された結果ではないかと考えられています。

「知る」の謙譲語での言い換え表現

「知る」の通常の意味での言い換えは、「承知する」です。承知するの謙譲語は「承知しています」になります。 「認める」という意味で使う場合の言い換えには、「受け入れる」「承諾する」「承認する」などがあります。謙譲語は「受け入れます」「承諾します」「承認します」です。

「気づく」の言い換えとしては、「察する」「わかる」などが挙げられます。謙譲語は「お察しします」「ご理解しています」です。

「把握する」の言い換えは、「理解する」です。謙譲語は「ご理解しています」になります。 「記憶する」の言い換えには、「覚える」があります。謙譲語は「覚えています」です。 「つき合いがある」を言い換えると、「行き来する」になります。謙譲語は「行き来しています」です。 「面識がある」の言い換えは、「見知っている」です。謙譲語は「見知っています」になります。

《読む》の謙譲語

「読む」の謙譲語表現

「読む」を謙譲語で表現する場合、「拝読する」という形になります。「拝」は「頭を下げる」や「つつしむ」など謙譲語の要素を持ち、「拝読」は「つつしんで読む」という意味となります。そして、「拝読します」という丁寧な形にすると、目上の人に対しても使用することができる謙譲語表現となります。

また、「読ませていただく」という謙譲語表現も可能です。「読ませてもらう」の「もらう」の部分を、謙譲語である「いただく」に置き換える形です。謙譲語を使用するような場面では大抵、ただ単に読むのではなく、読ませてもらうという構図になりやすいです。そのため、「読ませていただく」という表現を使用しても、違和感が生まれることはないでしょう。

「読む」の謙譲語の最上級の表現

「読む」の最上級の謙譲語表現は、「拝読する」です。「読む」の謙譲語の中に、「拝読する」よりも強い敬意を示せるものはありません。「読ませていただく」よりも「拝読する」の方が格式張った表現であるため、最上級の敬意を示したい場合は、「拝読する」を使用するようにしましょう。

「読む」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

「読む」の謙譲語として「拝読する」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「資料を送ってくださいまして、誠にありがとうございます。早速拝読します」「先日のイベントに関する報告書を拝読しました」といった形になります。「読ませていただく」を使用するのであれば、例文は「書類が手元に届き次第、読ませていただきます」「資料を読ませていただきましたが、いくつか疑問点がございます」といった形です。「拝読する」ではなく「読ませていただく」を使用した場合、ひらがなの割合が多くなります。そのため、ビジネスメールや手紙で用いる場合は、読みやすさを重視して「拝読する」と「読ませていただく」を使い分けるのもひとつの手です。

「読む」を上司に伝える際の謙譲語表現

「読む」の謙譲語である「拝読する」は、格式張った表現です。そのため、身近な上司と会話をする際に使用すると、堅苦しい印象を与えかねません。そのため、「読ませていただく」を使用した方が無難でしょう。ただ、メールなどの文章形式であれば、「拝読する」を使用しても違和感は出にくいです。また、立場が離れている上司に対しては、「読ませていただく」よりも「拝読する」を使用した方が良いかもしれません。もし、親密な雰囲気を演出するのであれば、「読ませてもらう」という砕けた表現を使用するのもひとつの手です。文法上は謙譲語ではありませんが、謙譲の意味合いは含んでいる表現です。

「読む」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「読む」の謙譲語として「拝読」を用いる場合、「拝読いたします」あるいは「拝読させていただきます」という表現が使われることもあります。しかし、これらの表現は、二重敬語となるため、正しい謙譲語ではありません。そもそも「拝読」には「拝」という謙譲の要素を持つ文字が含まれているため、単体でも謙譲語として成立します。そうであるにもかかわらず、「する」の謙譲語の「いたす」や「させてもらう」を謙譲語にした「させていただく」を組み合わせると、過剰な敬語表現になってしまいます。

「拝読いたします」も「拝読させていただきます」も、使用する人が少なくないため、間違いではないと誤解されることが多いです。しかし、厳密には文法的に誤っている表現です。そのため、ビジネスシーンで使用すると、敬語の使い方がなっていないという印象を与えかねません。したがって、「拝読」を用いて謙譲語の表現をする場合は、「拝読します」という風に、丁寧語と組み合わせるようにしましょう。

また、「読ませていただく」を、「読まさせていただく」「読まさしていただく」といった間違った表現にすることも多いです。「読む」と謙譲表現である「させていただく」を誤った形で組み合わせてしまった形です。「読む」と「させていただく」を組み合わせた正しい形は「読ませていただく」なので、間違えないように注意しましょう。

「読む」の謙譲語での言い換え表現

「読む」の謙譲語表現としては、「見る」の謙譲語である「拝見する」を使用することも可能です。その場合は、熟読するというよりも、簡単に目を通すといった意味合いとなります。そのため、しっかり読むことを示すための表現としては不適切で、使用できる場面は限られます。また、「拝誦する」という表現もあり、意味は「拝読する」と大差ありません。難しい表現なので、「拝読する」よりも格式張った表現が必要な時に、「拝誦する」を使用すると良いでしょう。そして、「拝見する」も「拝誦する」も、両方「拝」という字が入っていて、そのまま謙譲語として成立します。

さらに、「閲読」や「繙読」、「玩読」といった言葉を使用した表現もあります。いずれも基本は読むという意味ですが、「閲読」は調べるために読む、「繙読」は書物を紐解いて読む、「玩読」は意味を理解しながらじっくり読むという違いがあります。そのため、場面に応じて使い分けることが大切です。それぞれ一般的にはあまり使用されない言葉なので、格式張った場面に相応しいです。また、「閲読」「繙読」「玩読」のいずれも、そのままでは謙譲の意味を含まないため、「いたす」や「させていただく」といった謙譲表現と組み合わせる必要があります。

《聞く》の謙譲語

「聞く」の敬語表現

自分自身が「聞く」という行為を目上の相手に対して伝えたい時に、「聞く」をそのまま使うのは敬語として不適切です。「聞きます」「聞いています」などの丁寧語にかえても、相手に十分な敬意を示すことはできず、目上の人にとって失礼な表現にあたります。そこで、目上の人に「聞く」と言いたい時には、相手にしっかりと敬意を表すことができる謙譲語に置き換えることが必要です。

「聞く」という言葉を使って正しい敬語表現に言い換えたい場合には、付け足し型の謙譲語である「お〜する」を使った「お聞きする」が適切です。やわらかい印象を与えるのと同時に、謙譲語によって自分の動作をへりくだることで、目上の相手を立てることができます。

また、「聞く」を全く別の言葉に言い換える謙譲語としては、「伺う」が一般的です。「伺う」には「目上の人の意見や指図(さしず)を得る」という意味があり、「伺います」「伺いましょうか」というように丁寧な表現にすることもできます。会話や文章にも多用される便利な言い回しで、ビジネスシーンにおいても問題なく使える敬語表現です。

「聞く」の敬語の最上級の表現

「聞く」の敬語には、「拝聴する」「拝聞する」という堅い表現もあります。「拝聴」「拝聞」は、いずれも「謹んで聞くこと」や「ありがたく聞くこと」を意味する謙譲語で、「拝聴する」「拝聞する」という改まったフレーズを用いることで、目上の相手に最上級の高い敬意を示すことが可能です。ただし、「拝聞する」は、意見、演説、講話など人の話を聞くことに限定して使われるのに対して、「拝聴する」は、人の話以外に、歌唱や音楽の演奏などを聞く場合にも幅広く使うことができるという違いがあります。日常ではあまり耳にしないかしこまった表現なので、会話の中で用いるよりも、ビジネスメールや手紙などの書き言葉として使うのに適していると言えるでしょう。

「聞く」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「御社の本店が移転するとお聞きしました」
「昨日はたいへん貴重なお話をお聞きすることができました。誠にありがとうございます」
「ご住所を伺うのを失念してしまい、たいへん申し訳ございません」
「お手数ですが、ご連絡いただいた案件の詳しい内容について、伺いたく存じます」
「先日の企画についてのお考えを拝聴したいと思っております。よろしくお願いいたします」
「明日のコンサートで、演奏を拝聴するのを楽しみにしております」
「この度の会合に参加させていただいたことで、たくさんの有益なお話を拝聞することができ、感謝の念に堪えません」
「先生のご評判はあちこちで拝聞しています」

「聞く」を上司に伝える際の敬語表現

上司に「聞く」と言いたい場合には、「お聞きする」「伺う」などの謙譲語表現が妥当です。日頃から親しみを持ってラフに接してくれる上司であっても、ビジネスシーンにおいて「聞きたいです」「聞きました」などの表現は控えるようにしましょう。一方で、上司との良好な関係を保つためには、形式的な敬語に拘らずに、状況や目的に合わせた柔軟な言い換え表現でコミュニケーションを取ることも大切です。

例えば、「お聞きしたい」「伺いたい」と伝える時には、「今、お聞きしてもよろしいでしょうか」「ご意見を伺いたいのですが、お時間いただけますか」と丁寧な疑問形すると、上司に考える猶予を与えることになり、謙虚な姿勢も示せます。また、「わかっている」と伝えたい場面では、シチュエーションに応じて「承っています」「承知しました」「かしこまりました」などの別の謙譲語を使っても問題ありません。適切な敬語を使って円滑に意思疎通を図ることは、業務のスムーズな進行にもつながり、上司にも好印象を与えることができるでしょう。

「聞く」の敬語での誤用表現・注意事項

「伺う」を丁寧に言い換える時に「伺わせていただく」「お伺いする」と表現するのは、文法的に誤りです。「伺う」が謙譲語であるため、「〜させていただく」や「お〜する」という謙譲語と組み合わせることで、二重敬語となってしまいます。同じく、「拝聴する」「拝聞する」を「拝聴いたします」「拝聞いたします」とするのも、謙譲語+謙譲語の二重敬語で不適切とされています。二重敬語は、特に違和感を感じないという人も多いですが、受け取る側で判断が分かれるため、念のためビジネスシーンにおいては使わないようにするのが無難です。

そのほかの誤用が多い敬語表現としては、「弊社へ伺ってくださいますか」「講演を拝聴されましたか」など、目上の人の行為に謙譲語を使ってしまうケースがあります。謙譲語は、自分自身の動作をへりくだる時に用いるという原則を忘れずに、誤って敬う相手の動作に使わないよう注意が必要です。普段は正しく使えていても、緊張で焦って言い間違えることもあるので、落ち着いて正しい敬語表現を心掛けましょう。

「聞く」の敬語での言い換え表現

伺う
伺います
伺いたいと思います
伺っています
伺いましょうか
伺えますか
伺いました
たしかに伺いました
伺いたく存じます
お聞きする
お聞きすることができる
お聞きします
お聞きした
お聞きできた
お聞きしたいと思います
お聞きしています
お聞きしましょうか
お聞きしますか
お聞きしました
お聞きしてもよろしいでしょうか
たしかにお聞きしました
お聞きしたく存じます
拝聴する
拝聴します
拝聴できる
拝聴できました
拝聴したいと思います
拝聴しています
拝聴しました
たしかに拝聴しました
拝聴してもよろしいでしょうか
拝聞する
拝聞します
拝聞できる
拝聞できました
拝聞したいと思います
拝聞しています
拝聞しました
たしかに拝聞しました
拝聞してもよろしいでしょうか

《来る》の謙譲語

「来る」の謙譲語表現

「来る」を謙譲語で表現する場合、「参る」となります。「参る」は「行く」の謙譲語ですが、「来る」の謙譲語として使用しても問題はありません。また、同様に「行く」の謙譲語である「伺う」も、「来る」の謙譲語として使用することができます。また、「参上する」という表現を使用することも可能です。

そして、「参る」「伺う」「参上する」は、それぞれ使用に適している場面が異なります。「参る」は、会話の相手や、メールの送り先である人を敬う場合に使用する謙譲語です。それに対して「伺う」は、「来る」にかかる場所そのものを敬う場合に用います。ビジネスのクライアントの会社や、目上の人にゆかりがある場所などです。「参上する」は、人がいるところに来るという意味があるため、無人の場所に来るという表現には用いることができません。そのため、それぞれを状況に応じて使い分ける必要があります。

「来る」の謙譲語の最上級の表現

「来る」を謙譲語として最上級の表現にする場合も、「参る」「伺う」「参上する」のいずれかを使用する形で問題ありません。どれも丁寧な表現で、目上の人に対しても使用することができます。ただ、中には「馳せ参じる」という言葉が、最上級の表現として適している場合があります。「馳せ参じる」とは、「急いで来る」という意味を持った謙譲語です。そのため、相手の時間を無駄にしないように、急いで来るという意味合いにすると、強い敬意を示すことができます。しかし、急ぐという意味合いが必ず含まれるため、使用できる場面は限られます。もし、急いで来るという表現をする必要がないのであれば、強い敬意を示す場合でも、「参る」「伺う」「参上する」の中から状況に応じて選択します。

「来る」の謙譲語のビジネスメール・手紙での例文

「来る」の謙譲語として「参る」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「新しい設備が弊社に参りました」「弊社のイベント開催の時期がやって参りました」といった形になります。「伺う」を使用する場合の例文は、「今御社の近くに伺っていますが、具体的な場所を教えていただけますでしょうか」「ちょうど御社ゆかりの地に伺っているところです」などです。「参上する」を用いるのであれば、例文は「ご連絡いただきましたので、只今参上しました」「会場に参上していますが、お客様はどちらにいらっしゃいますでしょうか」という風な表現となります。また、「上司がもうすぐ参ります」「担当者と一緒に伺っています」という風に、身内に対して使用することも多いです。

「来る」を上司に伝える際の謙譲語表現

身近な上司に対して「来る」の謙譲語表現をするのであれば、「参る」あるいは「伺う」が適しています。どちらも最上級の敬意を示せる謙譲語表現ですが、堅苦しい表現というわけではないため、身近な相手に使用しても問題はありません。「参上する」は格式張った表現なので、違和感を与える可能性が高いため、使用しない方が良いです。砕けた表現をする場合、ただの丁寧語である「来ます」が謙譲語に近い形で使用できることがありますが、謙譲の意思を明確にしたいのであれば、「参る」または「伺う」を使用するようにしましょう。

「来る」の謙譲語での誤用表現・注意事項

「来る」の謙譲語表現である「伺う」は、使用できる状況が限られます。「伺う」が使用できるのは、場所そのものを敬うことができる場合のみです。そのため、「今打ち合わせのための飲食店に伺いました」「もうすぐ上司が駅に伺います」など、特に敬う必要がない場所に対して用いるのは誤りです。場所を敬わないのであれば、「参る」を使用するようにしましょう。

そして、「参上する」を使用する場合は、「参上いたす」や「参上させていただく」など、二重敬語になってしまわないように注意が必要です。一般的な謙譲語は原則として、2つ以上を組み合わせて使用することがありません。そして、「参上」という言葉には、すでに謙譲の意味合いが含まれています。そのため、謙譲語である「いたす」や「いただく」を追加すると、過剰な敬語表現となってしまいます。したがって、「参上」は丁寧語と組み合わせて、「参上する」と表現するのが正しいです。

それと同様に、「参る」と「伺う」も二重敬語になってしまわないように注意しなければなりません。よくある間違いは、「来ています」という意味で使用する「参っております」や「伺っております」などの表現です。「参る」も「伺う」もすでに謙譲の意味が含まれているため、「います」の謙譲語である「おります」は必要ありません。

「来る」の謙譲語での言い換え表現

「来る」の謙譲表現には、「参る」「伺う」「参上する」以外では、「来会」や「到着」を使用したものがあります。「来会」は、何らかの集まりや催しの場に来るという意味を持ちます。そして、「到着」には、ちょうどその場所に来たという意味合いがあります。したがって、使用する場面が限定されますが、条件さえ合えば「来る」の代わりに使用することができます。ただ、「来会」も「到着」も、それだけでは謙譲の意味合いを持たないため、謙譲表現である「いたす」と組み合わせて、「来会いたす」や「到着いたす」とすることが望ましいです。

《いる》の尊敬語

「いる」の敬語表現

「いる」の尊敬語は、「いらっしゃる」「おいでになる」です。「人や物がじっと動かないでいる、低い姿勢で静かにしている」という原義の動詞「いる」に、「れる」「られる」の助動詞を付け加えて尊敬語化した言葉です。「いらす」という語はないため、「いらっしゃる」が直接「いる」の尊敬語として使用されます。「いらす」を使用するのは誤りです。また、相手との関係から敬意が強すぎる場合に、不自然とならないよう「お……になる」との形式を取ることがあります。左記のことから、「おいでになる」は少し敬意を弱くしたいときに使われる尊敬語としても用いられます。「おいでになる」は、漢字では「御出でになる」と書きます。

「いらっしゃる」「おいでになる」以外にも、「おられる」という言葉も「いる」の尊敬語として使用出来ます。しかし、「おる」という言葉は、関東では謙譲語として扱われ、関西では一般の動詞として扱われるなど、地方により「おる」という言葉の解釈が異なっています。そのため、人による「おる」の受け方が異なり違和感を招く場合があります。使用自体は間違っていませんが、「いらっしゃる」や「おいでになる」を使用する方が自然なコミュニケーションに繋がります。

「いる」の敬語の最上級の表現

「いる」の最上級敬語としては、「あらせられる」「いらせられる」という言葉が使用されます。「あらせられる」「いらせられる」は、漢字では「有らせられる」「入らせられる」と書きます。これは二重敬語で出来ています。二重敬語は、相手の動作を持ち上げる表現(尊敬語)に加えて、さらに「せる」や「られる」といった尊敬の助動詞を接続させた言葉です。この場合は、「あられる」「入られる」といった尊敬語に、「せる」「られる」の助動詞を接続した二重敬語となっており、「いらっしゃる」の意として使用されます。

「いる」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「いらっしゃる」は、例えば手紙の中で「先日の出張の際はお世話になりました。その際には、〇〇にいらっしゃっており、お会い出来て嬉しく存じました。」という「居る」ことに対して尊敬の言葉を使って伝える時に使われます。また、その他にも手紙の前半の挨拶文の「初冬の候、貴社におかれましては益々ご清栄の事と心よりお慶び申し上げます。◯◯様におかれましてもお元気でいらっしゃいますでしょうか。」といった、手紙の相手自身の「状態・状況」に対して使用されることもあります。

「おいでになる」は、例えば手紙の文中では「以前の出張の際に、現場に貴社の◯◯社長がおいでになっており、大変お世話になりました。」といった、手紙の相手の目上の人に対して使用する場合が多いです。この場合は「いらっしゃる」も使用できます。「おいでになる」は、目上の相手に対して直接使うのではなく、別の目上の人の「居る」ことを尊敬の言葉を使って訊ねたり伝える時に使用されます。

「いらっしゃる」は、目上の相手自身に対してだけではなく、別の目上の人について話をする時にも使用されます。

「いる」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して「いらっしゃる」「おいでになる」といった言葉を使う場合、「◯◯部長、先日の会議にはいらっしゃいましたか?」「◯◯部長、先ほど◯◯会社の◯◯様が1Fの受付にいらっしゃっていました。」「◯◯部長、今◯◯会社の◯◯様が我が社においでになっているようです。」「〇〇部長、今度のゴルフコンペの練習はされていらっしゃいますか?」などの表現で使用されます。

「おいでになる」は、目上の人が「居る」状況を表す時に使われます。「いらっしゃる」は目上の人が「居る」状況だけでなく「何かをして居る」状況も含めて訊ねたり伝える時に使用されます。

