2022年1月24日月曜日

印鑑とハンコの違い

荷物を受け取るときに、宅配業者に何と言われたか覚えていますか?「ハンコをください」でしょうか?「印鑑をください」でしょうか?どちらも同じものを求められているのはわかっているでしょうが、「ハンコ」と「印鑑」の本来の意味を知らずに使っている人もいるかもしれません。ここでは「ハンコ」と「印鑑」の意味の違いについてご説明します。

「ハンコ」「印鑑」の違い・概要

まったく同じ意味で使われている「ハンコ」「印鑑」という二つの言葉は、本来全く違うものをさす言葉です。現代では同義語として定着して広く使われているため、日常生活ではどちらの言葉を使っても意味が通じますが、正確には「ハンコ」は文字を押すための道具であり、「印鑑」はハンコの文字を記載した登録簿や、登録簿に記載されたハンコの文字を意味する言葉です。

「ハンコ」「印鑑」の意味・読み方は?

より詳しく「ハンコ」と「印鑑」の意味の違いを見てみましょう。「ハンコ」とは、木や竹、石、樹脂などに彫られた文字を、朱肉(しゅにく)やインクをつけて紙などに写す道具です。ハンコの正式な名称は「印章(いんしょう)」と言います。また、ハンコで押した文字のことを「印影(いんえい)」と言います。公私文書において印章を使って印を残すことで、印章の所有者が何らかの形で文書の内容に関わった証を残すという役割があります。印章には、後述する「印鑑」のように法的効力のあるものと、単に確認が必要なものへ署名する代わりに使うものがあります。印章のことが「ハンコ」と呼ばれるようになったのは、版木に彫った文章などを印刷することを「版行(はんこう)」と呼んだことが元になったと言われています。印章も版行と同じように木などに彫った文字を紙などに写すことから、版行が変化して「ハンコ」となりました。漢字の「判子」を当てて表記されることもあります。

一方、「印鑑」は「いんかん」と読みます。「印鑑」の本来の意味は、ハンコによって押された印影とそのハンコの持ち主を記録した「登録簿」のことでした。現代でも役所で印影とその印章の持ち主を登録する「印鑑登録制度」というものがあります。印鑑登録された印影やハンコのことを特に「実印(じついん)」といいます。実印には法的効力があることから、重要な契約などで使われます。本来は印影とそのハンコの所有者の登録簿を意味した印鑑は、「登録簿に記載されている印影」のことも意味するようになり、現在では印鑑登録の有無に関係なく、ハンコで押した印影全般を意味する言葉として一般的に使われるようになりました。

「ハンコ」「印鑑」の使い方、使い分けは?

意味の異なる「ハンコ」と「印鑑」は、現在ではどちらも「印影を押す道具」、または「印章で押した文字」として意味が通じるようになりました。ですが、日常で困ることは少ないでしょうが、法律や契約の場面ではより厳密な使い分けが要求されることもあるかもしれません。ここでは、「ハンコ」と「印鑑」の厳密な使い方を例をあげて考えていきましょう。

宅配便が届いた時のことを考えてみましょう。配達員があなたに次のように言ったとします。

A 「ハンコをください」
B 「印鑑をください」

「ハンコ」は文字を押す道具(印章)をいいますので、Aの「ハンコをください」では、「あなたの印章を私に譲ってください」という意味になってしまい、この場面では意味が通りません。
では、Bの場合はどうでしょうか?
「印鑑」は本来「印影とそのハンコの所有者の登録簿」ですから、「印影の登録簿をください」と言っていることになります。この登録簿は役所が保存しているものですので、これも意味が通りません。
「印鑑」のもう一つの意味である「登録簿に記載されている印影」だとしたらどうでしょう?
登録簿に記載されている印影は契約など重要なときに使うものであり、宅配便の受け取りに使うことはまずありません。送られてきた荷物がそれにふさわしい高額で価値あるものならばあり得るかもしれませんが、日常生活では考えられない要求をされていることになります。

このように、「ハンコ」や「印鑑」という言葉は、より正確に使おうとすると注意が必要になります。
では、宅配便の配達員は何と言えばよかったのでしょう?

「認印をください」

このように言うのが適切だったと考えられます。
「認印(みとめいん)」とは、押した本人が確かに確認したという証に押す印影です。登録簿に記載されている印影ではありませんが、荷物の受け取りなど、日常生活上必要な確認済みの証として広く使われている印影です。

「ハンコ」「印鑑」の用例・例文

・「ハンコ」の用例・例文
「ハンコを紛失したので新しいものを購入した」(ハンコ=「印を押す道具」ですので、紛失の対象となりえます。)
「ハンコを押すのを忘れたため、書類の不備を指摘された」(ハンコを使う場合、「押す」といいます。)

・「印鑑」の用例・例文
「印影を印鑑登録する」(印鑑登録=「印影の登録簿」に登録すること。役所で行います。)
「契約書に印鑑を押印する」(「登録簿に記載された印影」を押すという意味です。)