2022年3月22日火曜日

《わからない》の敬語

「わからない」の敬語表現

「わからない」を敬語にするときには、丁寧語の否定形「ません」をつけて、「わかりません」とします。敬語としてはこれで成り立ちますが、表現としては少し弱く、場面によっては丁寧さが足りません。 特にビジネスシーンで、仕事の会話や電話などのよりかしこまったレベルで使おうとすると、より堅い表現が好まれるため、ただ「わかりません」では不適切です。

もっと丁寧な表現があるので、TPOに合わせて使い分ける方がスマートです。「わかりません」はやや稚拙で、ビジネスメールで使用すると、不親切な印象を与えかねません。日本のビジネスシーンでは、特にかしこまった敬語が好まれる文化が強いので、もっと丁寧な敬語に言い換える方が良いです。

例えば、「存じておりません」や「不勉強で申し訳ありませんがわかりかねます」などです。同じ「わからない」という状態を示す言葉でも、受ける印象はかなり違ってきます。どれを使うべきか瞬時に判断するには経験も必要ですが、たくさん知っておいた方がよりスマートに相手との会話を成立させることができます。

「わからない」の敬語の最上級の表現

「わからない」の敬語にはたくさんの種類がありますが、その中でも最上級の表現として、「存じ上げない」が挙げられます。かなり目上の人や、ビジネスでも特に重要人物には「存じ上げません」と使う方が好まれます。「大変申し訳ないのですが」などを頭につけて使えばより丁寧です。 ただ、相当丁寧な表現になるので、身近な上司や、近しい取引相手に使うのは逆におかしな表現にもなりかねません。「存じ上げません」と言っておけば間違いないだろうと軽く使う人もいますが、場面をよく考えて使うと良いです。

「わからない」の敬語のビジネスメール・手紙での例文

ビジネスメール・手紙では、口語表現よりも堅苦しい表現を使うのが通例です。「拝聴する」や「拝聞する」は口語表現としては社外の人やかなり高い立場の人にしか使いませんが、ビジネスメール・手紙では頻繁に使われています。また、「伺う」という表現もビジネスメール・手紙で使用されます。

拝聴するを使ったメール例文:お世話になっております。先日はご講演いただきありがとうございました。ご高話を拝聴し、社員一同士気が高まりました。
拝聞するを使ったメール例文:先程は貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。忠告を拝聞したものの、結果を出すことができず申し訳ございませんでした。
伺うを使ったメール例文:〇〇様からお伺いした件ですが、調査が完了次第お返事いたします。今後ともよろしくお願いいたします。
「目を通してください」の敬語表現をビジネスメールや手紙で使用する場合、「先日のイベントの報告書をご確認ください」「添付した資料をご一読ください」といった形になります。また、「見積もり書の内容をご確認いただければ幸いです」「招待状を郵送いたしましたので、ご高覧いただけますでしょうか」という風に、「ください」では締めくくらなかったり、疑問形にする場合も多いです。
「目を通す」はビジネスシーンにおいて、資料や文書を見る際などによく使用される言葉です。しかしこのままでは敬語表現ではありませんので、メールや手紙などの文書では敬意を込めた表現に言い換えて用います。「来週の会議の資料をお送りしましたので、お時間がおありの際にでもご覧ください」「見積書は担当者が持参いたしますので、そちらをご覧いただければと存じます」などと使用します。また、他人が見ることを敬って言う「高覧」などを用いて「詳細は弊社のパンフレットにございますので、ご高覧いただければ幸いです」などとすることもできます。

「目を通す」を自分の行為として伝える場合は「お送りいただきました会議資料を拝見しました」「ご教示いただきました参考書籍、拝読いたしました」などと謙譲語を用いて使用します。このほか、文書のあて先が同僚や部下であれば、丁寧語「ください」を使った敬語表現を用いて「先日のミーティングで気づいた点をまとめましたので、一度目を通しておいてください」「企画案には、なるべく部署全員が目を通すようにしてください」などと使用することもできます。
""「問題ありません」という敬語はビジネスシーンでも普通に使われてきました。メールや手紙を書くときに、「問題ありません」を用いてもかまいません。以下、「問題ありません」を使った例文を挙げていきます。