「いる」の敬語での誤用表現・注意事項

「いる」の尊敬語である「いらっしゃる」と「おいでになる」は、いずれも「いる」以外に「行く」「来る」の意味の尊敬語としてもよく使用されます。「いる」「行く」「来る」といったいずれの使用でも、大きな誤用や違和感はないですが、「行く」や「来る」の意味合いで使用している場合は「いらっしゃる」や「おいでになる」よりも丁寧な尊敬語が存在します。「いらっしゃる」や「おいでになる」は、色んな意味で捉えられる使いやすい言葉ですが、その反面状況によっては丁寧さに欠ける言葉になってしまうこともあります。「いる」という意味合いで使用できているか気を付けておく必要があります。

「いらっしゃる」をメールや手紙などの文書で使用する場合、漢字表記に注意が必要です。「いらっしゃる」は「居る」「行く」「来る」の意味を持った尊敬語ですが、語源は「入ってくる」を表す「入らせらる(いらせらる)」という尊敬語です。漢字で「居らっしゃる」と書くと間違いですので注意が必要です。また、「入らっしゃる」という漢字表記は正しいですが、見慣れない表現となるのでひらがな表記の使用が望ましいです。

「いる」の敬語での言い換え表現

「いる」の尊敬語としての「いらっしゃる」「おいでになる」の類語・関連語は、「御座います」「有ります」「在ります」「おわします」「いらしています」などがあります。

《見る》の尊敬語

「見る」の敬語表現

自分より立場が上の人が「何かを見ること」を「見る」という言葉でそのまま伝えるのは、日本語として不適切です。目上の人が動作の主体となっているにも関わらず、「見る」という言葉には相手への敬意が含まれていないため、目上の相手に失礼な表現となってしまいます。そのため、目上の人の「見る」という動作を伝えたい時には、尊敬語を用いた適切な敬語表現に置き換えることが必要です。

目上の人の「見る」という行為を表す尊敬語としては、「ご覧になる」が一般的です。相手を上の立場に置いて、十分な敬意を示すことができる丁寧な言い回しで、ビジネスシーンでも頻繁に使われています。「ご覧」だけでも「見る」の尊敬語として成立するので、「ご覧になりましたか」「ご覧になってください」「ご覧いただく」などと言い換えをしても、目上の人に敬意が伝わる適切な敬語表現であることに変わりありません。

一方で、「見る」の尊敬語には、「見る」という言葉に、尊敬の助動詞「られる」を組み合わせた「見られる」という表現もあります。正しい敬語表現ではありますが、受身や可能の目的で使われる「見られる」と間違えやすく、相手を敬う度合いもやや低い言い回しです。そのため、「見る」を尊敬語に置き換える場面では、「見られる」ではなく、「ご覧になる」を選ぶ人が多くなっています。

「見る」の敬語の最上級の表現

「見る」を表す尊敬語には、「ご高覧(こうらん)」「ご賢覧(けんらん)」という特別な表現もあります。そもそも、「高覧」「賢覧」は、「他人が見ることを敬う」という意味を持つ言葉ですが、さらに尊敬を表す接頭辞「ご」が加わっていることで、非常に高い敬意を表すことが可能です。「ご高覧ください」「ご賢覧いただく」のほか、「ご高覧に供する」「ご賢覧に呈す」といった格調高いフレーズでも用いることができ、身分の高い人やご年配の方にも安心して使うことのできる最上級の敬語表現と言えるでしょう。ただし、日常ではあまり耳にしない改まった表現なので、フォーマルな手紙やビジネスメールなどの書き言葉として使うのが最適です。

「見る」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「書類を見られて、ご質問などがございましたらお知らせください」
「詳しい内容につきましては、添付ファイルでお送りしましたので、お手隙の際にご覧になってください」
「送付させていただいた見積書をご覧くださいますよう、お願い申しあげます」
「ご要望がございましたら、実物をご覧いただくこともできますので、その旨ご連絡くださいませ」
「お忙しいところたいへん恐縮ですが、ご高覧の上、明日までにご返信いただけますようお願いいたします」
「こちらの文書をご高覧に供すると共に、ご活用いただけましたら幸いです」
「先日は弊社の展示会をご賢覧いただきまして、誠にありがとうございました」
「見本の品をご賢覧に呈しますので、よろしくお願いいたします」

「見る」を上司に伝える際の敬語表現

上司が「何かを見ること」を表現する時には、「ご覧になる」などの尊敬語を使うのが妥当です。たとえ上司が目の前にいない時であっても、上司の「見る」という行為を表す時には、しっかりと敬意を払うことができる敬語表現を用いるようにしましょう。また、シチュエーションや目的に応じて、「お目通しいただけますか」「お読みになってください」といった意味の類似する尊敬語を使っても問題ありません。定型の敬語にこだわらず、上手く意思疎通が図れる適切な表現を選ぶことで、上司との円滑なコミュニケーションや、良好な関係を築くことにもつながるでしょう。

「見る」の敬語での誤用表現・注意事項

「ご覧になる」をさらに丁寧に言おうとして、「ご覧になられる」と表現するのは文法的に誤りです。尊敬語の「ご覧」と「なられる」が重複して使われている二重敬語にあたり、ビジネスマナーでは不適切な表現とされています。同じく、「ご覧になりましたでしょうか」「ご覧くださいますでしょうか」なども、丁寧語+丁寧語の二重敬語で、敬語表現としては間違いです。二重敬語については、特に気にならないという人も多く、伝える相手によって判断は分かれますが、中には敬語が重なったくどい表現を不快に感じる人もいます。念のため、二重敬語を使うのは避けるようにして、誰からも受け入れられる正しい敬語表現を用いるようにしましょう。

「見る」の敬語での言い換え表現

見られる
見られた
見られました
見られます
見られましたか
見られますか
見られましたら
見られるのであれば
ご覧になる
ご覧になった
ご覧になって
ご覧になりました
ご覧になります
ご覧になりましたか
ご覧になりますか
ご覧になりましたら
ご覧になるのであれば
ご覧ください
ご覧くださいませ
ご覧くださいますか
ご覧くださいますよう
ご覧くださいましたら
ご覧いただく
ご覧いただいた
ご覧いただけますか
ご覧いただきます
ご覧いただけましたか
ご覧いただけましたら幸いです
ご高覧いただく
ご高覧いただけますよう
ご高覧ください
ご高覧くださいませ
ご高覧くださいますよう
ご高覧に供する
ご賢覧いただく
ご賢覧いただけますよう
ご賢覧ください
ご賢覧くださいませ
ご賢覧くださいますよう
ご賢覧に呈す

「見る」の尊敬語表現

「見る」の尊敬語表現として「ご覧になる」があります。古代の尊敬語「ご覧ず」が「ご覧になる」の由来です。上司や先生など目上の人が「見る」時に使われる表現です。また「見られる」という尊敬語表現もあります。「見る」の未然形「見」に、尊敬の意味を持つ助動詞「られる」が組み合わさってできています。「見られる」も「ご覧になる」と同様に目上の人が「見る」時に使用され、両方の言葉の意味に差異はありません。

「見る」の尊敬語の最上級の表現

「見る」の尊敬語の最上級の表現として「ご高覧」があります。物事を高く持ち上げて見てもらうという意味です。「ご覧になる」が直属の上司など自分に近い目上の人に使うのに対し、「ご高覧」は管理職や取引先などさらに敬意を高めたい人に向けて使います。また「ご高覧」は名詞です。したがって単独で使うのではなく、「ご高覧ください」・「ご高覧賜る」・「ご高覧に供する」など他の語句と組み合わせて表現します。

「見る」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

「ご覧になる」の例文は以下の通りです。「当日はスクリーンに貴重な映像を映しますので、どうぞ皆様席について最後までご覧ください」「この度は私のプレゼンテーションを長時間ご覧いただき、誠にありがとうこざいました」「部長が一度現場をご覧くだされば、いかにひどい状況であるかがご理解いただけると思います」

「見られる」の例文は以下の通りです。「先生は現在話題になっている映画はもう見られましたか」「我社のショールームを見られる場合には、ぜひ一言お声がけください」「同封した案内書を見られましたら、大切に保管してください」

「ご高覧」の例文は以下の通りです。「メールに画像を添付いたしましたので、ご高覧いただきたく存じます」「社長に拙作の資料をご高覧賜り恐悦至極に存じます」「私の制作した映画が皆様方のご高覧を拝しただけでも大変名誉なことでございます」

「見る」を上司に伝える際の尊敬語表現

「見る」を上司に伝える際の尊敬語表現として、「ご覧になる」・「見られる」・「ご高覧」を用いることが可能です。地位が高い上司には「ご高覧」を、身近な上司には「ご覧になる」・「見られる」を用います。相手の地位をよく確認してから表現しましょう。

「見る」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「ご覧になる」を用いる時に注意しなければいけないのは二重敬語です。「ご覧になる」は単体で尊敬語としての意味を持ちます。したがって「ご覧になられる」という表現は、尊敬語の「ご覧になる」と尊敬の助動詞「られる」が組み合わさっているため二重敬語となり不適切です。他方で「ご覧いただく」という表現は、尊敬語の「ご覧になる」と謙譲語の「いただく」の組み合わせのため、二重敬語には該当しません。

「見られる」は尊敬以外にも多様な意味を持ちます。なぜなら助動詞「られる」は尊敬以外に、自発・受身・可能の意味を持つからです。例えば「手紙を見られましたか」という表現は2通りの意味に取られます。1つ目の意味は上司など目上の人に対して「手紙を見ましたか」、と尊敬の念を込めて問うています。2つ目の意味は「(誰かに)手紙の中身を見られましたか」、という手紙が主体となる受身の意味です。このように1つの文章で解釈が何通りにも受け取られるため、誤解を避けたい場合には「ご覧になる」を用いることをおすすめします。

「ご高覧」は地位の高い人に使う敬語表現です。したがって身近な上司に使うとかえって失礼に当たります。上司との距離感を考えて適切に使用しましょう。また「ご高覧」は書き言葉のひとつです。主に手紙やビジネスメールなどで用いられます。口頭での使用は違和感が生じる場合があるので、口語で伝える場合は「ご覧になる」を用いたほうが賢明です。

「見る」の尊敬語での言い換え表現

「ご覧になる」の言い換え表現としてまず「ご参照(ください)」があります。「ご覧になる」と比較して、書類などを読んで参考にするという意味が含まれています。他の言い換え表現としては「ご観覧(ください)」です。「ご観覧」は好奇心を持って事象を見学するという意味も含まれています。「ご査収(ください)」という表現方法もあります。「ご査収」は文書の内容をきちんと確認して欲しい時に使う言い回しです。 「ご高覧」の言い換え表現としては「ご高閲」・「ご賢覧」・「ご清覧」・「ご笑覧」・「ご照覧」です。いずれも「~ください」・「~いただく」などと表現します。「ご高閲」・「ご賢覧」・「ご清覧」は「ご高覧」と同様の意味です。ただし「ご清覧」は自分が書いたものを見てもらうという意味を含むため、「ご高覧」と比べて範囲が限定的になります。また「ご笑覧」は笑いながら見て下さいというニュアンスを持ち、尊敬と謙譲が入り混じった表現です。受け手によっては軽い表現に取られがちです。したがってビジネスや改まった場所では用いず、プライベートの場所で用いることを推奨します。「ご照覧」は「ご笑覧」と音が似ていますが、こちらは主体が神仏・王族を想定しています。「ご高覧」と同様に最上級の敬意を表したい場合に用いましょう。

《行く》の尊敬語

「行く」の尊敬語表現

尊敬語は目上の人に対して、相手を高めて敬意を表す表現です。動詞の「行く(ゆく)」には、「向こうまたは目的地に向かって移動する」という意味があります。「(時間や水などが)流れる」「死ぬ」「物事をする」などの意味も持ちます。補助動詞として使う場合は、他の動詞と併せて「走って行く」などという使い方をします。 「ゆく」は「いく」と表現されることもあります。「いく」は話し言葉的な印象になるので、文章では「ゆく」を使うのが一般的です。促音便になるときは「ゆく」ではなく「いく」を使って、「いって」「いった」となります。

主な「行く」の尊敬語としては、「行かれる」「いらっしゃる」「おいでになる」があります。「行く」はカ行五段活用する動詞で、「行かれる」は「行く」の未然形に軽い尊敬を表す助動詞「れる」がついたものです。尊敬語としてはやや尊敬の度合いが低くなるので近い立場の、改まった関係ではない人に対して使うのが無難です。3つの中では、「おいでになる」がもっとも尊敬度の高い表現となります。

「いらっしゃる」「おいでになる」は「来る」の尊敬語でもあるので、状況や文脈から意味を理解するようにしましょう。「お行きになる」も文法上問題のない尊敬語として捉えることができますが、相手に違和感を与えることがあるため「いらっしゃる」「おいでになる」といった適切な尊敬語を使う方がよいといえます。

「行く」の尊敬語の最上級の表現

尊敬語の最上級の表現は最高敬語です。天皇や皇族、国王や王族に対してのみ使います。「行く」の最高敬語である「行幸(ぎょうこう)」は、天皇が外出されるときに使います。皇后と一緒のときは「行幸啓(ぎょうこうけい)」といいます。皇太孫までを含めた皇族の外出は、「行啓(ぎょうけい)」です。

「行く」を「死ぬ」という意味で使うときは、天皇、上皇、皇后、皇太后、太皇太后の死に際しては「崩御(ほうぎょ)」を使います。その他の皇族の場合は「薨去(こうきょ)」です。

「行く」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスの場面では顧客や取り引き先を、年齢や役職に関係なく目上として扱います。自分や上司、同僚など身内のことを取り引き先などに伝えるときは、尊敬語ではなく謙譲語の「参ります」や「伺います」を使いましょう。

「いらっしゃる」を使ったビジネスメールや手紙では、「先日いらっしゃった研修旅行の写真ができ上がりましたので、お送りいたします」などのように使います。「おいでになる」を使うと「来週の研修旅行には、おいでになりますか」のようになります。同僚への社内メールであれば、「出欠の返信がないようですが、来週の研修旅行には行かれますか」でもよいでしょう。

「行く」を上司に伝える際の尊敬語表現

上司といっても様々です。親しい直属の上司なら「来週の出張には、どなたと行かれますか」でも問題ないでしょう。あまり親しくない部署の違う上司や、頻繁には姿を見かけることのないほど立場が上の上司なら「先日いらっしゃった出張の、資金前渡の精算の件で参りました」「次回の月例会には、おいでになりますか」など、「いらっしゃる」や「おいでになる」を使うのが適切です。

「行く」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「いらっしゃる」の誤用としては、「いらっしゃられる」があります。「いらっしゃられる」は「行く」の尊敬語の「いらっしゃる」と、軽い尊敬を表す助動詞の「られる」からできています。尊敬を表す言葉が重なっているので、二重敬語となり間違いです。

「おいでになる」を「おいでになられる」とするのも、「いらっしゃられる」と同様の誤りです。どちらも誤用の頻度が高いので、尊敬の念を表そうとするあまり尊敬の意味のある言葉を2つ重ねて使わないように注意しましょう。

謙譲語の「参る」を、尊敬語と認識する間違いもあります。謙譲語は自分を下げて相手を立てる敬語なので、「社内会議には、部長が参られました」ではなく「部長がいらっしゃいました」などとするのが正しい使い方です。

一方、「取り引き先へは、何時に参られますか」は謙譲語として正しい使い方です。この場合には、立てるのは上司ではなく取り引き先になるからです。

配偶者や両親など身内のことを他者に話す場合「結婚式には、父母がおいでになりました」などのように、身内に対して尊敬語を使うのは間違いです。ビジネスシーンでは係長に対して「社内会議には、課長がいらっしゃいました」は正解ですが、部長に対して「課長がいらっしゃいました」は微妙です。一般的には、部長は課長よりも役職が上なので「課長が参りました」と謙譲語を使います。自身が課員であれば、課長は身内だからと考えることもできます。しかし課長を立てることで、さらに上の立場にいる部長も立てることになるとする考え方もあります。気になるようなら「いらっしゃる」や「おいでになる」よりも尊敬の程度の低い「行かれる」を使って「課長が行かれました」というとよいでしょう。取り引き先などに対しては、相手が新入社員だったとしても「課長が参りました」などと謙譲語を使います。

「行く」の尊敬語での言い換え表現

「行く」の尊敬語での言い換え表現は、「いらっしゃる」「おいでになる」「行かれる」を相互に言い換えることができます。

「死ぬ」の意味の尊敬語は、「逝去する」です。従って身内には使えません。一般的には「逝去される」として使います。尊敬語での言い換えは、「お亡くなりになる」です。

「行く」の敬語表現

目上の人がどこかに出向くことを、「行く」と表現するのは日本語として不適切です。「行く」という言葉には、動作の主体となる人への敬意が含まれていないため、「行く」とそのまま表現すると、目上の相手に対して失礼にあたります。そこで、目上の人の「行く」という行為を表現する時には、相手に敬意を示せる尊敬語に置き換えることが必要です。

目上の人が「行く」ことを表す敬語表現としては、「いらっしゃる」や「おいでになる」が一般的です。どちらも、目上の相手の「行く」という動作を高めることで敬意を表すことができる尊敬語の表現で、ビジネスシーンでも頻繁に使われています。「〜へいらっしゃいますか」「〜においでになるのですね」とさまざまなフレーズで用いることができ、やわらかい丁寧な言い回しによって、相手を敬う気持ちが十分に伝わる表現です。

「行く」の敬語には、尊敬の助動詞「れる」を組み合わせた「行かれる」という尊敬語もあります。正しい敬語ではありますが、簡易的な表現のため、敬意の度合いがやや低い印象のある言葉です。そのため、「行く」を尊敬語に置き換える場面では、「行かれる」よりも、「いらっしゃる」や「おいでになる」が使われることが多くなっています。

「行く」の敬語の最上級の表現

「行く」の尊敬語には、「お出ましになる」という特別な言い回しもあります。「お出ましになる」には、「身分の高い人がよそへ出向くこと・出席すること」という意味があり、「お出ましになりました」「お出ましいただく」などと丁寧に言い換えることも可能です。大和言葉の美しいフレーズで、目上の人の「行く」という動作に高い敬意を払える最上級の敬語表現と言えるでしょう。

ただし、日常生活ではあまり耳にすることのない改まった表現なので、たとえ目上の人であっても、使う相手によっては大袈裟で不自然だと受け取られる場合もあります。「お出ましになる」は、格式が高い家柄の人や重要な役職に就いている人など、最上級の敬語表現が相応しい身分の人に対して使うようにしましょう。

「行く」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「明日の展示会には、何時頃行かれますか」 「A社に行かれる時には、同行いたします」 「来週、出張で大阪にいらっしゃると伺いました」 「本日のパーティーにいらっしゃるのであれば、○○様によろしくお伝えくださいませ」 「次のご旅行は、どちらにおいでになるのでしょうか」 「来週の食事会には、おいでになりますか」 「家元がお出ましになる際には、是非ともお知らせくださいますようお願い申しあげます」 「次回の全社会議には、会長にお出ましいただくことになりますので、何卒よろしくお願いいたします」

「行く」を上司に伝える際の敬語表現

上司の「行く」という動作を表現する時には、「いらっしゃる」や「おいでになる」など、しっかりと敬意が伝わる尊敬語を使うのが妥当です。日頃から優しく接してくれるフレンドリーな上司であっても、ビジネスの場において、「〜に行きましたか」「〜に行くのでしたら」などの敬意を省いた表現を使うのは控えるようにしましょう。

また、目的やシチュエーションに会わせて、「お出掛けになりますか」「足を運ばれたのですね」などと、類似した意味を持つ別の尊敬語を使っても問題はありません。定型の敬語だけに拘らずに、会話の自然な流れや状況を考慮した最適な敬語表現を使うことが、上司との円滑なコミュニケーションにもつながるでしょう。

