2022年1月25日火曜日

体身と体の違い

「身体」と「体」は、基本的にはどちらも同じ意味で使われますが、それが「心」を宿すものとしての肉体を指すのか、それとも物体・物質としての肉体を指すのか、という意味合いによって使い分けられます。「体」は純粋に物体としての肉体に使うことができ、人だけでなく生物全般に使うことが出来ます。それに対し「身体」は心を含めた肉体に使われ、主に人間にのみ使われます。

「身体」「体」の意味・読み方は?

「身体」は人間や動物の肉体、「魂」を宿すものとしての肉体と定義されます。
「体」は動物の頭から足までの全体、単に物体としての肉体と定義されます。
肉体を表しているという点ではどちらも同じ意味ですが、「体」は生物全般や機械など、純粋な物体としての「からだ」を表すのに対し、「身体」は人や動物の心の働きも含めた「からだ」、つまり心身としての「からだ」を表します。

「身体」も「体」のどちらの単語も「からだ」と読むことができますが、常用漢字に照らし合わせると、「体」は「からだ」、「身体」は「シンタイ」と読むことに注意が必要です。ですから新聞の表記や公用文書でなどの常用漢字を使うことになっている場面では、「からだ」を表記したい場合は「体」と書くようにしましょう。

例えば、

「厚生労働大臣は、身体に障害のある者の状況について、自ら調査を実施し、または都道府県知事その他関係行政機関から調査報告を求め、その研究調査の結果に基づいて身体に障害のある者に対し十分な福祉サービスの提供が行われる体制が整備されるように努めなければならない。(身体障害者福祉法第二章第一節第十四条)」

この場合は単に肉体としての「からだ」だけでなく心も含めた「からだ」についての法令なので、常用漢字の「体」ではなく「シンタイ」と読む方の「身体」を使っています。使いたい意味によって常用漢字を選ばないといけない場合もあるということに注意してください。

「身体」「体」の使い方・使い分けは?

上述した通り、「身体」と「体」には物体としての「からだ」、心身としての「からだ」という意味の違いがあります。これら使い分けの基準としては、「からだ」という言葉を用いる対象に心の働きを捉えられるかどうか、を基準とするとよいでしょう。どちらの単語を使っても間違いではありませんが、対象とする「からだ」を心の働きを伴ったものとして表現したいのならば「身体」、単に物体としての「からだ」を表現したいのならば「体」を使いましょう。

例えば、手紙などの最後に書く「おからだにお気をつけください」という文章ではどちらの単語を使うのがよいでしょうか。もちろんどちらの単語を使っても間違いではありませんが、手紙を送る相手のことを慮って使う場合は「身体」の方がよいでしょう。「お体にお気をつけください」という文章よりも「お身体にお気をつけください」という文章の方が、単に相手の肉体の健康だけでなく、精神的な健康についても思いやった文章になります。では「体」という単語を使う場合はどのような場合でしょうか。「私は運動不足なのでからだがかたいです」という文章を考えてみると、この場合は単に物体としての「からだ」の筋肉がかたいことを表しているので「私は運動不足なので体がかたいです」というように「身体」よりも「体」を使うのがよいでしょう。

ここで一つ気をつけなければならないのが、この「からだ」の使い分けは書き手が対象の「からだ」をどう捉えたかによって変わってくるということです。一つ例文をあげましょう。
・狸はもうなみだで身体もふやけそうに泣いたふりをしました。(宮沢賢治『蜘蛛となめくじと狸』)
このように、書き手が狸の「からだ」を泣くという心の働きを伴ったものだと捉えた場合は、対象が動物であっても「身体」を使うことがあります。このように、文章を読む時は書き手が持たせたいニュアンスによって「からだ」の使い分けがされているということにも注意するようにしましょう。

「身体」「体」の用例・例文

・体が震えるほど喜びがこみ上げる。
・震災以来は身体の弱い為もあったでしょうが蒐集癖は大分薄らいだようです。(芥川竜之介『夏目先生と滝田さん』)
・彼女は孤独で震えるように成ったばかりでなく、もう長いこと自分の身体に異状のあることをも感じていた。(島崎藤村『ある女の生涯』)
・父の体から、ムジナのような、悪臭がわき上がってくるような気がした(山本有三『路傍の石』)
・酔いがまわって汗腺のすべてが、じくじくと体のぬくもりをもて余した(高樹のぶ子『その細き道』)