2022年1月25日火曜日

怖いと恐いの違い

「こわい」と言われた時、「怖い」「恐い」のどちらの漢字を思い浮かべるでしょうか。「真夏の恐怖体験」なんてフレーズもありますが、「怖」「恐」これら2つの漢字について、意味の違いを明確に説明できる人はそう多くはいないでしょう。ここでは「怖い」と「恐い」の違いとそれぞれの意味、使い分けについて説明していきます。

「怖い」「恐い」の違い・概要

「怖い」「恐い」の違いといえば、使用している漢字です。「怖」は常用漢字ですが、「恐」は常用外という明確な違いがあります。そもそも常用漢字というのは、「一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」となる漢字のことです。そのため、「怖い」の方が比較的多くの場面で使用されている言葉といえるでしょう。なお、「怖」の部首であるりっしんべんも、「恐」の部首であるこころも、心の働きなどに関する漢字に使われます。見た目は違えど、どちらも心について表す漢字ということになります。

「怖い」「恐い」の意味・読み方は?

「怖い」「恐い」の読み方はどちらも「こわい」ですが、明確な意味の違いも実はありません。どちらにも、「危害を加えられそうで不安なため近づきたくない」、「悪い結果が出そうで不安なため避けたい」、「不思議な能力がありそうで気味が悪い…」などの意味があります。強いて言えば「恐い」は、「怖い」の意味に「ひかえめにする」という意味が加わることくらいです。たとえば、「恐」の字を使った「恐れ入ります」や「恐縮でございます」というフレーズには、「私のようなものが」というひかえめな気持ちが表現されています。「恐」は常用漢字ではありませんが歴史は古く、日本最古の歴史書である古事記にも「恐(かしこ)し。」(=恐れ多い)との記述がありました。

読み方も意味も同じではありますが、公用文や新聞では「怖い」が使用されています。一般的なニュースサイトや書籍でも「怖い」の使用頻度が高く、常用漢字である「怖」が広く受け入れられていると判断できるでしょう。スマートフォンやパソコンで変換すればどちらの言葉も出てくる便利な時代ですが、すでに完成された文章から「恐い」を見る機会は少ない傾向にあります。

「怖い」「恐い」の使い方、使い分けは?

「怖い」「恐い」の意味については決定的な違いはありません。明確に違うのは、常用漢字を使用しているかどうかという点のみです。常用漢字に選ばれている「怖」は、法令、公用文書、新聞などで一般的に使用されることになります。そのため、どちらの漢字を使えばいいか迷ったら「怖い」を選択するのも一つの手でしょう。もちろん「恐い」も間違いではありませんが、とくに小学校や中学校で学習する漢字は常用漢字なので、テストで出題された際は迷わず「怖い」を書くべきところです。

なお、印象の違いによって使い分けることも可能です。たとえば、幽霊を見た時に感じるゾッとした恐怖には、どちらの漢字を用いればニュアンスが伝わりやすいでしょうか。「恐い」も間違いではありません。しかし、「私のようなものが」というひかえめな気持ちが含まれている「恐」よりも、「怖」を使用した方が読み手もしっくりくる可能性があります。ほんの少しの違いを意識することで言葉の選択肢が広がっていきます。

また、「強い」をなんと発音するでしょうか。一般的に「つよい」と読む人が大半ですが、こちらも「こわい」と読むことができます。「強い(こわい)」は頑固、強情など人の性格を表すものから、カチカチに固まっているなど物体の硬さを表すものまで、意味が幅広いです。しかし、「怖い」「恐い」「強い」の語源は共通して、古語の「こはし(こわし)」という意外性があります。「こはし(こわし)」には本来「かたい」という意味があり、かたい→強い→近寄りがたい→恐怖、という具合に転じたものと考えられています。「怖い」「恐い」と「強い」には意味に違いがあるように思えますが、一つの意味から派生してできた言葉だったのです。

「怖い」「恐い」の用例・例文

読み方も意味も同じの「怖い」「恐い」ですが、伝えたい文章のニュアンスによって使い分けることが可能です。たとえば、職場でリーダーに大抜擢された場合、「私のようなものが」と感じる瞬間に出くわしたとします。そんな時「挑戦するのがこわい」と感じることもあるでしょう。このケースの「こわい」には、ひかえめな気持ちが含まれている「恐」を使い、「大役を任されたが、私には荷が重すぎて挑戦するのが恐い」と表現しても良いのではないでしょうか。

なお、常用漢字を使った「怖い」に関してですが、ほとんどすべてのものに対する「こわい」を網羅できます。「あの先生は怖い」「緊急地震速報の通知音が怖い」「怖い夢を見た」「パソコンの調子が悪い。いつ故障するのか考えると怖い」など、こわい対象が人でも物でも出来事でも同様です。もちろん、「私には荷が重すぎて挑戦するのが怖い」としても良いわけです。繰り返しになりますが「怖い」と「恐い」は基本的に同じ意味をもっていて、常用漢字かそうでないかの違いのみなのです。