「行く」の敬語での誤用表現・注意事項

「行く」の尊敬語として、尊敬表現の「お〜なる」を組み合わせた「お行きになる」という表現もあります。しかし、「行く」の尊敬語として「いらっしゃる」や「おいでになる」が定着していることから、「お行きになる」という敬語が使われることはほとんどありません。文法上の間違いはありませんが、耳慣れない表現に違和感を感じる人も少なくないので、ビジネスシーンにおいても使わない方が無難でしょう。

また、「いらっしゃる」や「おいでになる」を使う時に、なるべく丁寧に言おうとして、「いらっしゃいますでしょうか」「おいでになりますでしょうか」と表現するのは不適切です。丁寧語+丁寧語の二重敬語となり、マナーに反する敬語表現とされています。同様に、「いらっしゃられますか」「おいでになられますか」も、尊敬語+尊敬語の二重敬語となり、日本語として誤った表現です。敬語が重なったくどい言い回しを不愉快に感じる人もいるので、緊張した時などに言い間違えることのないよう、日頃から正しい敬語表現を心掛けましょう。

「行く」の敬語での言い換え表現

行かれる
行かれます
行かれますか
行かれました
行かれましたので
行かれましたか
いらっしゃる
いらっしゃいます
いらっしゃるので
いらっしゃるのであれば
いらっしゃるのでしょうか
いらっしゃいますか
いらっしゃった
いらっしゃいました
いらっしゃいましたので
いらっしゃいましたか
おいでになる
おいでになります
おいでになりますので
おいでになりますか
おいでになるのでしょうか
おいでになった
おいでになりました
おいでになりましたので
おいでになりましたか
お出ましになる
お出ましになりますので
お出ましになった
お出ましになりました
お出ましになりましたので
お出ましいただく
お出ましいただいた
お出ましいただいたので
お出ましいただけますか

《食べる》の尊敬語

「食べる」の尊敬語表現

「食べる」は、「たべる」と読みます。「食べる」の意味は、「噛んで飲み込む」です。 「食べる」は、本来は目上の人からもらって食べるという意味です。それが自身の飲食する行為をへりくだって言うことばとなったため、かつては謙譲語でした。「食べる」はさらに変遷して「食う」を和らげて言う言葉となり、現在では敬意はほとんどなくなっています。「飲む」行為にも使われません。 現在は「食べる」行為に対する尊敬語として、「食う」の尊敬語である「召し上がる」が使われています。

「食べる」の尊敬語の最上級の表現

敬語の最上級の表現は、最高敬語という尊敬語です。天皇や皇族、王や王族に対してのみ使うことができます。しかし「食べる」の尊敬語「召し上がる」は、最高敬語ではありません。最高敬語がない場合には、わざと1つの言葉に同種の敬語を重ねた二重敬語を使って天皇や皇族に敬意を表します。 そのため「召し上がる」は、二重敬語が最上級の表現となります。「召し上がる」の二重敬語は、「お召し上がりになる」です。「お召し上がりになる」は「召し上がる」という尊敬語に、尊敬語独自の動詞がない場合につけて尊敬語にする「お~なる」という尊敬語の表現が重なっています。

「食べる」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

「食べる」の尊敬語「召し上がる」は敬語なので、そのままビジネスメールや手紙にも使うことができます。「社長は、昼食を召し上がりました」「昼食は、会社で召し上がりますか」「時間がないので、社長は昼食を召し上がりません」などの使い方ができます。 得意先など社外の人に対しても、「昼食は、弊社で召し上がってください」「先日召し上がったお菓子は、弊社で製造しております」などのように使うことが可能です。

「食べる」を上司に伝える際の尊敬語表現

「食べる」を上司に伝える際も、ビジネスメールや手紙と同じように尊敬語の「召し上がる」を使って言うことができます。「昼食は召し上がりましたか」「課長は夕食に、和食を召し上がりました」「健康のため、社長はお酒は召し上がりません」などのように使えます。 「召し上がる」は尊敬の程度の高い尊敬語なので、課長にも社長にも使えます。しかし社長と課長が同席している場合には、多少の配慮が必要です。課長に対して「社長は、昼食を召し上がりました」は問題のない表現ですが、社長に対して「課長は昼食を召し上がりました」と言うのは失礼に当たると考える人もいます。社長の方が、課長よりも目上だからです。自身が課員の場合は、身内には敬語は使わないと考えることもできます。

一方で、課長に敬意を表することが、さらに上の立ち場の社長にも敬意を表することになるという考え方もあります。気になる場合は「お食べになる」を使って「課長は、昼食をお食べになりました」と言うとよいでしょう。「食べる」には「召し上がる」という、尊敬語独自の動詞があります。そのため本来は「召し上がる」を使うべきですが、あえて敬語を使って優劣をつけたい場合には目安として尊敬語独自の動詞、「お~なる」の形の動詞の順に尊敬の程度が低くなるため、「お食べになる」を使うことでどちらの上司に対しても礼を失することなく「食べる」を上司に伝えることができます。

「食べる」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「召し上がる」を「食べる」の尊敬語として使う場合には、「飲む」という行為も含みます。そのため「お茶を召し上がる」「お酒を召し上がる」など、液体を摂取する場合にも使うことができます。 相手に食べてもらいたいときに、「いただいてください」というのは誤用です。「いただく」は「食べる」の謙譲語であり、自分の動作にしか使えません。相手に「食べてください」と言う場合は、尊敬語の「召し上がる」を使って「召し上がってください」と言うのが正しい表現です。

食品のパッケージなどに書かれている「お召し上がりください」も、「召し上がる」の誤用です。「召し上がる」自体が尊敬語のため、動詞の連用形について尊敬の意を表す「お」をつけることで二重敬語になります。この場合も、正しくは「召し上がってください」です。

「食べる」の尊敬語での言い換え表現

「食べる」の言い換えには、「食事をする」があります。「食事をする」の尊敬語は「食事をされる」です。名詞の「食事」に格助詞の「を」がつき、動詞「する」の未然形「さ」に助動詞の「れる」がついた「される」の形で尊敬を表します。「する」は、「れる」「られる」にならない特殊な形です。 「食事を摂る」も「食べる」の言い換えです。敬語表現は、「食事を摂られる」です。「摂る」には尊敬語独自の動詞がなく、語幹が1音節の動詞なので「お~なる」にもなりません。動詞「摂る」の未然形「摂ら」に助動詞の「れる」がついて軽い尊敬を表しています。

「食べる」を「空腹を満たす」に言い換えると、尊敬語は「空腹をお満たしになる」です。「口に入れる」と言い換えると、「口にお入れになる」が尊敬語になります。どちらも「お~なる」の形の尊敬語です。 「食べる」を「腹ごしらえをする」と言い換えると、尊敬語は「腹ごしらえをされる」になります。これは「腹ごしらえ」という名詞に格助詞の「を」がつき、「する」の未然形「さ」に助動詞の「れる」がついて「される」の形で尊敬の意を表しています。

《着る》の尊敬語

「着る」の尊敬語表現

「着る」を尊敬語で表現する場合、「召す」という言葉を使用します。そして、目上の人が着ている様子を表す場合、「お召しになる」という形となります。そして、「召される」という表現もあり、「着る」の尊敬語として使用するのであれば、「お召しになる」と意味は変わりません。また、「着られる」という表現を使用することもあります。「お召しになる」や「召される」よりも尊敬の度合いは低く、砕けた表現ではありますが、尊敬の要素を持っている助詞「れる」を使用しているため、尊敬語として使用することができます。

「着る」の尊敬語の最上級の表現

「着る」を最上級の尊敬語で表現する場合、「お召しになる」あるいは「召される」を使用します。「お召しになる」は尊敬語である「召す」と、尊敬の表現の「お~になる」を組み合わせたものです。尊敬を意味する表現が2つ含まれているため、相手に対して強い敬意を示すことができます。厳密には二重敬語ですが、古くから一般的に使用されてきたため、正しい表現であると認められています。そして、「召される」も同様に、二重敬語でありながら、現代では正しいと認められている表現です。尊敬語「召す」と尊敬の要素を含んだ助詞「れる」を組み合わせた形で、「お召しになる」と同等の、強い敬意を示すことができます。

「着る」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

「着る」の尊敬語として「お召しになる」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「先日お召しになっていらっしゃったお洋服は素敵でした」「寒さが懸念されますので、当日は防寒が可能な服をお召しになってくださいませ」となります。「召される」を使用するのであれば、例文は「お客様は翌日、紺のスーツを召されるとのことでした」「当日の会場でそちらの服を召されるのは、好ましくないかと存じます」などの形です。「着られる」を使用した際の例文は、「ご購入なさった服は、いつ頃着られますでしょうか」「激しい運動を伴いますので、動きやすい服を着られるとよろしいかと存じます」となります。

「着る」を上司に伝える際の尊敬語表現

上司に対して「着る」を尊敬語表現にする場合、「お召しになる」「召される」を使用するのが無難です。特に、立場が離れている上司に対しては、かしこまった表現である「お召しになる」あるいは「召される」を使用することが好ましいです。ただ、身近な上司に対して「お召しになる」や「召される」を使用すると、堅苦しい印象を与えてしまう恐れがあります。そのため、親密な雰囲気を演出したいのであれば、少し砕けた表現である「着られる」を使用します。

「着る」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「着る」の尊敬語として「お召しになる」という表現を用いる場合、「お召しになられる」とならないように注意が必要です。「お召しになられる」という言葉は、すでに尊敬語表現となっている「お召しになる」に、尊敬の意味を持っている助詞「れる」を組み合わせたものです。そのため、過剰な尊敬語表現となります。一般的には、ひとつの言葉の中で、複数の尊敬語表現を用いることはありません。「お召しになる」も、厳密には2つの尊敬語表現が使用されていますが、あくまでも特殊な例です。したがって、「お召しになられる」という過剰な尊敬語表現は使用しないようにしましょう。

そして、「召される」を使用する場合は、他の意味として捉えられないよう注意が必要です。「召される」は、「着る」だけでなく、「する」や「飲食する」といった言葉の尊敬語でもあります。ただ「召される」と表現するだけでは、それらの意味と混同してしまう恐れがあります。そのため、「着る」という意味が明確になるような表現にしなければなりません。もし、他の意味として捉えられる恐れがある場合は、「お召しになる」を使用した方が無難です。「お召しになる」にも「着る」以外の意味がありますが、一般的には「着る」という意味で使用されることが多いので、意味がはっきり伝わりやすいです。

さらに、尊敬語である「着られる」は、「着る」の受け身表現と同じ形です。そして、受け身表現の「着られる」は、着ている人よりも服の方が立派だということを示す「服に着られる」という表現で使用されることがあります。「着られる」を使用すると、その「服に着られる」を連想させてしまい、失礼な印象を与えてしまう恐れがあるので要注意です。失礼な対応になってしまうリスクを避けるのであれば、「お召しになる」を使用した方が良いでしょう。

「着る」の尊敬語での言い換え表現

「着る」の尊敬語には、「ご着用になる」という表現もあります。「ご~になる」という尊敬語の要素を含んでいる表現で、目上の人に対しても使用することができます。また、「ご~なさる」という敬語表現を用いて、「ご着用なさる」とすることも可能です。「ご着用になる」よりは「ご着用なさる」の方がかしこまった表現である上に、「なさる」の部分で尊敬語だということが伝わりやすいです。そのため、敬意を明確にしたいのであれば、「ご着用なさる」を使用すると良いでしょう。また、「ご」を省いた「着用なさる」でも、尊敬語として成立します。

《読む》の尊敬語

「読む」の尊敬語表現

「読む」を尊敬語表現にすると、「お読みになる」となります。「読む」と「お~になる」という尊敬語表現と組み合わせた形で、目上の人に対しても問題なく使用することができます。また、尊敬の要素を含んだ助動詞「れる」と組み合わせて、「読まれる」という表現にすることも可能です。「お読みになる」と「読まれる」は尊敬の度合いに大差はなく、どちらを使用しても失礼にはなりません。

「読む」の尊敬語の最上級の表現

一般的な「読む」の尊敬語は、「お読みになる」または「読まれる」以外にはありません。そのため、最上級の尊敬語表現をする場合も、「お読みになる」あるいは「読まれる」を使用します。もし、より強い敬意を示したいのであれば、別の動詞と組み合わせて「お読みになっていらっしゃる」や「お読みくださる」といった表現にする方法があります。

「お読みになっていらっしゃる」は、「読む」を「読んでいる」とした上で尊敬語に変えた表現で、「読む」と「いる」がそれぞれ、「お読みになる」「いらっしゃる」という尊敬語に変えてあります。2つの尊敬語を組み合わせているため、強い敬意を示すことができます。そして、「読む」と「いる」はそれぞれ別の動詞なので、二重敬語ではありません。

「お読みくださる」も同様に、「読む」を「読んでくれる」という表現に変えてから尊敬語にしたものです。「読む」の尊敬語である「お読みになる」と、「くれる」の尊敬語「くださる」が組み合わさっています。こちらも「お読みになっていらっしゃる」と同様に、2つの尊敬語を使いながら、二重敬語にはなっていない表現です。「お読みになっていらっしゃる」「お読みくださる」は「お読みになる」や「読まれる」よりも使用できる場面が限定されますが、使用することができれば、相手に強い敬意を示せます。

「読む」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

「読む」の尊敬語として「お読みになる」「読まれる」を使用する場合、例文は「先日お渡しした本は名著ですので、お読みになった方がよろしいかと存じます」「今回の企画書は読まれましたでしょうか」となります。そして、より強い敬意を示すために「お読みになっていらっしゃる」を使用するのであれば、例文は「先日お読みになっていらっしゃった本は、どのようなタイトルか教えていただけますでしょうか」「弊社のメールマガジンはお読みになっていらっしゃいますでしょうか」といった形です。「お読みくださる」を使用する場合の例文は、「長文となりましたが、お読みくださいましてありがとうございます」「お客様はすでに説明文をお読みくださったそうです」となります。

「読む」を上司に伝える際の尊敬語表現

上司に対して「読む」を敬語で表現する場合、「お読みになる」または「読まれる」を使用することになります。どちらも目上の相手に使用しても問題ない表現です。また、より砕けた尊敬語表現はないため、身近な上司に対する表現も、「お読みになる」または「読まれる」を使用します。「お読みになっていらっしゃる」や「お読みくださる」は、かしこまった表現なので、立場の離れた上司に使用するのが好ましいです。身近な上司に使用する場合は、「お読みになっている」や「読んでくれます」のような、砕けた表現をした方が良いでしょう。

「読む」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「読む」の尊敬語として「お読みになる」を使用する場合、「お読みになられる」という表現にならないように注意が必要です。「お読みになられる」は、「お読みになる」と尊敬の要素を含んだ助動詞「れる」を組み合わせたものです。しかし、「お読みになる」はすでに尊敬語として成立しているため、そこに「れる」を付け足すと、二重敬語という過剰な敬語表現になってしまいます。二重敬語は一般的な敬語としては使用しないため、「お読みになられる」という表現は避けましょう。

また、「拝読なさる」や「拝読される」といった、誤った表現を使用しないように注意が必要です。より強い敬意を示そうとした場合に多い表現で、格式張った熟語を使おうとすると、「拝読」という言葉を選びがちです。確かに、「なさる」や「される」は尊敬語です。しかし、「拝読」は尊敬語ではなく謙譲語で、尊敬すべき相手がへりくだる形になってしまいます。そして、尊敬語と謙譲語を組み合わせるのは文法的な誤りなので、「拝読なさる」「拝読される」は間違った表現です。

「読む」の尊敬語での言い換え表現

「読む」の尊敬語には、「ご精読なさる」「ご精読くださる」という表現があります。「精読」は文章をじっくり読むという表現で、相手に読むことを勧める際に使用する場合が多いです。そして、「精読」そのものには尊敬の要素が含まれていないため、「なさる」あるいは「くださる」と組み合わせて尊敬語にします。

また、「ご覧になる」という尊敬語表現を使用することもできます。「ご覧になる」は「見る」の尊敬語ですが、「読む」という意味合いも含まれています。ただ、あくまでも「見る」という意味なので、じっくり読むという表現の時には不適切です。相手が文章を簡単に確認したり、目を通したりするという表現をする際に用いることができます。そして、「ご覧になる」と同様の、目を通すという意味を持った尊敬語には、「ご一読なさる」という表現もあります。

《来る》の尊敬語

「来る」の尊敬語表現

「来る」の尊敬語表現には、「いらっしゃる」や「おいでになる」、「お越しになる」などがあります。「いらっしゃる」と「おいでになる」は、いずれも「来る」の尊敬語としてそのまま使用することができます。「お越しになる」も「来る」の尊敬語ですが、遠くからやって来るという意味合いが含まれています。そのため、「いらっしゃる」や「おいでになる」よりも、使用できる場面は限定されます。

そして、「おいでになる」と「お越しになる」は、「来てくれる」という意味合いで、「おいでくださる」「お越しくださる」という敬語表現にすることも可能です。「おいで」と「お越し」がそれぞれ尊敬語で、そこに「くれる」の尊敬語である「くださる」が付け足された形です。「くださる」は「おいで」「お越し」とは別の単語であるため、間違った二重敬語表現ではありません。つまり、文法的に正しい形で2つの尊敬語が含まれている表現となるので、「おいでくださる」あるいは「お越しくださる」を使用すると、より強い敬意を示すことができます。

さらに、「来られる」という表現をすることも可能です。「来る」と、尊敬の要素を含んだ助動詞「れる」を組み合わせた表現です。「いらっしゃる」「おいでになる」「お越しになる」よりは砕けた表現ですが、文法上は尊敬語であり、実際に尊敬語として使用されることは多いです。

「来る」の尊敬語の最上級の表現

「来る」の尊敬語の最上級表現は、「お見えになる」です。「お見え」の部分に尊敬語の要素が含まれていて、目上の人に対して最適となる表現です。「来る」の尊敬語にはいくつかの種類がありますが、その中で「お見えになる」が最上級の尊敬語表現です。そのため、相手に対して強い敬意を示したいのであれば、「いらっしゃる」や「お越しくださる」などではなく、「お見えになる」を使用すると良いでしょう。

「来る」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメールや手紙で、「来る」の尊敬語として「いらっしゃる」を使用する場合、例文は「当日は念のため、時間に余裕を持っていらっしゃいますよう、よろしくお願いいたします」「本日は弊社のイベントにいらっしゃいまして、ありがとうございました」となります。「おいで」を用いる際の例文は、「昨日、お客様が打ち合わせのためにおいでになりました」「当日はお気を付けておいでくださいませ」などです。「お越し」を使う場合、例文は「翌日、お客様がお越しになるそうです」「先日は遠いところまでわざわざお越しくださり、ありがとうございました」という風になります。

「お見えになる」を使った例文は、「お客様は急な予定が入ったとのことで、お見えにならないそうです」「お見えになりましたら、ご連絡いただければ、お出迎えに上がります」といった形です。「来られる」を使用するのであれば、例文は「急なお誘いで申し訳ありません。もし、来られましたら幸いでございます」「お客様は予定が合わないため、来られないそうです」のような形となります。

「来る」を上司に伝える際の尊敬語表現

上司に対して「来る」を尊敬語表現で伝える場合、「来る」の主語となるのがビジネスのクライアントや別の上司であれば、「いらっしゃる」や「おいでになる」「お越しになる」を使用することが好ましいです。また、主語が上司本人である場合も、同様の表現を使用して特に問題はありません。ただ、上司との距離感が近いのであれば、「いらっしゃる」や「おいでになる」では堅苦しい印象を与える恐れがあります。その場合は、「来られる」を使用すると良いでしょう。「来られる」は砕けた表現ですが、尊敬語ではあるため、ある程度親しみを込めながら、上司に対する敬意を示すことができます。

