2020年5月8日金曜日

アドレノクロム

英語:adrenochrome

アドレノクロムとは

アドレノクロムとは、副腎から分泌されるアドレナリンをカテコール酸化酵素または酸化銀で酸化した化合物のこと。化学式はC9H9NO3。アドレノクロムは不安定な化合物で、pH7.3、37℃という人体の組成に極めて近い状況下では顕著な分解が見られる。乾燥した結晶状態では赤色、赤紫色をしている。アドレノクロムの誘導体であるアドレノクロムモノアミノグアニジンは血管強化薬などに用いられている。

アドレノクロムとアドレナリン

アドレノクロムの前駆体であるアドレナリンは、緊急時など交感神経が興奮した状態において副腎髄質(副腎の一部)から分泌されるホルモンで、気管支の拡張、皮膚や粘膜といった末梢血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加などの作用がある。アドレナリンは1895年、ポーランドの生理学者であるナポレオン・サイブルスキーによって発見された。さらに1900年には、日本人科学者である高峰譲吉と、助手の上中啓三が牛の副腎からアドレナリンの抽出と結晶化に成功し、その後、アドレナリンの製造開発が本格的に進められた。

アドレノクロムには出血時間を短縮させる効果がある

アドレナリンの酸化化合物であるアドレノクロムに注目が集まったのは、アドレノクロムに出血時間を短縮させる効果が認められたためである。もともと医療用の局所麻酔薬には、血管収縮剤としてアドレナリンが添加されている。これは、アドレナリンの末梢血管を収縮させる作用を応用したもので、局所麻酔薬を投与した部分の血管を収縮させて麻酔薬を持続させる効果がある。その際に、局所的な止血作用が起こっているのが確認されたのだが、これはアドレナリンが体内で酸化してできたアドレノクロムに止血効果があるためではないかといわれた。研究の結果、アドレノクロムには止血効果が認められ、血管強化薬として使用されるようになった。

アドレノクロムモノアミノグアニジンの開発

アドレノクロムに止血効果があることが認められたものの、アドレノクロムは自然状態では極めて不安定な化合物だったため、血管強化薬としての応用は難しかった。そこで、より安定性の高いアドレノクロムモノアミノグアニジンが開発され、血管強化薬として使用されるようになった。アドレノクロムモノアミノグアニジンの作用機序については不明な点が多いものの、ヒト由来の液状フィブリン接着剤といった血液製剤のように血液を凝固させるのではなく、血管透過性を抑制して止血作用を示すものと考えられている。またアドレノクロムと同様の効果を持つものとしてカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムがあり、こちらも血管強化薬として用いられている。

一方、アドレノクロムは、1950~1960年代、カナダの生化学者であるエイブラハム・ホッファーが統合失調症の原因であると主張したため、世間の注目を集めたこともある。この説は「アドレノクロム仮説」といわれ、ビタミンやミネラルの不足によりアドレノクロムが正常に代謝されなくなった結果、体内のアドレノクロムが過剰になり統合失調症を発症する可能性がある、とされた。このため、統合失調症の患者にメガビタミン療法という、ビタミンCとナイアシン(ビタミンB3の一種)の大量療法が行われたこともある。しかし、この治療はその後の追加研究によって効果が確認できず、それによりアドレノクロム仮説も徐々に衰退していった。

また、このアドレノクロム仮説では、過剰になったアドレノクロムが幻覚作用や思考障害を引き起こす原因であるとされた。このため映画やテレビでは、強い幻覚作用があるドラッグのように扱われたこともある。インターネットにおいても、アドレノクロムが若返りの薬のように書かれた記事が散見されるが、そのような効果があることは確認されていない。なお、アドレノクロムはさまざまな実験に用いられることもあり、日本では富士フィルム和光純薬株式会社が研究用の試薬として販売している。