2020年11月24日火曜日

さもありなん

別名:然もありなん

さもありなんとは、さもありなんの意味

「さもありなん(然もありなん)」とは、「きっとそうに違いない」「その通りである」といった意味の言葉である。要するに、同意の表現だといえる。もともとは古文に登場していた言葉ではあるものの、現代でもまったく登場しなくなったわけではない。特に、文学や随筆の分野では情感をこめた表現として、あえて現代語の中に「さもありなん」を混ぜてくることもある。一方で、日常会話の中では、ほとんど「さもありなん」が使われることはなくなった。

「さもありなん」には納得のニュアンスが含まれることも少なくない。たとえば、「ある人が飲酒運転をしていたら警察に呼び止められてしまった」という話をされたとする。それに対して「さもありなん」と返せば、「それはそうなるだろう」という納得の意を示したことになる。あるいは、強い推量を表現する語句として、「さもありなん」が選ばれることも多い。「いうまでもなくそうなるだろう」という感覚が「さもありなん」には込められている場合もある。

「さもありなん」には、やや否定的な意味合いが含まれている。「最初からそうなると思っていたし、実際にそうなった」くらいの、ネガティブな文脈で登場するケースもある。そのため、うかつに「さもありなん」を使ってしまうと、相手を不快にさせてしまうことがある。相手を称賛したいとき、素直に同意したいだけのときには、「さもありなん」以外の言葉を使うのが無難である。

「さもありなん」を品詞分解したとき、「さ」「も」「あり」「な」「む(ん)」といった要素に分けられる。まず、「さ」とは漢字にすると「然(さ)」であり、「そのように」という意味を持つ副詞である。そして、「も」は副詞の後に付け足される係助詞である。「ありなん」は正式に書くと、「有りなむ(ん)」となる。「有り」は補助動詞で、単体だと「~のような状態である」という意味である。最後は助動詞「ぬ」の未然形である「な」と、助動詞「む(ん)」が続いて、「さもありなん」の形になっている。

さもありなんに似た言葉

「さもありなん」に似た言葉として「さもあらば」「さもありぬべし」が挙げられる。「さもあらば」は、響きこそ「さもありなん」に近いものの、意味は「どうにでもなれ」であり、まったく異なる言葉である。自暴自棄になった心情を表現しており、正確には「さもあらばあれ」と書く。

「あもありぬべし」は「きっとそうであるに違いない」という意味で、「さもありなん」とほとんど変わらない。ただ、助動詞「む(ん)」のかわりに「べし」が使われることで、より強い推量のニュアンスが加わっているといえる。

「さもあらば」と「さもありぬべし」は、「さもありなん」以上に現代語で使われる頻度が低い。「さもありなん」はファッション的な意味合いで文中に使われることも少なくない。その点では、「さもありなん」のほうが歳月に耐えてきた言葉だといえるだろう。

さもありなんの例文、使い方

「さもありなん」は、「さもありなんといったところだ」「さもありなんという感じである」といった文脈で用いられる。それぞれの意味は、「それはそうなるだろうといったところだ」「そうに違いないという感じである」となる。特に、文学の世界では昭和以降の作品でも「さもありなん」が頻出してきた。あえて古典的な響きを作中に込めたいときに効果的な語句だからである。また、現代語で書くと冗長になってしまう複雑な感情も、「さもありなん」であれば一言で表現できる。

そのほか、「こういう結果もさもありなん」と、語尾に用いるケースも多い。本来ならば、現代語において「そう思っていた通りだ」のように、「さもありなん」に該当する言葉をあてはめることはできる。しかし、ファッション的な意味で、現代人の日常にはない言葉を使いたがる作者もいる。

文豪たちも「さもありなん」を効果的に使って、作品に情緒をもたらしてきた。「さもありなん」でよく知られているのは、太宰治の作品である。「さもありなん、と私は、やはり淋しく首肯している。そうなってしまったら、ほんとうに、どうしようも、ないではないか。(太宰治「蓄犬談」)」と、自嘲気味な文脈で使うことで主人公のキャラクターを巧みに際立たせている。「さもありなん」に含まれている、皮肉でネガティブな響きも太宰治の作風にはよく合っていた。そのため、「蓄犬談」は「さもありなん」の出てくる文学の代表格であり続けている。

さもありなんの類義語

「ごもっとも」や「まったくだ」も「さもありなん」と同じく、同意の気持ちを表現する言葉である。ただし、「ごもっとも」と「まったくだ」には、「さもありなん」に含まれる推量のニュアンスが消えている。いずれも物事を肯定する意味がより強い。また、「さもありなん」とは違い、深い共感を表すときにも使われる。次に、「さもあらん」はほぼ「さもありなん」と同じ意味である。ただ、「さもありなん」は近代に入っても有名な文学で使われるなどして、残っていった形である。「さもあらん」のほうが、現代では使われる頻度が減ってしまった。

古語から生き残った言葉としては、「むべなるかな」も「さもありなん」の類義語に挙げられる。意味は「その通りに思える」であり、「さもありなん」に近い。ただし、「むべなるかな」はあくまでも、誰かの考えに対して使われる語句である。「あなたの考え方は正しいと思う」との同意であり、物事全般に納得している「さもありなん」とは微妙に違う意味となる。

そのほか、「あにはからんや」は多くの人が「さもありなん」と混同しそうになる語句である。2つとも推量がこめられていて、誰かの言葉や物事に対する感想として投げかけられるのは共通している。しかし、「あにはからんや」は「そのようなことをなぜ思うのか(いや、思うはずもない)」という反語である。意外に思う気持ちを表現しており、納得を示す「さもありなん」とは細かい意味が違う言葉である。