「来る」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「来る」の尊敬語として「おいでになる」「お越しになる」「お見えになる」を使用する場合、いずれも過剰な敬語表現になってしまわないように注意が必要です。強い敬意を示そうとするあまり、「おいでになられる」「お越しになられる」「お見えになられる」となってしまうことがありますが、どれも誤った表現です。「おいで」「お越し」「お見え」には、それぞれ尊敬語の要素が含まれています。そこに尊敬の要素を持った助動詞「れる」を加えると、二重敬語表現になってしまいます。

二重敬語は、一部の例外を除いて、間違った表現とされています。「おいでになる」と「お越しになる」はそのままでも尊敬語として成立しますが、より強い敬意を示したいのであれば、「おいでになられる」「お越しになられる」ではなく、「おいでくださる」「お越しくださる」を使用するようにしましょう。また、「お見えになる」は、そのままでも「来る」の最上級の敬語表現なので、別の形に変化させる必要はありません。

「来る」の尊敬語での言い換え表現

「来る」の尊敬語には、「ご来訪くださる」や「ご来社くださる」といった表現もあります。「ご来訪くださる」は文字通り、訪ねてきてくれるという意味を持ち、「おいでくださる」や「お見えになる」と同様の使い方ができます。「ご来社くださる」は、尊敬の対象となる人が自身の会社にまで来てくれるという意味で、使用できる場面が限定されます。また、「ご足労くださる」という表現も、「来る」の尊敬語として使用することができます。わざわざ足を運んできてくれるという、相手を労う意味合いが含まれている表現です。

《連絡下さい》の敬語

「連絡下さい」の敬語表現

「連絡下さい」に、尊敬語の「ご」を付けて「ご連絡下さい」とするだけでも敬語表現になります。ただし、「下さい」というのは「くれ」の尊敬語なので、敬語を使っていても命令をするような言葉になってしまうため、「ご連絡下さいませ」と「ませ」を語尾に付けることで、やわらかく丁寧な表現になります。また「ご連絡をお願いします(いたします)」や「ご連絡下さいますようお願いいたします(申し上げます)」と、語尾でお願いをして締めくくることで、さらに丁寧な表現となります。他にも「連絡下さい」の「下さい」を、「~のほど」を使って依頼する表現に変えて敬語にすると、「ご連絡のほどお願いいたします(申し上げます)」となります。

「連絡下さい」の敬語の最上級の表現

いくら敬語表現に変えても「下さい」では命令形のままなので、「もらう」に言い換えて謙譲表現にした、「いただく」や「賜る」を使った方が、敬語として丁寧です。そして、同じ謙譲表現でも「いただく」よりも「賜る」の方が、恐れ多いという気持ちをより感じる言葉なので、「ご連絡賜りますようよろしくお願い申し上げます。」とするのが最上級の表現となります。さらに「何卒」を付け加えて「ご連絡賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。」とすることで、「どうぞお願いします」と相手に懇願するとともに、より丁寧にお願いすることができます。

「連絡下さい」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

お客様に、送付した証明書が手元に届いたら連絡をくれるようにとお願いするメール。「ご多忙中お手数をおかけしますが、当社より郵送した証明書が届きましたら、ご連絡賜りますようよろしくお願い申し上げます。

社内での懇親会への参加の可否をたずねるメール。「営業部で懇親会を開催することとなりました。つきましては、今週中に参加の可否を幹事の○○まで、ご連絡いただきますようよろしくお願いいたします。」

施工を依頼した会社へ、工事の進み具合をたずねるメール。「先日依頼しました工事の件ですが、そちらは天候の悪い日が続いていると聞きました。お手数をおかけしますが、本日までの工事の進み具合をご連絡いただけますと幸いです。」

お客様に、見積り完了をお知らせするメール。「お見積りが完了しましたので、本メールに見積書を添付いたしました。ご不明な点などございましたら、どうぞお気軽にご連絡くださいませ。」

ウェブサイトの運営者に、品切れ中の商品の入荷を知らせてほしいと依頼するメール。「ウェブサイトで売り切れになっていた商品ですが、再入荷があれば購入したいと思っております。再入荷があれば、ご連絡お願いいたします。」

「連絡下さい」を上司に伝える際の敬語表現

お客様の来店に合わせるため、部長の予定をたずねる会話。「お客様より、明日ご来店したいとの連絡をいただきました。つきましては、部長の明日の予定をご連絡いただけますでしょうか。」

サンプルの確認が済み次第生産に取り掛かるので、連絡をくださいという会話。「お忙しいところ大変恐縮なのですが、完成しましたサンプル品の最終確認が済み次第、即時生産に取り掛かりますので、ご連絡のほどよろしくお願いいたします。」

会議内容の採決をたずねるメール。「昨日の会議での件ですが、部長のお考えが決まり次第、ご連絡いただければと存じます。」

転送したメール内容の確認後、連絡をくれるように依頼するメール。「○○様よりメールが届きましたので転送いたしました。内容をご確認いただけましたら、ご連絡下さいますようお願いいたします。」

打ち合わせの日程調整のため、希望日時を確認するためのメール。「打ち合わせを今週末までに行いたいと思っております。日程調整をいたしますので、ご希望の日時がございましたらご連絡いただきたく存じます。」

「連絡下さい」の敬語での誤用表現・注意事項

「連絡下さい」は、連絡してくださいとお願いをしています。「ご連絡お願いします」だけでも敬語表現になっていますが、それだけでは誰(どこ)に連絡するのかが分かりません。前後の文章の流れで、誰(どこ)に連絡するのかが分かりにくい場合は、「ご連絡下さいますようお願いいたします」や「ご連絡いただきますようお願い申し上げます」のように「下さい」や「いただく」を入れることで、「連絡下さい」と発した人(企業など)に連絡をしてくれるように、ということが伝わります。

「連絡下さい」の敬語での言い換え表現

「連絡下さい」の敬語での言い換えは、「連絡をもらいたい」の敬語表現の「ご連絡いただきたく存じます」や「ご連絡いただければと存じます」、「ご連絡賜りますようよろしくお願いいたします(申し上げます)」があります。さらに「連絡下さい」という意味で「連絡もらえますか?」とたずねるように、「ご連絡いただけますでしょうか」と言い換えることもできます。それ以外にも、「連絡をもらえたら嬉しい」という意味で「ご連絡いただければ幸いです」や「ご連絡いただけると幸甚です」。「連絡が来るのを待っている」という意味で「ご連絡をお待ちしています」と言い換えることもできます。

2022年3月22日火曜日

《良かったです》の敬語

「良かったです」の敬語表現

「良かったです」は、「良い」の過去形である「良かった」と丁寧語の「です」から構成されており、敬語表現としてそのまま使うことができます。「良かったです」のより丁寧な敬語表現は、「よろしゅうございます」や「ようございます」となります。また、「よろしかった」に丁寧語の「ですね」をつけた「よろしかったですね」も、「良かったです」の敬語表現です。「よろしかったですね」は相手の状態を一緒に喜んでいることを表現できる言い回しで、目上の人に良いことがあった時などに「それはよろしかったですね」と伝えます。

「良かったです」の敬語の最上級の表現

「良かったです」の敬語の最上級の表現は、「よろしゅうございます」になります。しかし、日常生活・ビジネスどちらにおいてもほとんど使われないため、「良かったです」を言い換えた最上級の敬語表現を使うのが適切です。「良かったです」の言い換え表現の中で最も丁寧なのは、「喜ばしい限りです」になります。「この上なく」という強調表現をつけて「この上なく喜ばしい限りでございます」にすると、さらに丁寧な敬語表現となります。また、「ありがとうございます」も「良かったです」の言い換え表現であるため、強調表現の「誠に」をつけた「誠にありがとうございます」も最上級の敬語表現となります。

「良かったです」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメール・手紙においては、直接的な表現を避けるのがビジネスマナーとされています。また、「良かったです」は文章として書くにはカジュアルな表現であり、「よろしゅうございます」や「ようございます」も慇懃無礼な印象を与える言い回しであるため、別の表現に言い換えるのがよいでしょう。

例文:平素より大変お世話になっております。先日は、セミナーでお会い出来て光栄でした。よろしければ、今後の方針について打ち合わせさせていただきたく存じます。ご検討ください。

例文:お世話になっております。この度は、御社のプロジェクトのお役に立てたようで誠に喜ばしい限りでございます。今後ともよろしくお願いいたします。

例文:このたびの台風被害に際し、心よりお見舞いを申し上げます。幸い社屋に被害はなかったとお聞きし、安堵いたしました。一日も早い復旧をお祈りしています。

「良かったです」を上司に伝える際の敬語表現

「良かったです」を上司に伝える際の敬語表現は、上司との関係性や状況によって異なります。親しい間柄の上司であれば、「良かったです」を使っても構いません。ただし、直属ではない上司や高い地位の上司に対して「良かったです」を使うと失礼に当たります。状況に合わせた「良かったです」の言い換え表現を使うのが適切です。上司の昇進や栄転などに対する喜びを伝える場合は、「昇進されて良かったですね」ではなく「昇進おめでとうございます」と言い換えられます。

また、上司と一緒に仕事ができて嬉しかった気持ちを伝える場合は、「一緒にお仕事ができて良かったです」ではなく、「一緒にお仕事ができて光栄です」と言い換えることができます。直属ではない上司や高い地位の上司の場合は、語尾を「ございます」に変えて「一緒にお仕事ができて光栄でございます」と伝える方が適切です。状況に合わせて適切な敬語表現が使えるように、「良かったです」の言い換え表現を把握しておく必要があります。

「良かったです」の敬語での誤用表現・注意事項

「良かったです」の疑問形の敬語表現として、「よろしかったでしょうか?」というフレーズが用いられることがあります。語尾が丁寧語表現の「でしょうか」であるため文章的に間違っていないように感じますが、正しい表現ではありません。例えば、「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」という表現では、現在のことを「よろしかった」という過去形でたずねている形となります。正しい表現は、「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」です。

また、「良かったです」は敬語ではありますがカジュアルな表現であるため、友達や同僚など親しい間柄の人に対して使うのが適切です。目上の人に使うのは不適切とされているので、注意が必要です。「よろしゅうございます」や「ようございます」も「良かったです」の敬語表現ではありますが、日常会話で使われることもほとんどなく、ビジネスシーンではネガティブな印象を与えることもあります。そのため、特にビジネスシーンにおいては、「喜ばしい限りです」や「何よりです」など状況に合わせた言い換えをするのが無難です。

「良かったです」の敬語での言い換え表現

・よろしゅうございます
・よろしゅうございました
・ようございました
・よろしかったですね
・嬉しく思います
・嬉しい限りです
・嬉しい限りでございます
・この上なく嬉しい限りでございます
・嬉しく存じます
・喜ばしい限りです
・喜ばしい限りでございます
・この上なく喜ばしい限りでございます
・喜ばしく存じます
・何よりです
・何よりでございます
・安心しました
・安心いたしました
・ありがとうございます
・誠にありがとうございます
・光栄です
・大変光栄です
・お役に立てて光栄です
・安堵しました
・安堵いたしました
・大変安堵いたしました

《了解》の敬語

「了解」の敬語表現

「了解」の敬語表現は「承知」です。「了解」には相手の事情を理解するという意味があり、同様の意味合いでより丁寧な表現が「承知」になります。目上の人に対して使える言葉であるため、「了解しました」の代わりに「承知しました」が使われています。また、「承知しました」は「承知いたしました」や「承りました」と言い換えることもできます。そして、「わかりました」も「了解」の敬語表現です。目上の人に対して使っても問題のない表現ですが、少しフランクな印象を与えるため親しい間柄の上司に対してのみ使うのが適切です。

そのほかの「了解」の敬語表現には、「かしこまりました」があります。「かしこまりました」は依頼や指示を理解するという意味があり、「承知しました」よりもへりくだった表現です。クライアントからの依頼や、立場がかなり上の上司に対して使うのに適した表現です。ビジネス文書では、「了解」の敬語表現として「拝承しました」や「承引しました」という表現が使われることもあります。

「了解」の敬語の最上級の表現

敬語の最上級の表現は、謙譲語+丁寧語になります。そのため、「了解」の敬語の最上級の表現は「承知いたしました」、もしくは「かしこまりました」になるでしょう。「承知いたしました」は「承知」+謙譲語の「いたす」+丁寧語の「ました(ます)」から構成されているため、最上級の敬語表現になります。「承知いたしました」は、二重敬語ではないかと指摘されることもあります。「承知」には「承」の字が含まれているため「承知」自体が謙譲語であると誤解されがちですが、単に知る・許可するという意味を持つ単語で敬語表現ではありません。そのため、謙譲語の「いたす」と一緒に使っても二重敬語にはなりません。

「かしこまりました」も、謙譲語の「かしこまる」+丁寧語の「ました(ます)」から構成されているため、最上級の敬語表現です。

「了解」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメール・手紙においては、「了解」の敬語表現として「承知しました」や「承知いたしました」を使うのが一般的です。

取引先へのメール例文:お世話になっております。発注内容のご変更の件、承知いたしました。準備でき次第、配送いたします。今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

また、クライアントや立場の高い上司へのメールや手紙は、「かしこまりました」を使うこともあります。

取引先へのメール例文:いつもお世話になりまして誠にありがとうございます。お打ち合わせの件、かしこまりました。当日は宜しくお願いします。
上司へのメール例文:システムエラーの件、かしこまりました。至急対処いたします。

「了解」を上司に伝える際の敬語表現

上司に「了解」を伝える際の敬語表現は、上司との関係性によって使い分ける必要があります。親しい間柄の上司であれば、「わかりました」のようなフランクな敬語表現でも問題ありません。また、年の近い先輩に「承知しました」を使うと他人行儀に捉えられることもあり、「了解です」や「了解しました」が好まれることもあります。上司との関係性に関わらず使える敬語表現としては、「承知しました」、「承知いたしました」があげられます。また、関係性が薄い上司や立場が高い上司に対しては、「かしこまりました」と伝える方が適切です。

「了解」の敬語での誤用表現・注意事項

「了解です」は「了解」+丁寧表現の「です」によって構成される丁寧な言い回しであるため、ビジネスメールにおいても使えると思われがちです。しかし、ビジネスシーンにおいて「了解です」は敬語表現として使うのは避けた方が良い表現です。「了解いたしました」は文法的には敬語になりますが、やはりビジネスシーンでは不適切な表現と認識されています。なぜなら「了解」という言葉が「目下の人に対して許可を与える」意味に捉えられており、目上の人に対して使うと失礼にあたるからです。「いたします」という敬語をつけたとしても、「了解」自体が上から目線の単語であるため敬語表現には不適切とされています。敬語表現であるとはいえ、ビジネスマナーとして「了解いたしました」という表現を避けるのが賢明です。

ただし、同僚や部下に使うぶんには問題ありません。また、「了承いたしました」も、敬語表現でありながらもビジネスシーンでは不適切とされています。「了解」と同様に、「了承」にも目下の人に対して許可を与える意味があるとされているからです。そのため、「了解いたしました」の代わりに「了承いたしました」と表現するのもビジネスマナー違反になります。「承知いたしました」、「かしこまりました」が適切です。

「了解」の敬語での言い換え表現

・了解しました
・了解いたしました
・了承しました
・了承いたしました
・わかりました
・承知しました
・承知いたしました
・承りました
・かしこまりました
・承諾しました
・承諾いたしました
・承引しました
・承引いたしました
・拝承しました
・拝承いたしました
・理解しました
・理解いたしました
・納得しました
・納得いたしました
・御意にございます

《了解です》の敬語

「了解です」の敬語表現

「了解」は、「ある物事の内容や状況を理解して、承認する」という意味の単語です。この言葉を含んだ「了解です」は、周囲からの依頼に答える返事として、ふだんのコミュニケーションの場でもよく耳にする表現のひとつでしょう。「了解です」を文法のうえからみると、名詞の「了解」と断定の助動詞「です」に分解できます。「です」は敬語表現のひとつである丁寧語に分類されているものですので、「了解です」はこのままで完結した敬語表現であるということができます。

「了解です」の敬語の最上級の表現

「了解です」は丁寧語です。丁寧語は、聞き手や文章の読み手全般に対して敬意を表すものですが、最上級の敬語表現であれば、一対一の関係の中で敬意を払う相手を明確に設定する必要があります。「了解です」の場合、了解する行為の主体は自分、了解を求める客体は相手になりますので、ここは自分がへりくだって相手を立てる謙譲表現を用いることが適当です。

謙譲表現のなかでも最上級の敬語表現としては、つつしんで承諾するという意味の「かしこまりました」がこれに相当します。「かしこまる」には「畏まる」の漢字を当てますが、「畏」を用いた表現に「畏くも」という最高敬語があります。これは「恐れ多くも、もったいなくも」という意味となり、皇室や外国の国王などに対してのみ使用できる言葉とされているものですが、この「畏」を含んでいる点からみても、「かしこまりました」という表現が「了解です」の最上級の表現であるということができるのです。

「了解です」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「了解です」は敬語表現ですので、ビジネスメールや手紙の中でも基本的にはこのままの形で使用することができますが、差し出す相手によっては失礼にあたる場合もありますので使い分けが必要になります。同僚や部下あてに送る際は「了解です」をそのまま用いることができますので、「先ほど連絡いただきました日程変更の件、了解です」「スポンサーへのプレゼン同行の件、もちろん了解です」などと使います。了解するの連用形「了解し」に丁寧の助動詞「ます」の連用形「まし」と完了の助動詞「た」で「了解しました」としても敬語表現となります。「プロジェクトチームの人選の件、了解しました」などと使うことができます。

一方で、たとえ敬語表現だとしても「了解です」は目上の人や会社の取引先には使いません。それは了解という言葉自体に目上に使っては失礼にあたる意義が含まれているからです。目上の人に使う場合は「承知しました」「承りました」等の表現に言い換えたうえで「品質管理の周知徹底の件、承知いたしました」「改善報告書提出の件、承りました」などというように使います。

「了解です」を上司に伝える際の敬語表現

「了解です」は目上の人には使いませんので、上司には基本的にメールや手紙で使用する言葉遣いで対応します。「かしこまりました」「承知しました」「承りました」は文語としてだけでなく、口語で使用しても違和感がない表現ですから、対面して口頭で話す場合でもそのまま使うことができます。

日常会話の中で「了解です」に内容が似た言葉として「わかりました」があります。対面でのコミュニケーションの場で使われがちな用語ですが、これも目上の人には使いません。「わかりました」は「判る、解る」などの意味を持ち、その事態が判断できるかできないかといった、理解能力に重点を置いた表現に用いられるケースが多くあります。常に高度な状況判断が求められるビジネスシーンでは非常に稚拙な言葉として捉えられがちですので、丁寧の助動詞「ます」を含んだ敬語表現であるとはいえ使わない方が無難です。

「了解です」の敬語での誤用表現・注意事項

「了解です」は丁寧語を含んだ敬語表現ですが、目上の人には使えない言葉ですので、その点に注意が必要です。「了解」には、理解する以外にも承認するという意味があります。承認とは本来、目上の権限者が許可を与えることを言いますので、目下の立場で「了解する」といえば、目上の人に指示をするのと同様の振る舞いを行おうとすることになるわけです。「おっしゃることはわかりました。そのとおりにやってもいいですよ」と目下の人から言われれば、上司としてはいい気持ちはしません。

要するに、目上に対して「了解です」がNGなのは、敬語の表現方法以前に「了解」という言葉自体がふさわしくないということです。「了解です」を「了解でございます」などと、よりいっそう丁寧な表現に言い換えたとしても、目上の人にとっては失礼にあたることに何ら変わりはないのだという点に留意しなければなりません。

