「おかげさまで」の敬語表現
「おかげさまで」は、誰かの助力や協力に感謝の気持ちを述べたり、今ある良い状況に対して漠然とした感謝を述べたりするときに使われる言葉です。「おかげさまで」は「御蔭様で」と表記します。「蔭」とは神仏の加護を意味しており、もとはその力の下に守られていることへの感謝を示す言葉でしたが、しだいに利益や恩恵を与えてくれる人や状況へも感謝の範囲が広がって使われるようになりました。神仏の加護という本来の意味合いが薄れてきたこともあり、今では平仮名の「おかげさまで」と表記するのが一般的です。「おかげさまで」は文法上、名詞の「蔭」に尊敬の意味を持つ接頭語「御」と神仏に向けた敬称「様」がつき、格助詞「で」で原因・理由を表している形となります。言葉の中には「御」「様」などの尊敬表現が含まれており、敬意を込めて感謝を表すフレーズとして、これ自体で敬語表現が成り立っているといえます。
「おかげさまで」の敬語の最上級の表現
「おかげさまで」はこれ自体で敬語表現として成立していますので、最上級の表現に言い換えるとすれば、感謝の気持ちを向ける先に対して最も敬意が伝わる表現を工夫するようにします。たとえば「〇〇様には多大なるご尽力をたまわり、おかげさまで事業存続の道が開けました。感謝の念に堪えません」などと、直接名前を出したり、御礼の表現を重ねたりすることによって、敬意のこもった強い感謝の気持ちを伝えることができるでしょう。「おかげさまで」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
ビジネスメールや手紙など、「おかげさまで」の気持ちを文章にして相手に伝える場合には、直接的に利益や恩恵を受けたことへのお礼と、今の状況への感謝の気持ちという、二つの場面での使用例があります。利益や恩恵を受けた際の場面では「この度はご協力誠にありがとうございました。おかげさまで予定通り先方様への納品を完了させることができました」「先日は同行していただき、誠にありがとうございました。おかげさまで無事に契約をまとめることができました」などを例文としてあげることができます。また今の状況への感謝なら「おかげさまでスタッフ全員が元気に業務に邁進しております」「おかげさまで弊社も創立50周年を迎えることができました」などと使います。「おかげさまで」を上司に伝える際の敬語表現
「おかげさまで」という感謝の気持ちを上司に伝える際は、助言や協力をしてもらったことが成功につながったことを具体的に盛り込んで報告するようにします。たとえば商談が無事に成立したことを上司に報告する際、「課長のご助言のおかげで値引き交渉もうまくいき、無事に契約を結ぶことができました。ありがとうございました」などとすれば、感謝にあふれた上司への敬語表現とすることができます。この場合、「おかげさまで」をそのまま使用すると「課長のおかげさまで値引き交渉もうまくいき」という不自然な言い回しになってしまいますので、「おかげさまで」というフレーズを適宜「おかげで」と言い換えて、文意が自然に伝わるよう工夫することがポイントです。「おかげさまで」の敬語での誤用表現・注意事項
「おかげさまで」と似た意味を持つ言葉に「おかげで」があります。両者は混同して使われることがありますが、使い分けが必要なケースもありますので注意しなくてはなりません。まず「おかげさまで」は基本的に文やフレーズの冒頭につけることができる言葉であり、文中や文末に用いることはありません。文中や文末に置く場合は「おかげで」を使います。たとえば「先生のおかげさまで合格できました」「合格できたのは先生のおかげさまです」とは言いません。この場合は「先生のおかげで合格できました」「合格できたのは先生のおかげです」とします。これはなぜかというと、「おかげで」には、「~のために」「~によって」といった因果関係を示す接続詞的な働きがある一方、「おかげさまで」にはそれがないからです。「おかげさまで」は冒頭に置く言葉で、接続詞的には使えないため、文中や文末には置くことができないという点に留意しましょう。また、「おかげさまで」を「おかげさまをもちまして」と表現することがありますが、これは文法的に間違った表現です。「~をもって」は助詞の「で」に相当する助詞相当連語とされるものですので、「で」を「~をもって」に言い換えた「おかげさまをもって」という言い方は可能です。しかし助詞相当連語はこのフレーズをもって完結しており活用をしない言葉とされていることから、「~をもって」に丁寧語の「ます」を加えて敬語表現にした「~もちまして」は誤用になります。したがって「おかげさまをもちまして」という表現は言い方としては丁寧でも本来は誤った表現であるという点に注意しなくてはなりません。