「お世話になっております。ご提案いただいた資料ですが、確認しましたところ問題ありません」
「ご報告いたします。プロジェクトは今のところ、問題ありません。若干の誤差はあるものの、想定の範囲内です」

なお、「問題ありません」を使うときは断定的なニュアンスになることも少なくありません。相手によっては強すぎる表現に感じられてしまうので、「大きな問題はありません」「特に問題ありません」といった書き方にする方法もあります。以下、例文を挙げておきます。

「お問い合わせの件、会場側に大きな問題はありません。主催には私から申し伝えておきます」
「お客様はシステムの操作性を気にされていましたが、特に問題ありませんでした」
「研修自体の人手はそれほど問題ありません。ただ、準備に時間がかかるので、明日の午前に予定が空いている方は至急ご返信ください」""
ビジネスメールや手紙の文中で「来る」を敬語で表現する際、「お越しになる」が最適です。「来られる」はフランクな表現でビジネスシーンには向かない点、「いらっしゃる・お見えになる」に関しては既にその場に訪れていることを示す傾向が強い点が、それぞれが文中に用いられにくい理由として挙げられます。文例としては「先日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございました」といったように、「もらう」の謙譲語「いただく」を組み合わせて用いられることが多いです。また「大阪にお越しの際は、ぜひお声掛けください」といったように、連用形の名詞化表現「お越し」を使うこともあります。
""「ご注文をたしかに承りました。本日中に発送いたします。」
「打ち合わせの日程変更の件、承知しました」
「承知いたしました。今週末までに見積書をお送りします」
「納期前倒しのご要望について、たしかに承諾いたしました。ご指定の日時で納品できますよう尽力いたします」
「ご依頼の件、受諾いたしました。すぐに手配をいたしますのでお待ちくださいませ」
「かしこまりました。明後日の午前9時に御社に伺います」
「業務の進捗につきまして、拝承しました。ひき続きよろしくお願いいたします」""
「了解しました」の敬語として「かしこまりました」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「かしこまりました。それでは、その作業はこちらで済ませておきます」となります。

「承知しました」「承知いたしました」を用いるのであれば、例文は「先ほどご連絡いただきました件、承知しました」「承知いたしました。それでは、こちらの仕事が終わり次第、そちらの仕事に移ります」などです。「かしこまりました」や「承知しました」を、依頼を引き受けるという意味合いで使用する場合、文頭に置くことが多いです。そして、「承りました」を使用した場合の例文は「お客様は翌日いらっしゃるとのこと、承りました」「今回のイベント欠席の旨、承りました」のような形になります。
「了解です」は敬語表現ですので、ビジネスメールや手紙の中でも基本的にはこのままの形で使用することができますが、差し出す相手によっては失礼にあたる場合もありますので使い分けが必要になります。同僚や部下あてに送る際は「了解です」をそのまま用いることができますので、「先ほど連絡いただきました日程変更の件、了解です」「スポンサーへのプレゼン同行の件、もちろん了解です」などと使います。了解するの連用形「了解し」に丁寧の助動詞「ます」の連用形「まし」と完了の助動詞「た」で「了解しました」としても敬語表現となります。「プロジェクトチームの人選の件、了解しました」などと使うことができます。

一方で、たとえ敬語表現だとしても「了解です」は目上の人や会社の取引先には使いません。それは了解という言葉自体に目上に使っては失礼にあたる意義が含まれているからです。目上の人に使う場合は「承知しました」「承りました」等の表現に言い換えたうえで「品質管理の周知徹底の件、承知いたしました」「改善報告書提出の件、承りました」などというように使います。
""ビジネスメール・手紙においては、「了解」の敬語表現として「承知しました」や「承知いたしました」を使うのが一般的です。