「了解です」の敬語での言い換え表現

「了解です」の敬語での言い換え表現としては「心得ました」があります。これは「おっしゃることを理解して、そのように行動します」というような意味を持ち「先日部長から頂戴したご指摘、しかと心得ました」などと使います。このほか、目上の人の意見を受け入れる意味の「御意」などがありますが、言葉使いとしては古く、今ではドラマなどで耳にするだけで実際にはあまり使いません。

《了解しました》の敬語

「了解しました」の敬語表現

「了解しました」を敬語で表現する場合、「かしこまりました」を使用すると良いでしょう。「了解」は、一般的に上から目線だというイメージを持たれることが多いです。そのため、丁寧語と組み合わせて「了解しました」という表現にしても、受け取った側は快く思わない可能性があります。したがって、「了解しました」を敬語表現にする場合は、近い意味を持つ「わかりました」を謙譲語にした「かしこまりました」の使用が好ましいです。

「かしこまりました」は、状況を理解したり、相手からの依頼を引き受けたりしたことを示せる表現です。ただ、「了解」は、状況を理解するという意味のみを持つ言葉で、依頼を引き受けるという意味はありません。しかし、現代では、相手からの依頼を引き受けるという意味合いで、「了解しました」が使用されることが多いです。そのため、依頼を引き受けるという意味でも、「かしこまりました」が「了解しました」の敬語として適しています。そして、ある程度砕けた敬語表現をするのであれば、「わかりました」を使用しても良いです。「わかりました」は一般的に、「了解しました」のような、上から目線だというイメージは持たれていません。

また、「承りました」という表現も、「了解しました」の敬語表現として適しています。「承りました」は、「了解しました」と同じ、状況の理解や何かを引き受けたことを示す謙譲語です。そして、「かしこまりました」と同様に使用することができます。同じ謙譲語であるため、尊敬の度合いも特に大差ありません。さらに、「承知しました」という表現が、「了解しました」の敬語として使用されることも多いです。あくまでも丁寧語ですが、「承」という字が入っているため、謙譲語のようにへりくだった印象があります。

「了解しました」の敬語の最上級の表現

「了解しました」を最上級の敬語にする場合、「承知いたしました」という表現が適しています。「承知しました」の「しました」の部分を謙譲語の「いたしました」という表現に変えたものです。「承知しました」がすでに、丁寧語でありながら、「承」という字が入っているため、へりくだった印象を与える表現です。そこに謙譲語の「いたしました」が加わることで、より自分を下げる表現になります。そのため、相対的に相手を高めることができます。

「了解しました」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「了解しました」の敬語として「かしこまりました」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「かしこまりました。それでは、その作業はこちらで済ませておきます」となります。

「承知しました」「承知いたしました」を用いるのであれば、例文は「先ほどご連絡いただきました件、承知しました」「承知いたしました。それでは、こちらの仕事が終わり次第、そちらの仕事に移ります」などです。「かしこまりました」や「承知しました」を、依頼を引き受けるという意味合いで使用する場合、文頭に置くことが多いです。そして、「承りました」を使用した場合の例文は「お客様は翌日いらっしゃるとのこと、承りました」「今回のイベント欠席の旨、承りました」のような形になります。

「了解しました」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して「了解しました」を敬語で表現する場合、「承知しました」あるいは「かしこまりました」が適しています。「承知しました」は丁寧語ですが、へりくだった印象を与えるため、目上である上司に対しても問題なく使用できます。ただ、立場が離れている上司に対しては、謙譲語である「承知いたしました」を使用した方が良いです。そして、「かしこまりました」は謙譲語なので、目上の人相手であれば誰にでも使用することができます。それでいて、堅苦しい表現ではないため、身近な上司に対して使用しても、他人行儀のような悪い印象は与えないでしょう。

「了解しました」の敬語での誤用表現・注意事項

「了解しました」をそのまま謙譲語表現にする場合、「しました」の部分を変えて「了解いたしました」となります。「了解いたしました」という表現自体は、謙譲語として何も間違ってはいません。しかし、「了解」という言葉そのものが、上から目線ということで、敬語に用いるのが好ましくありません。そのため、たとえ謙譲語である「いたしました」を使用したとしても、「了解」の方が悪目立ちをする恐れがあります。したがって、「了解いたしました」という表現も、「了解しました」と同様に使わないようにし、「承知しました」や「かしこまりました」などを用いた方が無難です。

「了解しました」の敬語での言い換え表現

状況を理解したという意味での「了解しました」は、「理解しました」「得心しました」といった敬語表現にすることも可能です。「理解」はそのまま相手の言っている内容がわかったり、それまでわからなかったことが、相手の言葉によってわかるようになったりした時に使える言葉です。そして、「得心」は、「納得」を丁寧な形にした言葉です。それまで状況がわからずに腑に落ちなかったことが、納得できた時に使用します。

「納得」は「了解」と同じように、上から目線の印象を与える恐れがあるため、丁寧な表現の「得心」を使用することが好ましいです。そして、「理解」と「得心」はいずれも、「理解しました」「得心しました」という風に丁寧な敬語にするだけでも、失礼にはなりません。ただ、強い敬意を示す場合は、「理解いたしました」「得心いたしました」という風に謙譲語表現にした方が良いです。

また、引き受けたという意味合いでの「了解しました」は、「承諾いたしました」という敬語に言い換えることができます。「承諾」は何かを快く引き受けるという意味を持った言葉で、「承知」と同じように「承」という字が入っています。そのため、「承諾いたしました」は、相手の依頼を引き受ける際に、強い敬意を示すために使用できる表現です。

《了解いたしました》の敬語

「了解いたしました」の敬語表現

「了解いたしました」は、「物事の事情を理解して承認する」という意味を持つ「了解」に、謙譲語の「いたす」を組み合わせた丁寧な言い回しです。しかし、「了解です」や「了解しました」が、同等か目下に対しての受け答えとして定着していることから、「了解」を含む表現を目上の相手に使うのは不適切とされています。そのため、「了解いたしました」と目上の人に伝えたい時には、念のため、別の敬語表現に置き換えるのが無難です。

「了解いたしました」の目上の相手に対する敬語表現としては、「承りました」が一般的です。「承りました」は、「聞く・受ける」の謙譲語「承る」を丁寧にした言い回しで、「しっかりと聞きました」「引き受けました」という意味合いでビジネスシーンでも多用されています。自分をへりくだって敬意を表すと同時に、「責任を持って任務を果たします」という強い意志も示すことができ、相手に安心感を与える受け答えです。

また、「承知しました」も、目上の相手に対して誠実な印象が伝わる敬語表現です。謙譲語を組み合わせて「承知いたしました」とするとさらに丁寧になり、「ご意向をたしかに理解しました」という謙虚な気持ちを表すことができます。似たような表現としては、「承諾いたしました」「受諾いたしました」などもあり、いずれも「了解いたしました」に置き換えて使うことができる適切な敬語表現と言えるでしょう。

「了解いたしました」の敬語の最上級の表現

「了解いたしました」の敬語には、「かしこまりました」という特別な言い回しもあります。謙譲語である「かしこまる」には、「目上の人の指示や依頼に謹んで従う」という意味があり、「かしこまりました」と答えるだけで高い敬意を表すことが可能です。フォーマルな場面にも相応しく、取引先や身分の高い人に対しても安心して使えるため、「了解いたしました」の最上級の敬語表現と言えるでしょう。

また、「了解いたしました」には、「拝承しました」という改まった表現もあります。「かしこまる」と同じく、「拝承」も謙譲語にあたり、「謹んで承知する」「謹んで人の言うことを聞く」という意味合いを持ちます。相手を十分に立てることができる最上級の敬語表現で、ビジネスメールや手紙などの書き言葉にも最適です。

「了解いたしました」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「ご注文をたしかに承りました。本日中に発送いたします。」
「打ち合わせの日程変更の件、承知しました」
「承知いたしました。今週末までに見積書をお送りします」
「納期前倒しのご要望について、たしかに承諾いたしました。ご指定の日時で納品できますよう尽力いたします」
「ご依頼の件、受諾いたしました。すぐに手配をいたしますのでお待ちくださいませ」
「かしこまりました。明後日の午前9時に御社に伺います」
「業務の進捗につきまして、拝承しました。ひき続きよろしくお願いいたします」

「了解いたしました」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して「了解いたしました」と言いたい時には、「承りました」「承知しました」といった敬語表現を用いるのが妥当です。日頃からやりとりの多い直属の上司であれば、会話の流れに合わせて、「承りました。一生懸命がんばります」「承知しました。すぐにお持ちします」など、受け答えの後に言葉を補足することで、堅苦しくなりすぎずにやわらかいニュアンスで伝わります。

また、他部署の上司であったり、会社内でも高い役職に就いている上司に対しては、「かしこまりました」など、最上級の敬語表現を用いても不自然ではありません。上司との関係性や立場などを考慮した上で、最適な敬語表現を選ぶことで、相手に好印象を与えることのできる円滑なコミュニケーションにつながるでしょう。

「了解いたしました」の敬語での誤用表現・注意事項

「了解いたしました」の敬語として、目上の人に「了承いたしました」を使うのはNGです。「了承」は「了解」と同様に、目上から目下に対して使う言葉としてビジネスシーンで認識されています。そのため、人によっては、「了承いたしました」という受け答えを不快に感じる可能性もあるので注意が必要です。「丁寧な言い回しだから大丈夫そう」といった安易な使用は控えるようにしましょう。

また、「拝承しました」をさらに丁寧に言おうとして「拝承いたしました」と表現するのは、文法的に間違いです。「拝承」と「いたす」はどちらも謙譲語で、二重敬語となってしまいます。一方で、「承知いたしました」や「承諾いたしました」は、二重敬語にはあたりません。「承知」と「承諾」は謙譲語ではないため、「いたしました」のみが謙譲語となり、問題なく使うことができます。二重敬語の受け止め方は人によって異なりますが、中にはくどい表現が不愉快だという人もいるので、正しい敬語表現を心掛けましょう。

「了解いたしました」の敬語での言い換え表現

承知しました
承知しましたので
承知しましたが
たしかに承知しました
重々承知しています
承知いたしました
承知いたしましたので
承知いたしましたが
たしかに承知いたしました
承りました
承りましたので
承りましたが
承ります
承りますので
承りますが
承りましょう
承りましょうか
たしかに承りました
たしかに承ります
たしかに承っています
たしかに承りますので
たしかに承りましたので
承諾しました
承諾いたしました
たしかに承諾いたしました
受諾しました
受諾いたしました
たしかに受諾いたしました
かしこまりました
拝承しました
拝承しましたので
たしかに拝承しました

《来る》の敬語

「来る」の敬語表現

「来る」の敬語表現としては、語尾に尊敬語である「られる」をつけた「来られる」が挙げられます。動詞の未然形「来(こ)」に、尊敬表現の接尾辞「れる・られる」を付け足した形です。さらに丁寧語の接尾辞である「ます」を付与して「来られます」と変化させれば、相手に丁寧に伝えることができます。なお「来られる」の他に、「お越しになる・お見えになる」なども「来る」の尊敬表現として用いられます。語尾に「れる・られる」を付け足した「来られる」よりも、敬意を増した表現として広く用いられる言葉です。

一方で自分自身をへりくだらせる敬語表現である、謙譲語では「参る」に丁寧表現「ます」を加えた「参ります」が該当します。同様に謙譲の意味を含む「伺う」に丁寧表現を加えた、「伺います」も自身を下げて相手を高める敬語表現の一種です。敬意とは別に丁寧に伝えることを中心に据えた表現方法としては、「来る」の連用形に丁寧表現の「ます」を加えた「来ます」が挙げられます。

「来る」の敬語の最上級の表現

一般動詞の未然形に尊敬表現である「れる・られる」を加えて変化させた、「来られる」よりも上位の敬語にあたるのが「お見えになる」や「いらっしゃる・お越しになる」です。特に「お見えになる」は、目上の人がこちらにやって来るという意味を持つ尊敬表現として用いられます。「来られる」に関しては「お見えになる」や「いらっしゃる」よりもやや砕けた表現となり、親しい先輩や同僚など近しい間柄に対して使える表現になります。

ちなみに現代ではほとんど使われていない「来る」の最上級敬語として挙げられるのが、「おはします」です。使用されていた時期は江戸時代にまでさかのぼり、当時の天皇・皇族といった身分の高い人々に対して使う表現でした。「おはす」は「来る」の他に、「(その場に)いる」の尊敬表現にもあたる言葉です。尊敬語の動詞「おはす」を連用形に変化させて、丁寧語の接尾辞「ます」を加えて敬意を表しつつ丁寧に伝える表現になります。ただし古文や歴史小説の中などに用いられることが大半であり、現代の口語・文語においては「お見えになる」や「いらっしゃる」などの表現を使うのが望ましいでしょう。

「来る」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメールや手紙の文中で「来る」を敬語で表現する際、「お越しになる」が最適です。「来られる」はフランクな表現でビジネスシーンには向かない点、「いらっしゃる・お見えになる」に関しては既にその場に訪れていることを示す傾向が強い点が、それぞれが文中に用いられにくい理由として挙げられます。文例としては「先日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございました」といったように、「もらう」の謙譲語「いただく」を組み合わせて用いられることが多いです。また「大阪にお越しの際は、ぜひお声掛けください」といったように、連用形の名詞化表現「お越し」を使うこともあります。

「来る」を上司に伝える際の敬語表現

直属の上司に対して、社長などその上司よりも上の立場の人物の来訪を伝える場合の敬語表現は「お見えになる・いらっしゃる」です。社長の他にも、取引先の担当者や顧客が来訪した際にも、「お見えになる」を用います。一方で顧客に対して、自分の会社の上司の来訪を伝える際には尊敬語は使いません。へりくだる表現である謙譲語を用いて、相手すなわち顧客への敬意を示します。謙譲の意味を持つ「参る」や「伺う」を未然形に変化させて、丁寧語の接尾辞である「ます」を語尾に足しましょう。

「来る」の敬語での誤用表現・注意事項

「来る」の敬語表現に「来られる」を用いる際の注意点として挙げられるのが、人によって敬意を感じる度合いが異なる点です。一般的にはやや砕けた表現として捉えられるケースも少なくないため、より上位の表現である「お見えになる」や「お越しになる」を使った方が無難でしょう。また「お越しになられる」などのように、敬意を示す接尾辞「れる・られる」を付与すると誤用となるため注意が必要です。「お越し」や「お見え」には、既に尊敬の意味が含まれているためそこに「られる」を付け足すことで、二重敬語になってしまいます。

「来る」の敬語での言い換え表現

「来る」の敬語である「来られる」や「いらっしゃる」、「お見えになる」などの言い換え表現として挙げられるのが「おいでになる」です。「来る」だけでなく「居る」の尊敬語にあたるのが「おいでになる」であり、「いらっしゃる」と同義の言葉になります。なお尊敬表現としての使い方の幅は広く、動詞や形容詞を連用形にした上で、助詞「て」と併用して動作に敬意を示すことも可能です。語尾を尊敬表現の接尾辞である「なさる」に変化させた、「おいでなさる」も言い換え表現として用いることができます。

会話内で用いる際には、丁寧な表現となる「ます」を語尾に加えて表現するのが一般的です。「いらっしゃる」と同じ意味を持つ言葉であるため、既に来訪していたりまもなくやって来る際に用いられます。また同じく丁寧表現である「です」を語尾に加えて、「おいでです」と表現することも可能です。こちらは「お越し」と同様に、連用形に変えて名詞化させた上で丁寧語の接尾辞を加える形になります。

《問題ない》の敬語

「問題ない」の敬語表現

「問題ない」の敬語表現は「問題ありません」です。また、「問題ないです」という言い方も可能です。ただし、「問題ないです」はややくだけた表現なので、使える相手は限られるでしょう。公の場で使用する際は「問題ありません」を選ぶのが無難です。

「問題ない」の敬語の最上級の表現

「問題ない」を最上級の敬語にするのであれば、「問題ございません」が正しい形です。「ない」の丁寧語であり、より強く敬意をこめられる表現だからです。

「問題ない」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「問題ありません」という敬語はビジネスシーンでも普通に使われてきました。メールや手紙を書くときに、「問題ありません」を用いてもかまいません。以下、「問題ありません」を使った例文を挙げていきます。

「お世話になっております。ご提案いただいた資料ですが、確認しましたところ問題ありません」 「ご報告いたします。プロジェクトは今のところ、問題ありません。若干の誤差はあるものの、想定の範囲内です」

なお、「問題ありません」を使うときは断定的なニュアンスになることも少なくありません。相手によっては強すぎる表現に感じられてしまうので、「大きな問題はありません」「特に問題ありません」といった書き方にする方法もあります。以下、例文を挙げておきます。

「お問い合わせの件、会場側に大きな問題はありません。主催には私から申し伝えておきます」 「お客様はシステムの操作性を気にされていましたが、特に問題ありませんでした」 「研修自体の人手はそれほど問題ありません。ただ、準備に時間がかかるので、明日の午前に予定が空いている方は至急ご返信ください」

「問題ない」を上司に伝える際の敬語表現

上司との関係性によって、「問題ない」の敬語表現は変わってきます。関係性が親しく、気軽にやりとりできる上司なら「問題ありません」で通用するでしょう。あるいは、「問題ないです」というくだけた表現も可能です。ただ、相手が重役や社長など、かなり目上の人物であれば「問題ございません」と最上級の敬語を使うようにしましょう。

「問題ない」の敬語での誤用表現・注意事項

「問題ありません」と似た言葉として「大丈夫です」「かまいません」などが挙げられます。これらはある物事について、「気にするほどの影響が生まれていない」と示す表現です。そのため、おおまかな意味は共通しているといえるでしょう。

ただし、明らかな目上の人と話すときは「問題ありません」を使うのが無難です。なぜなら、「大丈夫です」「かまいません」といった言葉の主語は自分自身になるからです。自分の主観で話を進めることで、相手が不愉快になる可能性も出てくるでしょう。それに対して、「問題ありません」は物事が「滞りなく進んでいる」状態を意味します。「大丈夫です」「かまいません」よりも客観的な表現であり、公の場に適しています。同じ理由で「私は問題ありません」といった言い方も、主観が入ってしまうので要注意です。「(相手が伝えた内容は)問題ありません」と解釈してもらえるような言い方を意識しましょう。

「まったく問題ありません」「完全に問題ございません」などの言い回しも、場合によっては望ましくありません。なぜなら、何の迷いもなく「問題ない」と言い切れるような状況は非常に珍しいからです。いくら敬語であったとしても、「まったく問題ありません」といった表現は自信過剰に聞こえます。「問題ありません」を使うときは、強い断定口調にならないことが肝心です。

そのほか、ビジネスシーンでよくある誤用が「問題ありません」の疑問形です。リアルタイムの物事について話をしているにもかかわらず、「問題ありませんでしたか」と過去形で質問してしまうのは間違いだといえます。現在形で「問題ありませんか」と伝えるようにしましょう。もちろん、過去の出来事について質問するときは「問題ありませんでしたか」と表現することも可能です。

「問題ない」の敬語での言い換え表現

「問題ありません」とほぼ同じ意味で使えるのは「差し支えありません」「支障ありません」などのフレーズです。これらの敬語の最上級は、「差し支えございません」「支障ございません」です。いずれも「問題ありません(問題ございません)」と同じく、客観的に物事の進捗、成果を説明している言葉だといえます。「問題ありません」の言い換えとして、「差し支えありません」や「支障ありません」を使うことは十分に可能です。

そのほか、よく似た意味の言葉に「異常ありません」「心配ありません」があります。これらの言葉も、状況次第では「問題ありません」の言い換え表現として成立するでしょう。ただし、「異常ありません」には点検や確認の結果を、誰かに報告しているというニュアンスが含まれています。

