2022年6月21日火曜日

シルバー民主主義

読み方:シルバーみんしゅしゅぎ
別名:シルバーデモクラシー
英語:democracy for seniors

シルバー民主主義とは

シルバー民主主義とは、高齢者を優遇する政策が優先され、それによって若年層を支援する政策が後回しにさたり、あるいは将来を見据えた抜本的な構造改革が阻止されたりする状態のこと。

シルバー民主主義は、少子高齢化の進行に伴って生じる構造である。有権者全体を占める高齢者の割合が増加することにより、多数派である高齢者に迎合する政策が重んじられるようになるためである。

政治家は、選挙に勝利するためには多くの得票数を獲得しなければならず、多くの有権者に受けのよい政策を掲げる。そして少子高齢化社会における最大の票田は高齢者層である。自ずと政治家は選挙に勝つために高齢者に偏重した政策に傾きやすくなる。

若者は全数も少ないが、投票に行く割合も少ない。若者を積極的に支援する政策を掲げても、選挙に勝てなければ実現できない。

シルバー民主主義の政策の例

シルバー民主主義の政策はどういうものか、極端な例を挙げると、「高齢者福祉のための制度や設備の充実は優先される」「が、育児支援制度の充実・保育施設の充実・若者の就労支援の整備といった若年層向けの政策は二の次にされやすくなる」といった状況である。

いわゆる「高齢者向け給付金」などは、シルバー民主主義の典型例として批判のやり玉に挙げられやすい。もちろん各給付金はそれなりの事情があるわけで、一概に「高齢者優遇だ」と批判できるわけでもない。

日本の場合

一般的に民主主義体制の先進国に生じる場合が多い。特に日本では、年金をはじめとする高齢者のための社会保障費の増加が顕著である。

高齢者向けの政策が充実する一方で、教育や子育てなどといった分野に充てられる費用が縮小し、若い世代への負担が増加するといった世代間格差が問題視されている。

ちなみに、「シルバー民主主義= silver democracy」は和製英語の類である。英語には「シルバー(silver)」を「高齢者」の意味で使う用法は特にない。とはいえ少子高齢化の進む先進諸国では同種の問題は多かれ少なかれ議論されている。

シルバー民主主義を簡単にいうと

「シルバー民主主義」とはどういうことか、極論すれば「老人の老人による老人のための政治」といえるかもしれない。

ただし、民主主義の構造そのものが捻じ曲げられてシルバー民主主義になっているわけではない。民主主義のシステム上、少子高齢化が進行するとシルバー民主主義になってしまうことは半ば避けがたい。

シルバー民主主義の解決策

シルバー民主主義が含む問題を打開するための策はいくつか提案されている。具体的には「成人(選挙権)年齢の引き下げ」や「ドメイン投票方式」「余命投票制度」「年齢別選挙区制」などである。

「成人(選挙権)年齢の引き下げ」は、より若い世代に早く選挙権を持たせることで、有権者における若者の比率を高める(比率の偏りを是正する)とともに、有権者として政治に関係する意識を早いうちから持ってもらう、といった意義がある。劇的な効果が見込めるわけではないが、近年では世界各国で導入が進んでいる。日本でも2015年に「18歳選挙権」を実施するため公職選挙法が改正され、翌2016年に導入された。

「ドメイン投票方式」は、未成年の子供をもつ親に子の分の投票権も与える、という考え方である。未成年に選挙権を与えるわけにはいかないが、親権を持つ者に投票権を委ねれば、子供のための政策を支援する意思決定が促されるはずである。この投票方式は(導入を検討した国はあったが)2022年現在まで本格的に導入された事例はまだない。

「余命投票制度」は、平均余命をもとに有権者の票に重み付けを行い、若い世代の意思が反映されやすくしよう、とする考え方である。これを導入すれば少子高齢化社会においても若者の意思を汲んだ政策が取り入れやすくなる。しかし余命投票制度は「1人1票」の原則を覆して格差を生む制度として抵抗を持たれやすい。導入された事例はまだない。

「年齢別選挙区制」は、有権者を世代ごとに区分し、各世代が占める比率に応じて議席数を配分しようとする考え方である。高齢者の割合は多いままになるとしても、若年や中年を代表する世代が支持する議席が確保され、若者の意思が議会で等閑視されることがなくなると期待される。

制度そのもの以前に若者の投票率の低さが問題である、若者世代の投票を促すために、たとえばインターネット投票の導入を実現するべきだ、といった見解もある。投票に行くことを義務化するべきという声もある。

そもそもシルバー民主主義は民主主義の必然であり、なんら問題はない、という立場もある。