取引先へのメール例文:お世話になっております。発注内容のご変更の件、承知いたしました。準備でき次第、配送いたします。今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

また、クライアントや立場の高い上司へのメールや手紙は、「かしこまりました」を使うこともあります。

取引先へのメール例文:いつもお世話になりまして誠にありがとうございます。お打ち合わせの件、かしこまりました。当日は宜しくお願いします。
上司へのメール例文:システムエラーの件、かしこまりました。至急対処いたします。""
ビジネスメール・手紙においては、直接的な表現を避けるのがビジネスマナーとされています。また、「良かったです」は文章として書くにはカジュアルな表現であり、「よろしゅうございます」や「ようございます」も慇懃無礼な印象を与える言い回しであるため、別の表現に言い換えるのがよいでしょう。

例文:平素より大変お世話になっております。先日は、セミナーでお会い出来て光栄でした。よろしければ、今後の方針について打ち合わせさせていただきたく存じます。ご検討ください。

例文:お世話になっております。この度は、御社のプロジェクトのお役に立てたようで誠に喜ばしい限りでございます。今後ともよろしくお願いいたします。

例文:このたびの台風被害に際し、心よりお見舞いを申し上げます。幸い社屋に被害はなかったとお聞きし、安堵いたしました。一日も早い復旧をお祈りしています。
""お客様に、送付した証明書が手元に届いたら連絡をくれるようにとお願いするメール。「ご多忙中お手数をおかけしますが、当社より郵送した証明書が届きましたら、ご連絡賜りますようよろしくお願い申し上げます。」
社内での懇親会への参加の可否をたずねるメール。「営業部で懇親会を開催することとなりました。つきましては、今週中に参加の可否を幹事の○○まで、ご連絡いただきますようよろしくお願いいたします。」
施工を依頼した会社へ、工事の進み具合をたずねるメール。「先日依頼しました工事の件ですが、そちらは天候の悪い日が続いていると聞きました。お手数をおかけしますが、本日までの工事の進み具合をご連絡いただけますと幸いです。」
お客様に、見積り完了をお知らせするメール。「お見積りが完了しましたので、本メールに見積書を添付いたしました。ご不明な点などございましたら、どうぞお気軽にご連絡くださいませ。」
ウェブサイトの運営者に、品切れ中の商品の入荷を知らせてほしいと依頼するメール。「ウェブサイトで売り切れになっていた商品ですが、再入荷があれば購入したいと思っております。再入荷があれば、ご連絡お願いいたします。」""
ビジネスメールや手紙で、「来る」の尊敬語として「いらっしゃる」を使用する場合、例文は「当日は念のため、時間に余裕を持っていらっしゃいますよう、よろしくお願いいたします」「本日は弊社のイベントにいらっしゃいまして、ありがとうございました」となります。「おいで」を用いる際の例文は、「昨日、お客様が打ち合わせのためにおいでになりました」「当日はお気を付けておいでくださいませ」などです。「お越し」を使う場合、例文は「翌日、お客様がお越しになるそうです」「先日は遠いところまでわざわざお越しくださり、ありがとうございました」という風になります。