また、「心配ありません」は相手の気を休めようとする意図が込められています。その場合、「結果から話をそらし、相手の平穏を守ろうとする」という文脈にもなりかねません。事実として「トラブルが生じていない」という意味の「問題ありません」とは微妙にニュアンスが異なります。「問題ありません」を「異常ありません」や「心配ありません」に言い換えるのは間違いにならないものの、最適な表現かどうかはしっかり考えましょう。

《目を通す》の敬語

「目を通す」の敬語表現

「目を通す」とは、「ひととおりざっと見る」という意味で、この言葉自体には敬意は含まれていません。「目を通す」を敬語表現にする場合は、行為の主体が誰なのかによって表現のしかたが変わってきます。たとえば行為を行うのが目上の人であれば、尊敬語を用いて「ご覧になる」「お目通しになる」などと敬意を込めて言い表します。行為者が自分であれば、自分を低めて相手を立てる謙譲表現を用います。この場合「見る」の謙譲語を使って「拝見する」などとするのが適切です。聞き手や読み手に対して丁寧に表現するのであれば、丁寧語の「です・ます」を用いて「目を通します」などという敬語表現にします。

「目を通す」の敬語の最上級の表現

「目を通す」の敬語としての最上級の表現は、行為を行うのが相手の場合、あるいは行為を行うのが自分の場合の二通りが考えられます。「目を通す」のが相手であれば、これは最上級の尊敬表現である最高敬語の中で、「天皇が見る」という行為を表す言葉として定められている「御天覧」と、「天皇がする」という行為を表す言葉として定められている「遊ばされる」を組み合わせた「御天覧遊ばされる」という言い方が最上級の表現となります。また、「目を通す」のが自分の場合は、見るの謙譲語である「拝見」に丁重語の「いたす」と丁寧語の「ます」を加えた「拝見いたします」が、最もへりくだった言い方として相手を立てる表現となります。

「目を通す」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「目を通す」はビジネスシーンにおいて、資料や文書を見る際などによく使用される言葉です。しかしこのままでは敬語表現ではありませんので、メールや手紙などの文書では敬意を込めた表現に言い換えて用います。「来週の会議の資料をお送りしましたので、お時間がおありの際にでもご覧ください」「見積書は担当者が持参いたしますので、そちらをご覧いただければと存じます」などと使用します。また、他人が見ることを敬って言う「高覧」などを用いて「詳細は弊社のパンフレットにございますので、ご高覧いただければ幸いです」などとすることもできます。

「目を通す」を自分の行為として伝える場合は「お送りいただきました会議資料を拝見しました」「ご教示いただきました参考書籍、拝読いたしました」などと謙譲語を用いて使用します。このほか、文書のあて先が同僚や部下であれば、丁寧語「ください」を使った敬語表現を用いて「先日のミーティングで気づいた点をまとめましたので、一度目を通しておいてください」「企画案には、なるべく部署全員が目を通すようにしてください」などと使用することもできます。

「目を通す」を上司に伝える際の敬語表現

ビジネスの現場では、上司に対して「書類に目を通してほしい」といった依頼や「資料に目を通した」といった報告などを行うことが日常茶飯事です。その際も、各シーンに応じた適切な敬語表現を用いることが必要になります。たとえば書類チェックなど上司に依頼事をする際は、「目を通してください」ではなく、「ご覧いただけますか」「ご高覧願えますか」などという表現にします。少しかたすぎると感じるのであれば、話し言葉にふさわしい表現を使い「お読みいただけますか」などとすることもできます。また自分が目を通したことを上司に報告する場合は「拝見いたしました」「拝読いたしました」などと使うこともできますが、「読ませていただきました」「確認いたしました」などとすれば、かたさのないスムーズな会話のやり取りを行うことができるでしょう。

「目を通す」の敬語での誤用表現・注意事項

「目を通す」の敬語表現を、取引先や上司との関係性の中で使う場合は十分な注意が必要です。というのも「目を通す」が「ひととおりざっと見る」というかりそめの意味を持つ言葉だからです。「ざっと見る」相手の行為に尊敬語を使い「目を通される」「お目通しになる」などと敬って表現することは可能です。しかし、目を通してほしいと依頼する場合は「目を通す」という言葉をそのまま使用することはできません。なぜかというと「目を通してください」と頼めば、「かりそめに、ひととおりざっと見ておいてください」と言っているのと同じになり、これは目上の人に対して仕事を適当に行ってくれと依頼するにも等しい、たいへん失礼な表現になるからです。

たとえ「目を通していただけませんか」「お目を通していただければ幸いです」などと尊敬語で飾っても、「目を通す」という言葉を使った時点で礼を失するという点は再確認しておかなくてはなりません。相手に見てもらうことを依頼する際は、「ご覧」「ご高覧」といった相手を敬う言葉を用いて、軽薄な印象をもたれないよう表現に注意することが必要です。

「目を通す」の敬語での言い換え表現

「目を通す」の敬語での言い換え表現としては、一度読むという意味の「一読」を用いた「ご一読になる」、初めから終わりまでひととおり読みとおすという意味の「通読」を用いた「通読なさる」、手紙文などで、相手が見ることを敬っていう言葉の「清覧」を用いた「ご清覧になる」などをあげることができます。

《目を通してください》の敬語

「目を通してください」の敬語表現

「目を通してください」を敬語で表現する場合、「ご覧ください」と言う形にするのが無難です。「目を通す」という言葉は、「ざっと見る」「簡単に確認する」といった、比較的軽い意味を持ちます。そのため、「目を通してください」では、軽い行為を相手に促す形になってしまい、敬語として不適切です。したがって、「目を通す」から「見る」という部分だけを抜き出し、それを敬語の「ご覧ください」という形にすると良いです。

また、「目を通してください」を使用するのは、資料やメールなどで、文章を読むことを促す場合が多いです。その際には、「ご一読ください」という敬語表現にもできます。「一読」は「ひと通り読む」という意味の言葉で、「目を通す」と大差はありません。しかし、相手から失礼だと捉えられることが少ないため、「目を通す」を丁寧な敬語表現にしたい時に用いられる場合が多いです。

「目を通してください」の敬語の最上級の表現

「目を通してください」を最上級の敬語で表現するのであれば、「ご高覧ください」という形になります。「高覧」は相手を敬う時のみに使用する言葉で、相手に見たり読んだりすることを促す際に使える、最上級の敬語表現です。丁寧に「ご高覧くださいませ」とすれば、目上の人相手でも問題なく使用することができます。ただ、あまり一般的ではない言葉なので、相手によっては意味が通じない恐れがあります。したがって、場面に応じて使用するかどうかを決定することが大切です。

もし、「ご高覧ください」が伝わりにくそうであれば、「ご覧ください」や「ご一読ください」に、より強い敬語表現を組み合わせると良いです。「ご覧いただきたく存じます」「ご一読いただければ幸いでございます」といった形にすれば、「ご高覧くださいませ」と同程度の尊敬の意図を伝えられるでしょう。

「目を通してください」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「目を通してください」の敬語表現をビジネスメールや手紙で使用する場合、「先日のイベントの報告書をご確認ください」「添付した資料をご一読ください」といった形になります。また、「見積もり書の内容をご確認いただければ幸いです」「招待状を郵送いたしましたので、ご高覧いただけますでしょうか」という風に、「ください」では締めくくらなかったり、疑問形にする場合も多いです。

「目を通してください」を上司に伝える際の敬語表現

「目を通してください」の敬語表現に当たる「ご覧ください」や「ご一読ください」は、主にビジネスのクライアントなど、関係が遠い相手に使用することが多いです。そのため、身近な上司相手に使用してしまうと、よそよそしい印象を与えかねません。したがって、砕け過ぎず、堅苦しくもならない、「ご確認ください」という表現にすると良いでしょう。添削が必要な報告書や、許可を求める書類など、上司に目を通してもらいたい場合は、「ご確認ください」でひと通り対応可能です。

また、よほど高い地位の上司が相手ではない限り、「ご高覧ください」を使用することはありません。「高覧」は「ご覧ください」や「ご一読ください」と同様に、関係が遠い相手に使用することがほとんどで、身近な上司だと堅苦しすぎる表現になりかねないからです。

「目を通してください」の敬語での誤用表現・注意事項

「目を通してください」を敬語表現にした「ご確認ください」や「ご一読ください」は、あくまでも敬語ですが、「ください」という形で締めくくっても問題はありません。しかし、「ください」には、相手に命令をするような意味合いが含まれ、失礼な印象を与えるおそれがあります。そのため、強い尊敬を示さなければならない相手に対しては、「ご確認くださいませ」「ご一読願いたく存じます」と言う風に、丁寧な言い回しにした方が良いです。また、「ご一読ください」は、見てもらいたいものが文章である場合にのみ使用できます。デザイン画や写真だけを見てもらう際には、ふさわしくないので注意しましょう。

「目を通してください」の敬語での言い換え表現

「目を通してください」には、じっくりと確認するのではなく、軽く読む程度という意味合いが含まれます。そのため、「ご笑覧ください」という敬語表現にもできます。「笑覧」は「高覧」よりも少し尊敬の度合いが低い言葉で、文字通り「笑いながら見る」という意味を持ちます。したがって、深刻な内容ではない書類や手紙に、気軽な気持ちで目を通して欲しい場合に使用するのがふさわしいです。

そして、状況次第では、「ご査収ください」という表現にもできます。「よく確認してください」という意味を持つ表現で、「目を通してください」よりも強めに、相手に確認を促します。そのため、書類などの内容に、間違いがないかどうかを確認する際によく用いられます。使用できる場面は限られますが、意味合いが大きく違ってさえいなければ、「目を通してください」の代わりになります。

また、「ご清覧ください」という表現も代表的で、「ご高覧ください」と同じく、強い尊敬の意味合いがあります。そして、「高覧」に対して「清覧」は、見てもらう対象の範囲が狭いです。そのため、相手に見てもらいたいものがひとつの場合は「清覧」、複数ある場合は「高覧」と使い分けるようにすると良いです。

《聞きました》の敬語

「聞きました」の敬語表現

「聞きました」の敬語表現には様々なものがあり、相手によって使い分ける必要があります。「聞きました」は、「聞いた」を丁寧語表現にした敬語です。自分が聞いた場合に使用し、同等の丁寧語表現である「聞いています」に言い換えることもできます。丁寧語表現は友人や同僚など同じ立場の人に対して使う丁寧な表現です。敬語の中でもカジュアルで、堅苦しくなりすぎない表現です。「新しい職場で活躍していると聞いています」、「もうお越しになったと聞きました」のように使います。

「聞きました」の尊敬語は、「お聞きになりました」や「聞かれました」、「お耳に入りました」です。目上の人に対し敬意を示す表現となり、「講演の内容をお聞きになりましたか?」や「入札の結果はもうお耳に入りましたか?」のように使います。そして、「聞いた」の謙譲語表現は、「伺いました」や「拝聴しました」です。目上の人から話や意見を聞く際に使う表現で、「部長からお話を伺いました」、「社長のスピーチを拝聴しました」のような言い回しとなります。

「聞きました」の敬語の最上級の表現

謙譲語表現は敬語の中でも最も相手を高める表現となるため、「聞きました」の謙譲語表現が最上級の敬語表現になります。「聞きました」の謙譲語表現には「伺いました」や「拝聴しました」がありますが、「拝聴しました」の方がより丁寧な表現です。最上級敬語表現である「拝聴しました」は、かなり堅苦しい表現になります。立場が上の人に対して使う表現となり、ビジネスシーンでは頻繁に使用されるものの日常会話ではほとんど使いません。

「聞きました」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメール・手紙では、口語表現よりも堅苦しい表現を使うのが通例です。「拝聴する」や「拝聞する」は口語表現としては社外の人やかなり高い立場の人にしか使いませんが、ビジネスメール・手紙では頻繁に使われています。また、「伺う」という表現もビジネスメール・手紙で使用されます。

拝聴するを使ったメール例文:お世話になっております。先日はご講演いただきありがとうございました。ご高話を拝聴し、社員一同士気が高まりました。
拝聞するを使ったメール例文:先程は貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。忠告を拝聞したものの、結果を出すことができず申し訳ございませんでした。
伺うを使ったメール例文:〇〇様からお伺いした件ですが、調査が完了次第お返事いたします。今後ともよろしくお願いいたします。

「聞きました」を上司に伝える際の敬語表現

上司に「聞きました」を伝える敬語表現では、「伺いました」と「お聞きしました」が最も汎用性があります。自分が上司に聞く(上司が答える側)場合は、「新規プロジェクトの件お伺いしてもよろしいですか?」のように「伺う」を使います。上司が自分に聞く(自分が答える側)である場合には、「書類に関してご不明なことがあればお聞きください」のような「お聞きする」という表現になります。また、立場が上の上司には、「拝聴しました」や「拝聞しました」という敬語表現を使うことができます。

「聞きました」の敬語での誤用表現・注意事項

「聞きました」の敬語で誤用しやすいのは、丁寧な表現にすべき対象を間違えるというものです。誤用される表現の例としては「受付に伺ってください」があげられます。受付に「聞く」のは相手であるため、「伺う」という謙譲語ではなく、相手の動作に対して敬意を表す尊敬語表現を使わねばなりません。正しい表現は、「受付でお聞きください」となります。同様に、「もう聞きましたか?」という意味合いで「もう拝聴されましたか?」も敬語の誤用となります。「拝聴」は謙譲語であるため、へりくだった表現です。「もうお聞きになりましたか?」と、尊敬語表現を使うのが適切です。

「聞きました」の敬語表現での注意事項は、身内・社内の人から聞いたことを他者に伝える場合に敬語表現を使わないことです。「父から聞きました」と他人に話す場合、「父から伺いました」と言うのは間違いです。「父から聞いております」という表現が適切です。また、上司から聞いたことであっても、社外の人には「部長の〇〇からそのように伺っています」ではなく「部長の〇〇がそのように申しておりました」と表現するのが正解です。

また、「聞きました」の敬語表現の「拝聴しました」を、さらに丁寧な表現にしようとして「ご拝聴しました」とするのは間違いです。「拝聴」自体が謙譲語であるため、「ご」をつけて「ご拝聴」にすると二重敬語になってしまいます。そのほか、「拝聴いたしました」は二重敬語ではないかという説もありますが、こちらは正しい敬語です。

「聞きました」の敬語での言い換え表現

・お聞きになった
・お聞きになりました
・お聞きになられました
・お聞きしました
・お聞きしています
・聞かれました
・聞いています
・聞いていました
・お耳に入りました
・伺った
・伺いました
・伺っております
・拝聴した
・拝聴しました
・拝聴いたしました
・拝聴しております
・拝聞した
・拝聞しました
・拝聞いたしました
・拝聞しております

《聞いた》の敬語

「聞いた」の敬語表現

「聞いた」の尊敬語は「お聞きになった」、謙譲語は「伺った」「拝聴した」、丁寧語は「聞きました」です。「お聞きになった」は、「おききになった」と読みます。「聞く」の尊敬語「お聞きになる」の連用形「お聞きになり」が促音便化して、助動詞の「た」がついた形です。「た」は、過去や完了、存続や確認を表します。意味は「音や声を耳に感じ取られた」「耳を傾けられた」「尋ねられた」などです。

謙譲語の「伺った」は、「うかがった」と読みます。動詞「伺う」の連用形「伺い」が促音便化して、助動詞の「た」がついています。意味は「お聞きした」「問うた」などです。「拝聴した」は、名詞「拝聴」に動詞「する」の連用形「し」が続き、助動詞「た」がついています。意味は「つつしんで聞いた」です。

丁寧語の「聞きました」は、「ききました」と読みます。動詞「聞く」の連用形「聞き」に丁寧の助動詞「ます」の過去形「ました」がついています。意味は、「音や声を耳に感じ取った」です。

「聞いた」の敬語の最上級の表現

敬語の最上級の表現は、最高敬語です。最高敬語は、天皇や皇族、王や王族に対してのみ使うことができる尊敬語になります。 「お聞きになった」の最上級の表現は、二重敬語の「お聞きになられた」です。「お聞きになった」という尊敬語に、軽い尊敬の意を表す助動詞「られる」の過去形などを意味する「られた」が重なっています。二重敬語は、同じ種類の敬語が1つの言葉の中に2つある敬語です。

「聞いた」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「聞いた」の尊敬語である「お聞きになった」を使ったビジネスメールや手紙では、次のような使い方ができます。肯定文では「お客様がお聞きになったことには、できるだけ早く返信してください」、疑問文では「お客様から、なにをお聞きになったのでしょうか」、否定文では「課長は来週の定例会議のことについて、お聞きになっていないそうです」のようになります。

謙譲語である「拝聴した」を使うときは、次のように使います。肯定文では「社長の御高説を拝聴したことがあります」、疑問文は「社長の御高説を拝聴したことがありますか」、否定文では「社長の御高説は拝聴しなかったので、内容は存じません」となります。

丁寧語である「聞きました」を使った例文は、次の通りです。肯定文では「社長の話を聞きました」、疑問文では「社長の話を聞きましたか」、否定文では「社長の話は聞いていません」のように使います。丁寧語が配慮しているのは人ではなく、場や聞き手、読み手です。フォーマルな場で人やもの、場などに使うことができるとされていますが、取り引き先など改まった関係性の場合は尊敬語や謙譲語を使う方が無難です。

「聞いた」を上司に伝える際の敬語表現

「聞いた」を上司に伝える際も、基本的にはメールや手紙と同じような使い方になります。尊敬語「お聞きになった」を使う場合は、次の通りです。肯定文では「社長はお客様の意見を、直接お聞きになりました」、疑問文では「社長はお客様の意見を、直接お聞きになりましたか」、否定文では「社長はお客様の意見を、直接お聞きになっていません」となります。

謙譲語には「伺う」もあるので、ここでは「伺った」の例文を示します。肯定文では「社長の出身地を伺ったことがあります」、疑問文は「社長の出身地を伺ったことがありますか」、否定文は「社長の出身地を伺ったことはありません」となります。

丁寧語の「聞きました」を使う場合は、次のように言います。肯定文は「社長は、風邪で欠席だと聞きました」疑問文は「社長の欠席理由を聞きましたか」、否定文では「社長の欠席理由は聞いていません」となります。口頭の場合も、丁寧語は上司との関係性によって使い分けましょう。

「聞いた」の敬語での誤用表現・注意事項

「聞いた」の謙譲語には「拝聴した」「伺った」がありますが、意味が多少異なるので使い方には注意が必要です。「耳を傾ける」という意味で「聞く」を使う場合は、特に「聴く」という漢字を使います。「伺った」は単に「聞いた」場合にも使えますが、「拝聴した」は「耳を傾けた」場合にのみ使います。従って「社長は欠席すると拝聴したので、昼食を手配しませんでした」は、そぐわない表現です。

「聞いた」の敬語での言い換え表現

「聞いた」の言い換えには、「知った」があります。「知った」の場合には尊敬語の特別な動詞があるので、尊敬語は「ご存知だ」になります。謙譲語は「存じています」、丁寧語は「知っています」です。「知った」の謙譲語の普通体は「存じている」ですが、「存じている」は現在の日本では使えません。そのため、必ず丁寧体の「存じています」の形になります。

「聞いた」の言い換えとして「耳にした」を使うと、尊敬語は「お耳にされた」です。謙譲語は「伺った」、丁寧語は「耳にしました」となります。

「聴いた」という意味での言い換えには、「傾聴した」があります。尊敬語は「ご傾聴になった」です。謙譲語は「拝聴した」、丁寧語は「傾聴しました」となります。

「お尋ねになった」は、「聞いた」を「尋ねた」の意味で言い換えたときの尊敬語です。謙譲語は「お伺いした」、丁寧語は「お尋ねしました」になります。

《分かりました》の敬語

「分かりました」の敬語表現

「分かりました」は、理解していることを相手に伝えるための日常的な言い回しです。動詞の「分かる」に丁寧語の「ます」をつなげた言葉で、同じ立場の人には問題なく使えますが、目上の人に対して使う敬語としては不適切となります。そのため、ビジネスシーンなどで相手にしっかりと敬意を示すためには、「分かりました」を別の敬語表現に置き換えることが必要です。

