辟易とは、辟易の意味
辟易(へきえき)とは感情や様子を表す言葉で、「うんざりする」また「たじろぐ」という二つの意味をもつ。前者は、他者の言動に迷惑を感じ嫌になるさまや、ある状況に非常にうっとうしさを感じる状態を表す。後者は、相手の勢いや剣幕に押されて、しりごみ、後退するさまを表す。「辟易」を構成する「辟」という漢字には、「かたよ(る)」「さ(ける)」「ひら(く)」「きみ」などの読み方がある。漢字の成り立ちには「座った人の尻の肉を刃物で切り裂き切断する」という意味があり、そこから「重い罪」と、それを裁く「君主」、「刑罰」や「死刑」を、「尻」という部位が身体の真ん中より偏っているため「偏る」「避ける」を意味するようになった。一方「易」には、「か(える)」「か(わる)」といった読み方がある。漢字の成り立ちは「雲の間から日の光が差し込む」さまを表すものであり、太陽光が変化することから「変える」「変わる」を意味するようになった。このように「辟」により「退避する」、「易」により「変化する」ことを表すため、辟易の本来の意味は「道を避け、場所を変える」ことになる。「辟易」は、司馬遷による中国最初の正式な歴史書「史記」(項羽本紀)にある表現が語源になっており、争いを避け進路を変更するところから転じて「相手を恐れて逃げること」を意味する。日本においては独自に変化し、相手に対して講じる策がないということから、うんざりする、たじろぐ際に用いられるようになった。
「辟易」は名詞であるため、「~している」「~する」「~させられる」など、サ行変格活用の動詞を付けて用いるのが一般的であるが、自分や他者が「うんざりする」という、あまり良くない意味やかんばしくない状況における感情や様子を表すため、「辟易とする」という使い方が聞かれることが多い。「~と(する)」という表現は、自分の感情や状況の判断を外部に委ねる表現であり、断言を避け、マイナス表現の意図を和らげることを目的として定着したものと考えられる。しかし、これは名詞として使用されているため、正しくは「辟易する」になる。
辟易の使い方、例文
「うんざりする」を表す際の例文としては、「会社では毎日同じ作業の繰り返しで辟易させられる」「仕事で同じミスを繰り返す自分に辟易する」などが挙げられる。いずれも、毎日変わらない作業の状況に嫌気がさしている、何度も同じ過ちを繰り返す状況に憂鬱になっている、といった、うんざりする場合の使い方である。「たじろぐ」を表す際の例文としては、「夫婦げんかで妻の剣幕に後ろへ辟易した」「会議で部下の強気な指摘に辟易して口をつぐんだ」などが挙げられる。日本において、「たじろぐ」意味での辟易が使用されることが少ないため「辟易」だけでは意味が伝わりにくく、そのままではただ「うんざりする」という表現にとらえられ兼ねないので、辟易の後に「たじろぐ」「すくむ」「ひるむ」、また、辟易の前に「後ろへ」といった追加・補足の表現が必要である。いずれも、相手の剣幕に押されて後退する、相手の勢いに圧倒されて言葉すら返せなくなる、といった「たじろぐ」場合の使い方である。
辟易の類語
辟易を言い換える際の類語には「閉口」、「嫌気」、「尻込み」などが挙げられる。「閉口」は文字通り、相手に言い負かされたり圧倒されたりして「口をつぐむこと」「言葉につまること」、「嫌気」は「嫌だと感じる気持ち」「気が進まない」といった、いずれも相手や自分に対し困惑する感情やさまを表す言葉である。「尻込み」は「気おくれしてためらう」「圧倒される」「躊躇(ちゅうちょ)する」と言った意味があり、辟易のもつ「たじろく」に相当する言葉である。日本においては独自に、「うんざりする」という意味で共通するため、辟易=閉口と言えるほど同義として用いられることが多く、言い換えや置き換えに多用される。しかし、「閉口」がうんざりして言葉を返せず手をこまねくだけの様子を表すのに対し、「辟易」には「たじろぐ」「後退する」という別の意味もあるため、状況に応じた使い分けが必要である。辟易の二つ目の意味である「たじろぐ」は「うんざりする」に対してあまり認知されておらず、また使用される機会も少ないため、前述の通り、前後に形容詞や動詞などを用いた補足・追加説明を要する使い方が一般的である。