2022年1月25日火曜日

師と士の違い

医師や教師などの「師」と弁護士や栄養士などの「士」は、どちらも資格や職業名に使いますが、この2つの字は異なった意味を持っています。ここでは師と士という漢字が本来どういった意味で使われてきたのか、現代ではどんな意味なのかを説明します。更にそれぞれの漢字の使い方や、どのように使い分けられているのか、例文も紹介していきます。

「師」「士」の違い・概要

「師」は学問や武芸、芸術などを教える先生、師匠に対する敬称です。教えて導く者という意味があり、尊師、導師、宣教師など宗教上の導き手にも「師」が使われます。一つのことを職業にしているプロ、玄人を指し、猟師や漁師にも「師」を使います。

「士」は才能をもって官に仕える者という意味合いで、国家資格や民間資格が必要な、国に仕えるような職業名に多く使われます。弁護士や税理士などの、専門知識で物事を処理する職業は「士業」と呼ばれています。

「師」「士」の意味・読み方は?

「師」はシ、いくさ、と読みます。この漢字のもともとの意味は「いくさ」で、これは集団をなした軍隊を指します。中国の周の時代に二千五百人の部隊を一師といったことが由来となっており、現代でも一個師団などの師には軍隊という意味があります。「師」はそこから、大勢の人々、大集団という意味になり、転じて「大勢を教え導く者」「先生」という意味が付与されました。学問を教える教師、宗教上の指導者である牧師や導師に師が使われるのはこうした理由からです。

「士」はシ、ジ、おとこ、さむらい、と読みます。成人して自立した男性という意味の漢字です。昔の自立するとは士官をすることで、国に仕える、つまり役人になることを指します。「士」のもともとの意味は、学問や武芸を身につけて国の役に立つ立派な男性のことです。武士や騎士、弁士などに士を使うのはこのためです。なお弁士とは現代では弁舌の巧みな人という意味で使いますが、古代中国では学問を修めて王様にアドバイスをする知識人のことでした。現代でも「士」は「事を処理する才能を持って官に仕える者」という意味で、弁護士や税理士など、資格が必要な専門知識を修めて国に仕えるような職業に使われます。

「師」「士」の使い方、使い分けは?

「師」には教え導く者という意味がありますから、人に教えられる程その物事に精通している玄人、ある一つのことを職業にしているプロを指すときに使われます。導いてくれる先生に対しての敬意をこめた呼び方という側面があります。

教師、講師、医師、調理師、美容師、はり師などの免許が必要な職業の他に、牧師、大師、仏師、導師、法師、伝道師、宣教師などの宗教上の導き手、猟師、漁師、絵師、能楽師、手品師、占い師、講釈師など、必ずしも資格が必要ではないけれどその道の専門家である人を指しても使われます。その他には詐欺師やペテン師など、正規の職業ではない玄人の呼び名としても使用されます。

「士」は官に仕える者という意味ですから、国家資格、民間資格が求められる専門知識を持って国に仕えるような職業名や、その資格名に多く使われます。特定の技能を習得した者、プロフェッショナル、知識や技能をもって事を処理する専門家を指す称号、敬称でもあります。

弁護士、司法書士、税理士、行政書士、建築士、栄養士、海技士、歯科技工士などはみな、国家試験などによって取得できる資格名で、そのまま職業名です。範士、教士、錬士はいずれも剣道の称号です。

紳士、勇士、名士、力士、烈士、騎士、武士、闘士などの「士」は武芸や学問を修めた自立した男性という本来の意味にもとづいています。これらは立派に身を立てている者への敬称です。

また、「士業」という言葉があります。「士」の付く職業のなかでも資格取得の難しい職業を表し、弁護士、弁理士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、海事代理士は8士業と呼ばれています。「師」の付く職業も「師業」と呼ばれますが、「士業」に対して生まれた言葉であり、一般的に「しぎょう」と言えば「士業」のことを指します。

「師」「士」の用例・例文

「師」、「士」を使った例文には以下のようなものがあります。
・看護師は体力的にきつく、くじけそうになることもあるが、患者さんの笑顔や医師の励ましで頑張ろうと思える職業だ。
・教師は先生と呼ばれて敬われているが、保護者や生徒への対応など気を遣うことも多い。
・牧師は教会では先生と呼ばれていて、祈祷会を行ったり信者の家を訪問して信者の悩みを聞いたりするのが仕事だ。
・助産師や看護師になる人は、かつては女性が多かった。
・8士業である弁護士や税理士は収入が良いと聞いた。
・うちの家系はみな士業に就いている。父親は弁護士だし母親は公認会計士をしている。自分も将来は税理士を目指している。
・戦前は女性の活躍の場が少なく、士のつく職業は男性が多かった。現代では女性で士業に就く人も多い。
・錬士になるには剣道の修練はもちろん、剣道を自ら指導するための心得を学び、小論文にして提出しなければならない。