目上の人に「分かりました」と言いたい時には、「承知しました」を使うのが一般的です。「承知」には、「理解できている」「相手からの要求を受け入れる」という意味があり、「分かりました」よりも丁寧でかしこまった印象を与えることができます。さらに、謙譲語を組み合わせて「承知いたしました」「承知しております」とすると、自分の行為をへりくだることで相手を立てることができ、敬意を強く表すことが可能です。

また、「承りました」という表現も、「分かりました」の代わりに目上の人に使うことができる適切な敬語です。「承る」は、「引き受ける」「伝え聞く」などの謙譲語で、「承りました」には、相手の命令や要望をしっかりと聞き取って受け止めているというニュアンスが含まれます。正しく対応できますという意思表示にもなり、相手に安心感を与えることができるフレーズです。

「分かりました」の敬語の最上級の表現

「分かりました」の敬語には、「かしこまりました」という特別な言い回しもあります。謙譲語の「かしこまる」に丁寧語の「ます」を付けて過去形にした言葉で、「かしこまる」自体に「目上の人の依頼や指示を慎んで承る」という意味があります。「承知しました」や「承りました」よりもさらに丁寧で、身分の高い人に対しても安心して使える敬語表現です。

また、「分かりました」には、「拝承しました」という堅い言い回しの敬語もあります。謙譲語である「拝承」は、「謹んで承ります」という意味合いを持つため、改まった場面や格式高い場にも相応しい最上級の表現と言えるでしょう。

「分かりました」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「明日の打ち合わせの件、承知しました。よろしくお願いいたします」
「ご指示いただきました日時と場所で、承知いたしました」
「ご依頼の件、たしかに承知しております。メールをいただきありがとうございました」
「お名前とご住所をたしかに承りました」
「ご注文を承りました。明日発送いたしますのでしばらくお待ちくださいませ」
「提案書の修正につきまして、たしかに承りました。大変申し訳ございません」
「かしこまりました。来週の金曜日までには納品いたします」
「日程変更の件かしこまりました。ご指定の日に必ずお届けいたしますのでご安心ください」
「お知らせいただいた件につきまして拝承しました。のちほどご連絡いたします」
「契約内容変更の件、たしかに拝承しました。早速手続きに入りますのでよろしくお願いいたします」

「分かりました」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して「分かりました」と言いたい時には、「承知しました」「承りました」といった表現を使うのが妥当です。上司を尊重する気持ちが伝わり、円滑で良好な関係を保つことにつながります。たとえ、日頃からフレンドリーに接してくれる上司であっても、ビジネスの場で「分かりました」を用いるのはやめておきましょう。

また、社内でも地位の高い上司であったり、年齢が離れている上司に対しては、「かしこまりました」を使っても不自然ではありません。一方で、普段から親しくやりとりをしている上司に対して「かしこまりました」を使うと、かえって堅苦しすぎる印象を与えたり、距離感を感じさせてしまう場合もあります。上司との関係性やシチュエーションを考慮して、表現を上手に使い分けるとよいでしょう。

「分かりました」の敬語での誤用表現・注意事項

「分かりました」の言い換え表現として、「了解しました」「了承しました」というフレーズをよく耳にします。しかし、「了解」と「了承」は、いずれも「上の立場から理解を示す」という意味合いの言葉であるため、「分かりました」と同様に、目上の人に対して不適切な言い回しであるとされています。受け取る側によって判断が分かれますが、「了解しました」「了承しました」と言われることを失礼だと感じる人も少なくありません。ビジネスシーンなどでは、別の敬語表現に置き換えて伝えるように注意しましょう。

また、「拝承しました」をさらに丁寧にするために「拝承いたしました」とするのは、謙譲語の「拝承」と謙譲語の「いたす」が組み合わさって二重敬語となり、文法的には誤りです。気にならないという人もいますが、敬語表現に見識がある人にとっては不快に感じることもあります。念のため、使わないようにしておくのが無難でしょう。

「分かりました」の敬語での言い換え表現

承知しました
承知しているのですが
承知しましたが
承知しましたので
たしかに承知しました
承知いたしました
承知いたしましたが
承知いたしましたので
たしかに承知いたしました
承知しております
承知しておりますが
承知しておりますので
すでに承知しております
重々承知しております
たしかに承知しております
承りました
承ります
承りましょう
承りましたので
承っています
承りますので
承りましょうか
たしかに承ります
たしかに承っています
たしかに承りました
たしかに承りましたので
かしこまりました
拝承しました
拝承しましたが
拝承しましたので
たしかに拝承しました

《分からない》の敬語

「分からない」の敬語表現

理解できないときに「分からない」と表現しますが、これを「分かりません」にすれば丁寧語となります。「分かりません」は「分かる」という動詞を連用形にし、助動詞「ます」を未然形「ませ」にして付け、最後に打ち消しの意味がある助動詞「ん」を付けたものです。一方「分からない」を尊敬語で表現すると、「ご存じありません」になります。「ご存じありません」の「ご存じ」は、「知っている」と言う意味の「存じ」に尊敬の意味を含む「ご」を付けたものです。

そこに動詞「ある」を連用形にして、助動詞「ます」の連用形「ませ」と否定の助動詞「ん」を付けています。また、目上の人に自分は分からないということを伝えたい時には、「分からない」の謙譲語である「存じません」を使いましょう。「存じません」の「存じる」は、分かるという意味の謙譲語です。「存じる」を連用形にし、助動詞「ます」を未然形「ませ」に変えて付けて、最後に否定の助動詞「ん」を付けたものが「存じません」になります。

「分からない」の敬語の最上級の表現

「分からない」の尊敬語「ご存じありません」は、これ以上に敬意を表す表現はありません。そのため、どのような立場の目上の人にも「ご存じありません」を使えば良いのです。一方「分からない」の謙譲語「存じません」は、「存じ上げません」とすれば最上級の謙譲表現となります。

「存じる」を連用形「存じ」にし、そこにへりくだった意味を表す「上げる」を付けることでより謙譲の意味が強くなっています。「存じ上げる」に助動詞「ます」と「ん」を付けて否定の形「存じ上げません」になります。他には「存じておりません」も、最上級の謙譲表現です。「存じておりません」は動詞「存じる」を連用形にして、接続助詞「て」を付け、さらに「いる」の謙譲語「おる」を付けています。そして最後に「ません」を付けて、否定の形にしているのです。

「分からない」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「分からない」をビジネスメールや手紙で使う場合、相手から何か質問されてその返答をする際に謙譲語にするというパターンが多いでしょう。例えば「弊社の企画部のAをご存じですか」と聞かれた際に、「存じません」と答えることができます。取引先の人とのメールのやり取りなど、特に敬意を表す必要がある場合には「存じません」よりも「存じ上げません」を使った方が良いでしょう。さらに「申し訳ございませんが存じ上げません」と表現すれば、より丁寧な印象になります。

「分からない」を上司に伝える際の敬語表現

上司に対して分かるか分からないか確認したい時には、尊敬語「ご存じありません」を使いましょう。例えば「明日の会議で使う資料の保管場所をご存じありませんか」といった使い方があります。一方上司に質問されたことが分からない場合には、謙譲語「存じ上げません」を使いましょう。例えば上司に商品の在庫があるかどうか聞かれ、分からないと答える時は「申し訳ございませんが存じ上げません」と表現します。また、上司に分からない事柄を教えてもらいたい場合にも「分からない」の謙譲語を使いましょう。例えば、「A社の企画について存じませんので教えていただけませんか」といった使い方があります。

「分からない」の敬語での誤用表現・注意事項

「分からない」の謙譲語「存じません」や「存じ上げません」は、分かったかどうか聞かれた場合の返答としては使うことができません。例えば「この企画の内容は分かりましたか」と上司に聞かれたとしましょう。この場合、分からないということを謙譲表現で答えたいからといって、「存じ上げません」と言うのは間違いです。「分からない」の丁寧語「分かりません」を使うのが適切になります。また、ある人や物を知っているかどうか聞かれた場合、「存じ上げません」を使うのは人物が分からない場合のみにした方が無難です。

商品などに「存じ上げません」を使うと違和感を感じる人もいるため、この場合は「存じません」や「存じておりません」を使いましょう。他にも「分からない」の丁寧な表現である「分かりかねる」を使う際にも注意が必要です。「分かりかねる」の「かねる」は、「〜できない」という不可能の意味を遠回しに表現している言葉になります。そのため分かるか分からないか聞かれた際に「分かりかねる」を使うと、何か事情があって分からないという意味に捉えられてしまうおそれがあるのです。誤解を招く場合もあるため、使用するのは避けた方が無難でしょう。

「分からない」の敬語での言い換え表現

聞かれたことに対して自分では分からず、答えることができない場合には「ご返答いたしかねます」と表現できます。「ご返答いたしかねます」は、返答に謙譲の意味を含む「ご」を付けて謙譲表現にしています。そして「する」の謙譲語「いたす」を連用形にし、不可能を意味する「かねる」を付けているのです。例えば取引先の人からメールで商品の詳しい仕様を聞かれた際に、「商品の詳細につきましては私からはご返答いたしかねます」と答えることができます。

さらに「申し訳ございませんが商品の詳細につきましては私からはご返答いたしかねます」とすれば、より丁寧な印象になるでしょう。詳しい問い合わせができる連絡先などを添えても、印象がよくなります。また、自分に知識がなくて分からないことを謙譲語で表現したい時には、「存じ上げません」を「あいにく知見がございません」と言い換えられます。

《拝見しました》の敬語

「拝見しました」の敬語表現

「拝見しました」は、「見た」という自分の行為をへりくだって丁寧に述べた表現です。「拝見する」という動詞に丁寧の助動詞「ます」と完了の「た」を続けて、「すでに見終わりました」という事実を伝えています。「拝見する」は文法上、「見る」の謙譲語として特殊形に分類されているもので、自分を低めて相手を立てる言葉として、これ自体ですでに敬語表現として成立しています。

「拝見しました」の敬語の最上級の表現

「拝見しました」は、謙譲語と丁寧語を組み合わせた言葉遣いで、これ自体で敬語表現となっていますが、さらにこれ以上敬意を含めるのであれば、「しました」を「いたしました」に言い換えて「拝見いたしました」と表します。「いたす」は自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁寧に述べる丁重語の一般形で、サ行変格活用の動詞だけに用いることができる言葉遣いです。このように「いたしました」とすることで、相手に対してより敬意を示す丁寧な表現にすることができます。

また、「拝見」という言葉を、さらにへりくだった意味を持つ他の言葉に置き換えることで敬意を高めることもできます。その場合は「拝覧」という熟語を使って「拝覧いたしました」とします。「拝見」にはそもそも、これ自体に「おがみ見る」というへりくだった気持ちが表れていますが、「拝覧」には「頭を下げて謹んで見る」という意味が込められており、「拝見」よりもさらにかしこまった言葉として、相手への敬意を高めることができます。

「拝見しました」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「拝見しました」は「見る」の謙譲語としてビジネスシーンでのあらゆる文章表現に用いることができます。たとえば「概要は添付資料にて拝見しました」「メールを拝見しました。早速のご対応ありがとうございます」「送ってもらった企画書を拝見しました。この方向で進めて問題ないと思います」などとすると、同僚や後輩、部下へ送る丁寧な言葉遣いになります。「久方ぶりにお姿を拝見いたしました。お元気そうでたいへんうれしく存じます」「ご注文書を拝見いたしましたが、恐れながらすでに生産終了の商品がございます」などとすれば取引先や目上の人へのかしこまった丁寧な表現として使うことができます。

「拝見しました」を上司に伝える際の敬語表現

「拝見しました」は文章表現だけでなく、対面の場での口語表現としても違和感なく使用できる言葉です。目上にあたる上司にも、そのままで使える言葉ですが、シチュエーションによって言い方を換えたほうが適切な場合もあります。たとえば、会議用の資料について事前に目を通しておくよう指示されていた場合には、「事前に見ておくよう仰せつかっておりました資料、拝見しました」というより「事前に目を通すようご指示いただいていた資料、確認いたしました」と言い換える方が自然な会話になるでしょう。さらに「拝読いたしました」などと使えば、ただ単に資料に目を通しただけでなく、内容も含めてしっかりと読み込んだという熱意も伝わります。

このほかビジネスシーンでは「拝見しました」を許可を得る形で使うケースもあるでしょう。「見ていいか」という内容を敬語で表す場合には、「拝見してもよろしいでしょうか」などとしますが、「拝見」を使わなければ、「見せていただいてよろしいでしょうか」「見させていただいてよろしいでしょうか」などと言葉を換えて表すこともできます。

「拝見しました」の敬語での誤用表現・注意事項

「拝見しました」の敬語では、二重敬語に注意することが必要です。二重敬語とは一つの語について、同じ種類の敬語を重ねて用いることで、慇懃無礼な表現として文法上は禁止されている敬語の使い方です。「拝見」はこの言葉自体が謙譲語として成り立っているものです。そのため、さらに謙譲表現を加えることは二重敬語のタブーを犯してしまうことになります。これらの誤用表現として「拝見させていただきました」というものがありますが、「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語ですので、「拝見」とともに、敬語を重ねてしまっていることになります。そもそも「させていただく」は相手の許可を取って行為をさせてもらう意味であり、許可を求める文脈で使用する以外は不適切な言葉遣いとなるものですから、文法だけでなく意味の上からも適切な表現とはいえないものなのです。

「拝見」を相手の行為として使う表現も誤用になります。たとえば「ご覧になる」とすべきところを「拝見なさる」などと誤って使い「お送りした書類は拝見していただけましたか」などと質問してしまうのはたいへんな失礼に当たります。「拝見」はあくまで自分を低めるのに用いる謙譲語であることをしっかりと確認しておかなくてはなりません。

「拝見しました」の敬語での言い換え表現

「拝見しました」の敬語での言いかえ表現としては、「受け取る」や「申し受ける」という意味を持つ「拝受しました」、神社・仏閣、あるいはその宝物などを謹んで見るという意味の「拝観しました」、目上の人に会うことをへりくだっていう意味の「拝眉しました」「拝謁しました」などがあります。

《念のため》の敬語

「念のため」の敬語表現

「念のため」という言葉自体には、敬語表現は存在しません。「念のため」は「念のため~~する」というように、後ろに続く動作に関係する言葉です。そのため「念のため」を敬語表現の中で使う場合は、その後に続く言葉を敬語で表すことになります。

(例)
・こちらの商品仕様について、念のためご確認をお願いいたします。
・明日の予定を念のため再度お伝えします。
・天気は曇りですが、念のため傘を持参してください。
・風が強くて砂埃が舞いますので、念のためこちらのゴーグルを装着なさってください。
・念のため本人確認書類を提出していただけますか。
・工場を見学なさる際は、念のため帽子とマスクとエプロンのご着用をお願いします。

「念のため」の敬語の最上級の表現

前述のとおり、「念のため」には敬語表現がないため、その後に続く言葉を最上級の敬語で表現します。

(例)
・本日は冷えますので、念のためコートをお召しになってください。(着る→お召しになる)
・お引っ越しの際は、念のため現地をお訪ねになることをお勧めいたします。(訪れる→お訪ねになる)
・こちらの仕事内容について、念のためお尋ねしたいことがあります。(訊く、尋ねる→お尋ねする)

「念のため」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

・先ほど電話でお伝えした件ですが、念のためメールでもご連絡いたします。
・市役所までお越しになる場合は、念のため印鑑を持参なさってください。
・念のためにお尋ねしますが、ご来場の際は公共交通機関をご利用になりますか。
・製品の品質には万全のチェックを施していますが、念のため〇〇様の方でもご確認をいただければ幸いです。
・展示会当日は道路の混雑が予想されるので、念のためお早めのご来館をお勧めいたします。
・念のためご確認したいのですが、ご同伴の方はいらっしゃいますか。

「念のため」を上司に伝える際の敬語表現

「念のため」を上司との関係で使う場合、それは報告書や成果物などをチェックしてもらう場面が多いでしょう。そして、そこには「本来は自分ひとりで完結させるべき仕事を、自分だけでは不安が残るのでチェックしてほしい」という文脈があります。上司の指導が必要な仕事内容であれば、いずれにせよ確認してもらわなければいけないので、わざわざ「念のため」を付ける必要もありません。そのため上司に「念のため」を使う場合は、上司に時間を取らせてしまっているという意識を持って、そこに対する配慮も伝えるようにしましょう。

(例)
・お忙しいところ恐縮ですが、こちらの報告書について、念のため確認していただけますか。
・記事内容に誤りがないか、念のためご一読をいただけると大変ありがたく存じます。

「念のため」の敬語での誤用表現・注意事項

「念のため」は、主にビジネスにおいて「誤用表現」と受け取られる場合があります。

「念のため」は、文脈によって2つの意味で使われます。ひとつは「万が一に備えて」「万一のために」などの「念を押す」という意味。こちらが「念のため」の本来の意味です。もうひとつは「一応」や「多分」といった、曖昧さを表現する意味です。後者の意味で使う場合は、「念のため」を「一応」に置き換えても同じ意味となります。例えば「念のためお伝えします」を「一応お伝えします」と言い換えても、言葉の意味においては問題ありません。

しかしここで注意しなければいけないことがあります。一般的に、ビジネスシーンで「一応~~します」といった表現を使うことは不適切とされています。「多分」も同様です。ビジネスでは明瞭かつ簡潔なやり取りをすることが求められるので、こうした曖昧な表現は好ましくないからです。ただし、そうは言っても「まだ確定していないけれど伝えておきたい」というニュアンスで報告する場面もあるでしょう。その場合は「一応」ではなく「念のため」で表現しましょう。

また「念のため」には「為念(ねんのため、ためねん)」という言い換え表現があります。意味は全く同じなのですが、「一応」と同じく使わない方がいいでしょう。あまり一般的ではない言葉であり、この表現を知らない人からすれば、奇妙な略語を使われていると感じて失礼な印象となる可能性があるからです。

「万が一のため」と「一応」の、どちらの意味で使うにせよ、それらが指し示すことは、「この後に続く言葉(行動)に注目してください」ということです。その文章で伝えたいこと(文意)は、あくまで「念のため」の後ろに続く言葉なので、その言葉についての敬語表現を押さえるようにしましょう。

「念のため」の敬語での言い換え表現

「念のため」という言葉には敬語表現が無いため、言い換え表現も、その後に続く言葉で行います。また、「念のため」を「万が一のため」に言い換えることもできます。

(例)
・念のため休んでください。(「休む」の敬語表現を言い換える)

・念のためお休みになってください。
・念のためお休みなさってください。
・万が一のことがあってはいけませんので、お休みになってください。

・念のため確認します。(「確認する」の敬語表現を言い換える」)

・念のためご確認いたします。
・万が一の場合に備えて、こちらでも確認いたします。

・念のため待機してください。(「待機する」の敬語表現を言い換える)

・念のため待機していただきたく存じます。
・万が一の際にはお力が必要となりますので、こちらで待機なさってください。

《渡す》の敬語

「渡す」の敬語表現

自分から相手に物や権利を与える際に使う「渡す」という言葉は、「渡します」にすれば丁寧語となります。これは動詞である「渡す」を連用形「渡し」に変え、丁寧の助動詞「ます」を付けた形です。同僚や部下などに使う場合は丁寧語「渡します」で問題ありません。しかし、上司など目上の人に自分から何かを与える際には、謙譲語を使う必要があります。「渡す」を謙譲語にするためには、まずは連用形「渡し」に変え、謙譲の意味を含む接頭語「お」を付けましょう。

