2022年3月23日水曜日

《食べる》の尊敬語

「食べる」の尊敬語表現

「食べる」は、「たべる」と読みます。「食べる」の意味は、「噛んで飲み込む」です。 「食べる」は、本来は目上の人からもらって食べるという意味です。それが自身の飲食する行為をへりくだって言うことばとなったため、かつては謙譲語でした。「食べる」はさらに変遷して「食う」を和らげて言う言葉となり、現在では敬意はほとんどなくなっています。「飲む」行為にも使われません。 現在は「食べる」行為に対する尊敬語として、「食う」の尊敬語である「召し上がる」が使われています。

「食べる」の尊敬語の最上級の表現

敬語の最上級の表現は、最高敬語という尊敬語です。天皇や皇族、王や王族に対してのみ使うことができます。しかし「食べる」の尊敬語「召し上がる」は、最高敬語ではありません。最高敬語がない場合には、わざと1つの言葉に同種の敬語を重ねた二重敬語を使って天皇や皇族に敬意を表します。 そのため「召し上がる」は、二重敬語が最上級の表現となります。「召し上がる」の二重敬語は、「お召し上がりになる」です。「お召し上がりになる」は「召し上がる」という尊敬語に、尊敬語独自の動詞がない場合につけて尊敬語にする「お~なる」という尊敬語の表現が重なっています。

「食べる」の尊敬語のビジネスメール・手紙での例文

「食べる」の尊敬語「召し上がる」は敬語なので、そのままビジネスメールや手紙にも使うことができます。「社長は、昼食を召し上がりました」「昼食は、会社で召し上がりますか」「時間がないので、社長は昼食を召し上がりません」などの使い方ができます。 得意先など社外の人に対しても、「昼食は、弊社で召し上がってください」「先日召し上がったお菓子は、弊社で製造しております」などのように使うことが可能です。

「食べる」を上司に伝える際の尊敬語表現

「食べる」を上司に伝える際も、ビジネスメールや手紙と同じように尊敬語の「召し上がる」を使って言うことができます。「昼食は召し上がりましたか」「課長は夕食に、和食を召し上がりました」「健康のため、社長はお酒は召し上がりません」などのように使えます。 「召し上がる」は尊敬の程度の高い尊敬語なので、課長にも社長にも使えます。しかし社長と課長が同席している場合には、多少の配慮が必要です。課長に対して「社長は、昼食を召し上がりました」は問題のない表現ですが、社長に対して「課長は昼食を召し上がりました」と言うのは失礼に当たると考える人もいます。社長の方が、課長よりも目上だからです。自身が課員の場合は、身内には敬語は使わないと考えることもできます。

一方で、課長に敬意を表することが、さらに上の立ち場の社長にも敬意を表することになるという考え方もあります。気になる場合は「お食べになる」を使って「課長は、昼食をお食べになりました」と言うとよいでしょう。「食べる」には「召し上がる」という、尊敬語独自の動詞があります。そのため本来は「召し上がる」を使うべきですが、あえて敬語を使って優劣をつけたい場合には目安として尊敬語独自の動詞、「お~なる」の形の動詞の順に尊敬の程度が低くなるため、「お食べになる」を使うことでどちらの上司に対しても礼を失することなく「食べる」を上司に伝えることができます。

「食べる」の尊敬語での誤用表現・注意事項

「召し上がる」を「食べる」の尊敬語として使う場合には、「飲む」という行為も含みます。そのため「お茶を召し上がる」「お酒を召し上がる」など、液体を摂取する場合にも使うことができます。 相手に食べてもらいたいときに、「いただいてください」というのは誤用です。「いただく」は「食べる」の謙譲語であり、自分の動作にしか使えません。相手に「食べてください」と言う場合は、尊敬語の「召し上がる」を使って「召し上がってください」と言うのが正しい表現です。

食品のパッケージなどに書かれている「お召し上がりください」も、「召し上がる」の誤用です。「召し上がる」自体が尊敬語のため、動詞の連用形について尊敬の意を表す「お」をつけることで二重敬語になります。この場合も、正しくは「召し上がってください」です。

「食べる」の尊敬語での言い換え表現

「食べる」の言い換えには、「食事をする」があります。「食事をする」の尊敬語は「食事をされる」です。名詞の「食事」に格助詞の「を」がつき、動詞「する」の未然形「さ」に助動詞の「れる」がついた「される」の形で尊敬を表します。「する」は、「れる」「られる」にならない特殊な形です。 「食事を摂る」も「食べる」の言い換えです。敬語表現は、「食事を摂られる」です。「摂る」には尊敬語独自の動詞がなく、語幹が1音節の動詞なので「お~なる」にもなりません。動詞「摂る」の未然形「摂ら」に助動詞の「れる」がついて軽い尊敬を表しています。

「食べる」を「空腹を満たす」に言い換えると、尊敬語は「空腹をお満たしになる」です。「口に入れる」と言い換えると、「口にお入れになる」が尊敬語になります。どちらも「お~なる」の形の尊敬語です。 「食べる」を「腹ごしらえをする」と言い換えると、尊敬語は「腹ごしらえをされる」になります。これは「腹ごしらえ」という名詞に格助詞の「を」がつき、「する」の未然形「さ」に助動詞の「れる」がついて「される」の形で尊敬の意を表しています。