2022年3月22日火曜日

《念のため》の敬語

「念のため」の敬語表現

「念のため」という言葉自体には、敬語表現は存在しません。「念のため」は「念のため~~する」というように、後ろに続く動作に関係する言葉です。そのため「念のため」を敬語表現の中で使う場合は、その後に続く言葉を敬語で表すことになります。

(例)
・こちらの商品仕様について、念のためご確認をお願いいたします。
・明日の予定を念のため再度お伝えします。
・天気は曇りですが、念のため傘を持参してください。
・風が強くて砂埃が舞いますので、念のためこちらのゴーグルを装着なさってください。
・念のため本人確認書類を提出していただけますか。
・工場を見学なさる際は、念のため帽子とマスクとエプロンのご着用をお願いします。

「念のため」の敬語の最上級の表現

前述のとおり、「念のため」には敬語表現がないため、その後に続く言葉を最上級の敬語で表現します。

(例)
・本日は冷えますので、念のためコートをお召しになってください。(着る→お召しになる)
・お引っ越しの際は、念のため現地をお訪ねになることをお勧めいたします。(訪れる→お訪ねになる)
・こちらの仕事内容について、念のためお尋ねしたいことがあります。(訊く、尋ねる→お尋ねする)

「念のため」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

・先ほど電話でお伝えした件ですが、念のためメールでもご連絡いたします。
・市役所までお越しになる場合は、念のため印鑑を持参なさってください。
・念のためにお尋ねしますが、ご来場の際は公共交通機関をご利用になりますか。
・製品の品質には万全のチェックを施していますが、念のため〇〇様の方でもご確認をいただければ幸いです。
・展示会当日は道路の混雑が予想されるので、念のためお早めのご来館をお勧めいたします。
・念のためご確認したいのですが、ご同伴の方はいらっしゃいますか。

「念のため」を上司に伝える際の敬語表現

「念のため」を上司との関係で使う場合、それは報告書や成果物などをチェックしてもらう場面が多いでしょう。そして、そこには「本来は自分ひとりで完結させるべき仕事を、自分だけでは不安が残るのでチェックしてほしい」という文脈があります。上司の指導が必要な仕事内容であれば、いずれにせよ確認してもらわなければいけないので、わざわざ「念のため」を付ける必要もありません。そのため上司に「念のため」を使う場合は、上司に時間を取らせてしまっているという意識を持って、そこに対する配慮も伝えるようにしましょう。

(例)
・お忙しいところ恐縮ですが、こちらの報告書について、念のため確認していただけますか。
・記事内容に誤りがないか、念のためご一読をいただけると大変ありがたく存じます。

「念のため」の敬語での誤用表現・注意事項

「念のため」は、主にビジネスにおいて「誤用表現」と受け取られる場合があります。

「念のため」は、文脈によって2つの意味で使われます。ひとつは「万が一に備えて」「万一のために」などの「念を押す」という意味。こちらが「念のため」の本来の意味です。もうひとつは「一応」や「多分」といった、曖昧さを表現する意味です。後者の意味で使う場合は、「念のため」を「一応」に置き換えても同じ意味となります。例えば「念のためお伝えします」を「一応お伝えします」と言い換えても、言葉の意味においては問題ありません。

しかしここで注意しなければいけないことがあります。一般的に、ビジネスシーンで「一応~~します」といった表現を使うことは不適切とされています。「多分」も同様です。ビジネスでは明瞭かつ簡潔なやり取りをすることが求められるので、こうした曖昧な表現は好ましくないからです。ただし、そうは言っても「まだ確定していないけれど伝えておきたい」というニュアンスで報告する場面もあるでしょう。その場合は「一応」ではなく「念のため」で表現しましょう。

また「念のため」には「為念(ねんのため、ためねん)」という言い換え表現があります。意味は全く同じなのですが、「一応」と同じく使わない方がいいでしょう。あまり一般的ではない言葉であり、この表現を知らない人からすれば、奇妙な略語を使われていると感じて失礼な印象となる可能性があるからです。

「万が一のため」と「一応」の、どちらの意味で使うにせよ、それらが指し示すことは、「この後に続く言葉(行動)に注目してください」ということです。その文章で伝えたいこと(文意)は、あくまで「念のため」の後ろに続く言葉なので、その言葉についての敬語表現を押さえるようにしましょう。

「念のため」の敬語での言い換え表現

「念のため」という言葉には敬語表現が無いため、言い換え表現も、その後に続く言葉で行います。また、「念のため」を「万が一のため」に言い換えることもできます。

(例)
・念のため休んでください。(「休む」の敬語表現を言い換える)

・念のためお休みになってください。
・念のためお休みなさってください。
・万が一のことがあってはいけませんので、お休みになってください。

・念のため確認します。(「確認する」の敬語表現を言い換える」)

・念のためご確認いたします。
・万が一の場合に備えて、こちらでも確認いたします。

・念のため待機してください。(「待機する」の敬語表現を言い換える)

・念のため待機していただきたく存じます。
・万が一の際にはお力が必要となりますので、こちらで待機なさってください。