そしてさらに謙譲の意味を含む助動詞「する」を付けて「お渡しする」という形にすれば、「渡す」の謙譲語となるのです。「お渡しする」は基本的に「する」を連用形にし、丁寧の助動詞「ます」を付けて「お渡しします」という形で使います。一方目上の人が誰かに何かを与えることを表現する場合は、「渡す」を尊敬語にしなければなりません。「渡す」の尊敬語は「渡される」で、こちらは「渡す」を未然形「渡さ」に変え、尊敬の意味を含む助動詞「れる」を付けた形となります。

「渡す」の敬語の最上級の表現

「渡す」の謙譲語「お渡しする」よりも、さらに謙譲の意味が強くなる表現もあります。それは「お渡しいたす」です。「お渡しいたす」は「お渡しする」の「する」を、謙譲語の一種である丁重語「いたす」に変えた形となります。丁重語は改まった場で使うものなので、「お渡しいたす」は「渡す」の謙譲語としての最上級の表現と言えるのです。「お渡しいたす」は基本的に「いたす」を連用形「いたし」にし、丁寧の助動詞「ます」を付けた「お渡しいたします」という形で使います。

他にも「お渡し申し上げる」も、「渡す」の最上級の謙譲表現です。「お渡し申し上げる」の「申し上げる」は、「する」という意味の補助動詞になります。また、「渡す」の尊敬語「渡される」よりも「お渡しになる」と表現した方が尊敬の意味が強いです。「お渡しになる」は、尊敬の意味を含む「お」と「なる」を付けているため、「渡す」の最上級の尊敬表現となります。

「渡す」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「渡す」をビジネスメールや手紙で使う際は、同僚や部下宛てならば丁寧語「渡します」にしましょう。例えば「明日の会議の資料は午後に渡します」という使い方ができます。取引先など特に敬意を表す必要がある人に、自分が何かを渡すことをビジネスメールで伝えたい場合は最上級の謙譲語「お渡しいたす」を使いましょう。例えば「商品の詳細についての資料は来週までにお渡しいたします」といった使い方があります。

「お渡し申し上げる」を使い、「明日の会議後に新商品のサンプルをお渡し申し上げます」と表現しても良いでしょう。一方取引先の方が何かを渡すことをビジネスメールで表現したい時は、尊敬語を使う必要があります。この場合、最上級の尊敬表現「お渡しになる」を使うのが最適です。例えば「昨日のイベントの来場者にお渡しになった資料の在庫はまだございますか」という使い方ができます。

「渡す」を上司に伝える際の敬語表現

上司に自分が何かを渡す時には、謙譲語「お渡しする」を使いましょう。例えば「必要な書類は私が準備して部長にお渡しします」といったように使います。また、社長など特に敬意を表す必要がある上司の場合、最上級の謙譲表現「お渡しいたす」を使った方が無難です。例えば「新商品についての資料は社長に昨日お渡しいたしました」という使い方があります。一方上司が誰かに何かを渡すことを表現したい時には、「渡す」の尊敬語「渡される」を使いましょう。

「部長が昨日Aさんに渡された書類は私が預かっています」「必要な資料はすでに社員全員に渡されましたか」というように使います。尊敬語の場合もやはり、特に敬意を表す必要のある上司の場合は、最上級の尊敬表現「お渡しになる」を使った方が良いです。上記例文は、「部長が昨日Aさんにお渡しになった書類は私が預かっています」「必要な資料はすでに社員全員にお渡しになりましたか」と言い換えられます。

「渡す」の敬語での誤用表現・注意事項

「渡す」の尊敬語「渡される」は、受身や可能の意味を表す場合もあります。そのため尊敬語として「渡される」を使っても、相手に上手く伝わらず誤解を招いてしまうおそれもあるのです。トラブルを避けたい場合、「お渡しになる」の方を使いましょう。また、「渡す」の謙譲語として「お渡しさせていただく」と表現するのは間違いです。「お渡しする」という謙譲語に、さらに謙譲の意味を含む「いただく」を付けると二重敬語になってしまいます。

「渡す」の敬語での言い換え表現

「渡す」は「提出する」に言い換えられます。謙譲語は「提出いたす」、尊敬語は「ご提出くださる」です。例えば「新しい案件についての書類は明日提出いたします」「昨日部長がご提出くださった資料を確認いたしました」などといった使い方があります。他にも「送る」も「渡す」の言い換え表現です。謙譲語は「お送りする」、尊敬語は「お送りになる」と表現します。

また、「届ける」を「渡す」の言い換えとして使う場合もあるでしょう。「届ける」の謙譲語は「お届けする」、尊敬語は「お届けなさる」です。特に取引先に郵送で資料などを渡す場合には、「資料は郵送にてお届けします」というように使った方が分かりやすいでしょう。この際、「お届けします」を「お届けいたします」に変えると、より謙譲の意味が強くなります。

《伝える》の敬語

「伝える」の敬語表現

言葉を使い相手に知らせるという意味のある「伝える」の丁寧語は、語尾に助動詞「ます」を付けて「伝えます」と表します。丁寧語である「伝えます」は、相手と自分との関係性などを考慮することなくあらゆる場面で使用可能です。一方「伝える」の尊敬語は、動詞を受身形に変えて「伝えられる」と表現します。こうすることで、目上の人の「伝える」という行為に敬意を表せます。

そのため尊敬語「伝えられる」は、自分が伝える立場の場合には使用できません。また、「伝える」は「言う」の謙譲語にあたる「申す」を付けて「申し伝える」と表現すれば謙譲語になります。他にも謙譲の意味がある「お」を付けて「お伝えする」と表す場合も、「伝える」の謙譲語です。

「伝える」の敬語の最上級の表現

「伝える」の尊敬語は「伝えられる」ですが、実はこれよりもさらに相手への敬意を表せる尊敬語もあります。「伝える」に尊敬の意味を含む「お」を付けて「お伝え」という名詞の形にし、さらに助詞「に」と動詞の「なる」を接続して、「お伝えになる」と表します。これが、「伝える」の最上級の尊敬語です。

「伝える」の謙譲語「お伝えする」にも、より敬意を表すことのできる謙譲語があります。「お伝えする」の「する」を謙譲語「いたす」に変換し「お伝えいたす」と表現すると、「伝える」の最上級の謙譲語となるのです。基本的に丁寧語を使って「お伝えいたします」と表現します。さらに「言う」の謙譲語「申し上げる」を使い「お伝え申し上げる」とした場合も、「伝える」の最上級の謙譲表現です。

「伝える」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「伝える」をビジネスメールや手紙で使う場合、謙譲語にする場面が多いでしょう。特にメールの相手から自分の社内の人に、何か伝言を頼まれた際の返事としてよく使われます。例えば取引先とのメールで、「こちらの件につきましては弊社の営業担当Aに申し伝えます」と表現することがあるでしょう。この例文では、取引先に敬意を表すために謙譲語「申し伝える」を使用しています。他にも取引先とのメールで、「打ち合わせの件については責任者に申し伝えます」という使い方をする場合もあります。この場合、責任者が自分の上司であっても敬意を表すのは取引先であるため、「申し伝える」を使います。取引先とのメールでは、例え上司であっても社内の人間に対しては敬語表現を使う必要はありません。

「伝える」を上司に伝える際の敬語表現

「伝える」を上司との会話で使用する場合、謙譲語と尊敬語の両方を使う場面があるでしょう。例えば上司に対して、自分が取引先に伝えておくという旨を敬語表現を用いて言いたいとします。この場合「打ち合わせの件は私が取引先にお伝えします」といったように、「伝える」の謙譲語「お伝えする」を使いましょう。この表現では敬意を表す先は上司ではなく、取引先になるのです。

「納期変更については私が取引先にお伝えいたします」というように、「伝える」の最上級の謙譲表現「お伝えいたす」を使えばより丁寧な印象になります。また、上司が何かを伝えるということを表現したい場面もあるでしょう。そのような場合は、「出張の件はAさんにお伝えになりましたか」といったように、「伝える」の尊敬語「お伝えになる」を使います。「取引先にお伝えになりましたか」のように伝える先が取引先であっても、この場合敬意を表すのは上司に対してなので尊敬語を使います。

「伝える」の敬語での誤用表現・注意事項

「伝える」の尊敬語は「伝えられる」ですが、この表現を使う際には注意が必要となります。それは「〜られる」を付けると、受身や可能といった意味になる場合もあるからです。例えば「母親にこうするように伝えられた」と表すと受身の表現になります。「ずっと思っていたことを伝えられた」と言えば、可能の意味を含む表現になるのです。そのため「伝える」を尊敬語にしたい場合は、「お伝えになる」を使用した方が無難でしょう。

また、同じ謙譲語でも「申し伝える」と「お伝えする」は使う場面が違うので、その点にも注意が必要です。「申し伝える」はメール相手や話相手などの聞き手に敬意を表す謙譲語で、伝える先に敬意を表しているわけではありません。一方「お伝えする」は行為がおよぶ先、つまり伝える相手に対して敬意を表す謙譲語です。例えば取引先とのメールでは、「上司にお伝えします」といったような使い方はできないので注意しましょう。この場合メールの相手である取引先に敬意を示す必要があるため、「上司に申し伝えます」と表現するのが適切です。

「伝える」の敬語での言い換え表現

「伝える」の丁寧語「伝えます」は、「知らせます」と言い換えることができます。尊敬語「お伝えになる」は、「知らせる」に尊敬の意味を含む「お」を付け、さらに助詞の「に」と動詞「なる」を接続して「お知らせになる」と言い換え可能です。謙譲語「お伝えする」は、「知らせる」に謙譲の意味を含む「お」を付けて、「お知らせする」と言い換えられます。また、「伝える」の類義語に「連絡する」もあるため、尊敬語「お伝えになる」を「連絡なさる」と言い換えたり、謙譲語「お伝えいたす」を「ご連絡いたす」と言い換えたりすることもできます。

《知らない》の敬語

「知らない」の敬語表現

「知らない」の敬語は、丁寧語である「知りません」です。また、謙譲語の「存じません」も広く使われています。

「知らない」の敬語の最上級の表現

「知らない」の敬語の最上級は「存じ上げません」です。これは「存じません」をより丁寧に言い換えた形です。相手の社会的地位が高かったり、強い敬意を込めるべき相手だったりする場合には、「存じ上げません」を使うようにしましょう。

「知らない」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

顧客や取引先とのやり取りでは特に、「存じません」や「存じ上げません」を使うのが礼儀です。以下、「存じません」や「存じ上げません」を使った例文を挙げます。

「先方から言われた商品を私は存じませんでした。次の商談までにリサーチしておくつもりです。以上、よろしくお願いいたします」 「たいへん申し訳ないのですが、私は当時の担当者を存じ上げません。ご希望であれば別の人間をご紹介いたしますが、いかがでしょうか」

同僚への手紙、簡潔なメールでは「知りません」を使うことも可能です。「存じません」では堅苦しい印象になりそうなときは、「知りません」と書いても間違いにはなりません。ただ、目上の人に「知りません」と書くのは失礼になりかねないので、相手を選びましょう。以下、「知りません」を使った例文です。

「私は進捗をまったく知りませんでした。教えていただき感謝しています」 「取り急ぎ返信ですが、私はトラブルの経緯を知りません。至急、電話で報告してください」

ビジネスメールや手紙では、クッション言葉を使うこともひとつの方法です。文章や会話が断定的にならないようにすれば、受け手が感じる印象もやわらぐでしょう。顧客や上司とのやりとりでは特に、表現をやわらげることが大切だといえます。以下、クッション言葉を使った、「知らない」の敬語表現の例です。

「たいへん申し訳ないのですが、私はその場所を存じません」 「失礼ながら、私は課長を存じ上げませんでした。すみません。この機会に、二度と失礼がないよう努めます」

そのほか、ビジネスシーンでは何かを「知らない」原因が、自分自身にあるという伝え方をするのがマナーです。少しでも、「知らなくて当然」「言われなかったから知らなかった」などのニュアンスが含まれてしまうと、失礼にあたります。自分の非を強調するために使われるクッション言葉としては、「不勉強ながら」「お恥ずかしい話ですが」などが挙げられます。以下、例文です。

「不勉強ながら、送っていただいた内容を存じませんでした。お手数ですがもう一度、ご説明いただけますか」 「お恥ずかしい話ですが、お客様の詳しい業務内容を存じませんでした。この機会に、教えていただければ幸いです」

「知らない」を上司に伝える際の敬語表現

上司に何かを「知らない」と伝える際には、「知りません」とはいいません。必ず「存じません」か「存じ上げません」を使うようにしましょう。「知りません」はややカジュアルな言い回しであり、強い敬意が含まれていないといえます。目上の相手に用いると、不愉快にさせるリスクがあります。

「知らない」の敬語での誤用表現・注意事項

物や出来事を知らないときには「存じません」を使っても大きな問題にはなりません。ただし、人を知らないと伝える際には、できるだけ失礼にならないよう「存じ上げません」を用いるのがマナーです。また、「存じません」や「存じ上げません」は謙譲語なので、主語は自分か身内の人間です。つまり、身内以外や目上の人間を主語にするのは間違いです。「お客さまは暗証番号を存じ上げません」といった文章は、敬語の誤用になるので注意しましょう。主語が目上の人間であるときの敬語には、尊敬語の「ご存じない」を使います。たとえば、「お客様は暗証番号をご存じないでしょうか」とするのが正解です。

さらに、「知らない」の敬語表現では前後の語句も意識しましょう。なぜなら敬語に直したとしても、何かを「知らない」と断言するのはかなり強い否定になってしまうからです。ビジネスシーンにおいては、「知らない」と言い切ってしまうことで商談が途切れてしまう可能性もあります。そうならないよう、「知らないけれども、こうした対応ならできる」という点を示しましょう。使用例としては、「私はその生産管理システムを存じません。ただ、弊社と長く取引をしている企業のシステムならご提案できます」といった形になります。

「知らない」の敬語での言い換え表現

「知らない」の敬語表現の代表的な類語には、「分かりかねます」「面識がございません」などが挙げられます。「知識がない」「互いに顔を見知っているのではない」という意味であり、「知らない」の敬語の言い換えに使うことも可能です。ただし、それぞれニュアンスが異なるので注意しましょう。まず、「分かりかねます」には「知っていれば教えられるのだが、あいにく知識を持っていない」との意味が含まれています。「知りません」や「存じません」よりも、相手にやや寄り添っている表現だといえるでしょう。「知らなくて申し訳ない」という気持ちを込めたい際に便利です。

一方、「面識がございません」は「存じ上げません」とほとんど似た意味です。強いて違いを挙げるなら、「面識がございません」には「認識はしている」というニュアンスがあります。つまり、「その方と面識はございません」というときは、「会ったことがないだけで、誰なのかは分かっている」状態です。それに対し、「存じ上げません」は「誰なのかも知らない」との意味です。

《断る》の敬語

「断る」の敬語表現

「断る」の敬語表現は「お断りします」です。これは美化語の「お」をつけたうえで、丁寧語の「します」を加えた形です。なお、謙譲語の「いたす」を加える、「お断りいたします」という表現も広く使われてきました。

「断る」の敬語の最上級の表現

「断る」の敬語の最上級には「お断り申し上げます」「お断りさせていただきます」などがあります。ただし、これらの言い回しでは「相手の申し出を拒否する」というニュアンスが強く含まれているので、敬意を欠いてしまうこともありえます。そのような際には、「~いたしかねます」や「遠慮させていただきます」といった言葉が使われてきました。これらの表現では、拒否の意図が遠回しになっています。すなわち、相手を不愉快にさせないための工夫がこらされており、敬意が強まっているといえるのです。

なお、「遠慮させていただきます」を「ご遠慮させていただきます」にするべきかどうかという点については、諸説があります。結論からいえば、いずれも間違いではありません。「ご遠慮」の「ご」は自分の行為を美化しているわけではなく、相手に向けた行為を美化しているからです。ただ、「ご遠慮」という表現にどうしても違和感があるなら、「遠慮」でも大きな問題にはならないでしょう。

「断る」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

「お断りします」や「お断りいたします」は、ビジネスシーンで好ましい表現とはいえません。直接的に、「受け入れられない」という気持ちを示しすぎているからです。ただ、ときにははっきりと意思を表明しなければならないケースもあります。身内へのメール、手紙の場合は、「お断りします」や「お断りいたします」を用いてもマナー違反にはならないでしょう。以下、例文です。

「せっかくのお誘いですが、お断りします。その日は打ち合わせと重なっています」 「ご提案について、お断りいたします。もう少しだけ、今の方法で進めてみるつもりです」

身内以外とのメール、手紙では「お断り申し上げます」や「遠慮させていただきます」などの表現を使いましょう。はっきりと否定の気持ちを伝えることで、失礼になる可能性が高いからです。丁寧な言い回しで、少しでも否定的なニュアンスをやわらげるのが礼儀です。以下、例文を挙げていきます。

「ご来場の件ですが、たいへん恐縮ながらお断り申し上げます。その日は会員様だけの催しとなっております」 「パーティーの出席ですが、遠慮させていただきます。その日は出張で都内にはおりません。またの機会にご一緒できたらと願っています」

「断る」を上司に伝える際の敬語表現

上司をはじめとする、目上の人間には「断る」という言葉を使うのが好ましくないといえます。代わりに「~いたしかねます」や「遠慮させていただきます」といった表現を使いましょう。上司の願望を断る際は「~いたしかねます」とするのが一般的です。それに対して、上司の誘いを断る際には「遠慮させていただきます」を用います。

「断る」の敬語での誤用表現・注意事項

「断る」は拒絶の意味を持つ言葉であり、敬語にしてもニュアンスは変わりません。そのため、「お断り申し上げます」「遠慮させていただきます」と丁寧な言い回しを使っていても、相手を不愉快にさせる恐れがあります。そうならないよう、使用する際にはクッション言葉を使いましょう。「断る」の敬語と一緒に使われることの多いクッション言葉は、「不本意ながら」「まことに遺憾ながら」「せっかく~していただいたにもかかわらず」などです。「不本意ながら、お誘いを遠慮させていただきます」といった書き方にすれば、「本当は受け入れたいが、事情があって仕方ない」との意思を込められます。

次に、理由と謝罪も一緒に並べるのが理想です。単に「お断りします」と告げるだけでは、主観的な判断で拒絶している雰囲気になりかねません。こうした失敗を避けるには、理由も添えておくことが大事です。ただし、詳細な理由を述べるとかえって失礼になります。理由は簡潔に短くまとめましょう。そのうえで、断ってしまったことに対する謝罪を付け加えるのがマナーです。可能なら、次回以降の提案も付け加え、相手の心情をフォローしましょう。例文を挙げるとすれば、

「せっかくのお申し出ではございますが、弊社ではすでに人数は確保できております。たいへん恐縮ながら、遠慮させていただきます。申し訳ございません。ただ今後、このような場面があれば御社にご相談させてくださいませ」

といった形です。

「断る」の敬語での言い換え表現

「断る」の敬語に似た言葉としては、「拒否します」「拒絶します」などが挙げられます。いずれも意味は「断る」の敬語と変わらないものの、やや強い否定のニュアンスを含みます。目上の相手に対して使うのは、控えるべき言い回しだといえるでしょう。なお、目上の人からの申し出を断るときの敬語としては、「ご辞退申し上げます」や「拝辞させていただきます」が定型化しています。これらの言葉は「恐縮ながら」「申し訳ございませんが」などのクッション言葉と一緒に使われるのが一般的です。さらに、「断る」の敬語の言い換え表現として、目上の相手にも用いることができます。