2013年12月4日水曜日

Rasタンパク質

読み方:ラスタンパクしつ
別名:Ras
英語:Ras protein

低分子GTP結合タンパク質の一種。Rasタンパク質はGTPと結合すると活性化し、GDPと結合すると不活性化するというスイッチのような性質を持っており、このON/OFFの状態の違いと切り替えのタイミングが、生体内での様々なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。

細胞の表面には受容体型チロシンキナーゼと呼ばれるタンパク質が結合しており、このタンパク質が細胞外の刺激を受け取ると、細胞内にあるRasタンパク質にシグナルを伝達する。シグナルを受けたRasタンパク質は、他のタンパク質の作用によってそれまで結合していたGDPと切り離され、新たにGTPと結合する。これにより、Rasタンパク質が活性化し、さらに下流へのシグナル伝達が行われる。シグナル伝達を終えたRasタンパク質は、再度GDPと結合して不活性化する。このシグナル伝達は全体的には、細胞の分化や増殖、代謝、老化など、様々な生体活動に繋がっている。

Rasタンパク質をコードしている、すなわちRasタンパク質のもとになる「ras」という遺伝子に異常が起こると、Rasタンパク質が常に活性化した状態になることがある。この時にはいわば、スイッチが常に入りっぱなしの状態になるため、細胞の成長や増殖が制御不能になり、その結果としてがんが発生することが知られている。

がんが発生する理由は様々だが、全てのがんの約15%から20%程度にRasタンパク質の異常が関与しているといわれている。そのため、抗がん剤の開発に際しては、Rasタンパク質やその関連タンパク質をターゲットとし、異常に活性化したRasタンパク質を阻害することが目指される例が多い。また、新たに生成(翻訳)された直後のRasタンパク質の活性化に関与する、小胞体膜上のRce1タンパク質をターゲットとした抗がん剤の開発に向けた研究も行われている。