2022年1月24日月曜日

覚書と契約書の違い

ビジネス取引で交わされる文書に、「覚書」と「契約書」がありますが、その違いをご存知でしょうか?「契約書」は正式なもので「覚書」は簡単なメモのようなものだと思っている方も多いのではないでしょうか。ビジネスなどで使われる「覚書」と一般的に使われる「覚書」の意味合いが違うので、そのような誤解をしてしまっている方もいるかもしれません。「覚書」と「契約書」の違いについて以下で説明していきます。

「覚書」「契約書」の違い・概要

「覚書」とは、備忘録のように、ある事柄に関する事項を双方の取り決めで記録しておくものとされています。既に交わした契約の内容を確認したり、修正する際に使用されます。ただし、法的要件(当事者の署名・捺印、締結日、合意した内容の記載)を満たしていれば、法的効力を持つ公的文書となります。正式な文書として認められた場合は、「契約書」と同じ法的拘束力を持ちます。「契約書」とは、当事者間で契約の際に意思表示が合致したことを書面にして、契約内容を明確に表示し、作成された正式な文書です。作成後は当事者の双方が後日の証拠とするために保管します。

「覚書」も「契約書」も、契約に関する書面を作成する際に付けられる文書のタイトルとして使い分けられます。その違いは、「契約書」は正式な文書であり、「覚書」は取り決めを忘れないように書き留めたもので、法的用件を満たせば「契約書」と同等の文書となるということです。また、「覚書」は「契約書」に生じた変更点や補足事項を追加するために作成され、「契約書」の補佐的な文書であるとも言えます。

「覚書」「契約書」の意味・読み方は?

「覚書(おぼえがき)」の一般的な意味は、ある事柄に関する出来事や結果を忘れないように記録した文書のことで、備忘録・日記・古文書・メモなども覚書の一種です。「覚書(おぼえがき)」の契約法務での意味は、簡潔な内容の契約書のことであり、契約書の形態のひとつです。「契約書(けいやくしょ)」は、契約内容を明確にし、契約時点における当事者間の法律上の効果についての取り決め事項を文書として表したものです。契約当事者が記名・押印することによって、取り決めた内容に合意したことを表し、契約を成立させ、後日の証拠とするために作成される文書のことを言います。

「覚書」「契約書」の使い方、使い分けは?

「覚書」にはふたつの役割があります。契約書の内容を補完する役割として、契約書を作成する前の段階で、今後契約をする意思があることを確認し、書面として作成される覚書。契約書の記載が曖昧なため、その事実関係を明確化するために作成される覚書。契約書の細かな項目を一覧のようにして分かりやすく示す覚書。等があり、既にある契約書に変更や補足事項ができた場合に作成する覚書では、例えば、長期間の継続的契約の場合に、「覚書(年月日)」、「覚書(ナンバー)」など、整理分類に必要な情報をタイトルに付けた覚書を作成し、関連する契約書と同じ場所に順序良く保管することで、後で見返した時に契約条件の変更履歴が分かりやすくなり、契約書を一から作り直す手間を省くことができます。

実質的な契約書としての役割をはたす場合は、「契約書」という響きが署名を求められる側を身構えさせてしまうと考え、書面を交わしやすくする方法として、印象のやわらかい「覚書」というタイトルを使用した契約書が作られる場合や、すでに「契約書」が存在している中で、改めて「契約書」のタイトルで契約ごとを取り決め直すことに抵抗があるといった時に、「契約書」ではなく「覚書」で取り決める場合があります。

「覚書」「契約書」の違い・概要で述べたように、「覚書」が法的用件を満たしている場合、「覚書」「契約書」どちらも契約法務においては同じ法的効力を持つ文書と言えます。「覚書」と「契約書」には法的な定義はなく、その違いは作成する側が付ける文書のタイトルの違いです。「契約書」のタイトルには法的な制約がないので、その内容や使い道により、使い分けることができます。また「覚書」が法的用件を満たしていない場合は、双方の取り決めを書き留めた備忘録であり、記録やメモという意味合いの文書となります。このように、法的用件を満たしていれば、「覚書」と「契約書」は同等の法的効力を持った文書であり、同じ「覚書」であっても、法的用件を満たしているかいないかによって、全く意味や役割の異なった文書ということになります。

「覚書」「契約書」の用例・例文

「覚書」と「契約書」の用例には次のようなものがあります。
「覚書」の用例
「ということは君の覚書で君にはわかっていることだね。」(エドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poe 佐々木直次郎訳 「マリー・ロジェエの怪事件」)
「原田甲斐は机に向かって覚書(おぼえがき)を書いていた。」(山本周五郎 「樅ノ木は残った」)

「契約書」の用例
「あれは僕が一平の羽織の中から抜きとった契約書を読むとハッキリします。」(海野十三 「ネオン横丁殺人事件」)
「信託の方では家の賃貸契約書が全部日本文で作製されているから誰か相当な日本人を一人形式上保証人として連れて来てくれないか。」(橘外男 「ナリン殿下への回想」)