「お見えになる」を使った例文は、「お客様は急な予定が入ったとのことで、お見えにならないそうです」「お見えになりましたら、ご連絡いただければ、お出迎えに上がります」といった形です。「来られる」を使用するのであれば、例文は「急なお誘いで申し訳ありません。もし、来られましたら幸いでございます」「お客様は予定が合わないため、来られないそうです」のような形となります。
「読む」の尊敬語として「お読みになる」「読まれる」を使用する場合、例文は「先日お渡しした本は名著ですので、お読みになった方がよろしいかと存じます」「今回の企画書は読まれましたでしょうか」となります。そして、より強い敬意を示すために「お読みになっていらっしゃる」を使用するのであれば、例文は「先日お読みになっていらっしゃった本は、どのようなタイトルか教えていただけますでしょうか」「弊社のメールマガジンはお読みになっていらっしゃいますでしょうか」といった形です。「お読みくださる」を使用する場合の例文は、「長文となりましたが、お読みくださいましてありがとうございます」「お客様はすでに説明文をお読みくださったそうです」となります。
「着る」の尊敬語として「お召しになる」を使用する場合、ビジネスメールや手紙での例文は「先日お召しになっていらっしゃったお洋服は素敵でした」「寒さが懸念されますので、当日は防寒が可能な服をお召しになってくださいませ」となります。「召される」を使用するのであれば、例文は「お客様は翌日、紺のスーツを召されるとのことでした」「当日の会場でそちらの服を召されるのは、好ましくないかと存じます」などの形です。「着られる」を使用した際の例文は、「ご購入なさった服は、いつ頃着られますでしょうか」「激しい運動を伴いますので、動きやすい服を着られるとよろしいかと存じます」となります。
""「食べる」の尊敬語「召し上がる」は敬語なので、そのままビジネスメールや手紙にも使うことができます。「社長は、昼食を召し上がりました」「昼食は、会社で召し上がりますか」「時間がないので、社長は昼食を召し上がりません」などの使い方ができます。
得意先など社外の人に対しても、「昼食は、弊社で召し上がってください」「先日召し上がったお菓子は、弊社で製造しております」などのように使うことが可能です。

「わからない」を上司に伝える際の敬語表現

上司にわからないことを伝えなければいけないシーンは多いです。知っているときにはそのまま会話は流れていきますが、知識として知らなかったり、不明のときにはそのことを伝えて会話を切る必要があります。毎日顔を合わせている近い上司なら、「わかりません」でも問題は無いことが多いです。しかし、ある程度地位が離れた上司なら、「わかりかねるのですが」や「存じ上げません」などの、より丁寧な表現が適切です。 社内の人間関係なので、あくまでも円滑に会話を進めていくことが優先されますが、その中でも失礼にあたらないような心配りは必要になります。丁寧になりすぎない程度の敬語を使う方が、気持ちのやりとりもスムーズです。

「わからない」の敬語での誤用表現・注意事項

「わかりません」は、もともと失礼な言葉では無いのですが、使い方によって失礼な印象になることがあります。何かを聞かれたときに、「わかりません」とただ答えると、相手に対して否定的な印象を強く与えます。時間を割いて質問をしたり、説明をしたりしているのに答えが「わかりません」の一言では、全否定されたような印象を受けることも。「この部分がわからないので、もう少し詳しく教えていただけますか」や「今すぐには分かりかねるので、すぐに調べます」など前後に表現を和らげる言葉が入れば、極端に失礼な印象にはなりません。

「知らない」、「わからない」という否定的な言葉のみで返事を終えるのは、とても危険です。ぶっきらぼうな印象を与えてしまうので、前後の一言に工夫をしないと、失敗します。使える表現などを、会話の上手な人から学んだり、真似をすることで、言い回しをいくつか準備しておくと安心です。

「わからない」の敬語での言い換え表現

「わからない」や「わかりません」は否定的な言葉になるので、うまく敬語で言い換えるのも良い手段です。例えば今すぐ分からない状態なら、「至急確認をして改めてご連絡いたします」と言い換えればスマートです。「あいにく知見がございません。分かり次第至急の連絡とさせてください」とすると、もっと丁寧にわからないことを表現できます。 わからないことを相手に教えて欲しい時は、「不勉強なもので、申し訳ないのですがご教示ください」と言い換えれば、相手も気持ちよく教えてくれます。

ただわからない状態を伝えるだけではなく、確認してきちんと答えるという姿勢を、丁寧に述べると良いです。自分が知らないことを謝る言葉と一緒に、ぜひ教えてほしいという学ぶ姿勢を見せることで、意気込みや気合を表現することもできます。少し回りくどい言い方にはなりますが、相手に与える印象はぐっと良くなります。